5. fight
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ありがとうございました。
初の戦闘描写ですが伝わりにくいかもしれません
そこかしこから聞こえる金属の不快ながなり声、気合の入った騎士たちの咆哮。
外は爽やかな晴天だというのに、ここは随分と暑苦しいな・・・・・。
「ぅわー、すごい迫力だね」
気後れしている、という訳ではなさそうだな。中々図太い奴である。
騎士団の兵舎に隣接する巨大な修練棟の一室、俺たちは彼らの訓練に招かれていた。
模擬剣の衝突音を弾く無骨で頑丈な壁には大小様々な傷があり、物々しい雰囲気が漂っている。
「今日はシンヤ様たちがいらっしゃるという事ですし、騎士の方々も自然と気合が入るのでしょう。・・・・・あ、気付きましたね」
アリシア嬢の視線を辿ると、1人の女性騎士がいた。
腕を組み、訓練の様子を眺めていた彼女は部屋の入り口に立つ俺たちに気付くと騎士たちに静止の号令を掛けた。
空間の震えが収まり、静寂の中此方に歩み寄ってくる凛としたその姿。
「よく来たな、勇者殿。早速で悪いがここの者と少し手合わせしてもらえないか?恥ずかしながら訓練に勇者殿が参加するという話で皆浮き足立ってしまってな、冷や水掛けるくらいの気持ちでお願いしたい」
訓練用の軽装に身を包み、ブロンドの髪を邪魔にならぬようアップにまとめた見目麗しい女性騎士は言葉よりもまず剣で語り合いたいようだ。刃引きされた簡易な剣を差し出している。
「・・・・・分かりました」
すっかり『勇者』が定着してしまっているからなのか、真也は少し居心地悪そうに苦笑しながらも模擬剣を受け取った。
そして彼女は顔を綻ばせると騎士たちに向き直り
「さて、この中で勇者殿と手合わせ願いたいという者はいるか!」
室内が賑やかになる。
仲間同士でお互いけしかけ合う者、冗談半分で身を乗り出そうとする者ばかりで中々進み出る者はいなかったが、その集団から人の群れを割り同僚の声援を受けながら室内の中央に立った1人の騎士。
鋭い眼光を持つ、ガタイのいいその男は騎士たちの中でもかなりの猛者であることがその雰囲気と、周りの声援から察せられた。
「それじゃぁ、俺がお手合わせ願いますわ。勇者様」
「・・・・・よろしくお願いします」
集団の輪が自然と2人を取り囲むように広がり、再び訪れる静寂。
騎士は相手の喉もとに切っ先を向け、威圧感を放つ。
しかし、真也も職業軍人のプレッシャーに呑まれる事なく剣を低く構え、相手を見据える。
こいつは意外と荒事に慣れている。主な理由(十割)は女性関係で。
俺が巻き込まれることも多々、本当に多々あったがこいつは自分の問題だから、とキッチリ1人で事態を処理してきた。
だからちゃんと理解しているだろう、素人の自分が空気に呑まれたらその時点で負けだと。
別に周囲もこっちが本来戦闘などとは縁遠い一般人だと承知しているし、訓練なのだからそう肩肘張る必要はないのだが、生憎こいつは負けず嫌いであった。
ザッ・・・・・
騎士が摺り足で一歩、ゆっくり間合いを詰める。
まだ互いに射程には何もない。
ザッ・・・・・
更に一歩。
まだ。だが次の数十センチで剣術の勝負が始まるだろう。そこに真也の勝機は一割もない。
鍛錬を積めば目覚しい上達を見せる事は容易に予想できるが、まだこいつに剣術のスペックはない。今の真也が勝利するために考えられる要素は主に奇策、つまり相手の予想外の攻撃もしくは行動である。
相手の予想を超えられるか、否か・・・。
相手が最後の一歩を踏み込もうと動き出し、僅かに重心が後ろの足に残るその瞬間・・・・・
・・・・・ザッ!
「なっ!」
一気に縮まる間合い。真也のとったアクションは単なる突進。
相手にとってもこの行動は予想外ではない。だが予備動作は最小、初速は最大。慎重に測っていた間合いを一瞬で殺した真也の運動能力は予想以上だったのだろう。
騎士が驚愕したのも一瞬。だがそこが勝負の境界だった。
互いの振るう剣が火花を散らし、踏み込みの遅れた騎士がやや仰け反る。2合目には間に合い、修正できるタイミングだった。しかし・・・・・
「ッガァ!!」
鋭い「蹴り」が騎士の胸元に突き刺さり、その大きな体躯が宙に浮いた。
剣の勝負ならあそこから持ち直せただろう。だが得物より回転の速い蹴りで吹き飛ばされた騎士は、石柱に衝突し気絶してしまった。
ォオオオオオオオオオ
周りの騎士たちがどよめき、指揮官らしき女性騎士は「ほぅ・・・」と感嘆の目で真也を見ていた。
アリシア嬢はなぜか自慢げに胸を張っている。
「うわっ、思いのほか飛んじゃったよ。大丈夫かな・・・・・?」
「障壁が働いているんだ。あれくらいなら内臓が傷ついたり、重傷になる事はないだろう」
言いながら、女性騎士は真也の方へ進み出ていく。
「?」
「魔力障壁、ですね。人体を包む魔力の鎧で防衛本能に刺激されて発動する、言葉と同じく無意識レベルで操れる魔術です。ただ、一般的にはそこまで防御力が期待できる訳ではないので騎士の方は実際に鎧を纏うのがほとんどでしょう」
真也が新出単語に首を傾げるのでアリシア嬢が丁寧に説明してやっていた。
城でよく見かける騎士たち。
彼らの鎧は俺のイメージする厳つく鈍重な鎧よりも大分シャープな形状で機動性が高そうだったので防具としては心許ないのでは、と思っていたが魔術で補っているのか。
・・・・・いつの間にかすっかり魔術とやらを容認している自分が末恐ろしい。
まぁ郷に入っては郷に従え、か。
「しかし驚いた、冷や水掛けられたのは私の方だったな。勇者とはいえ素人と侮っていたのかもしれない、反省する。・・・そこで、だ」
「ん?」
向き直る真也の顔に突きつけられる模擬剣。そして真っ直ぐな視線。
「私とも仕合ってくれないか?勇者殿」
数分後、真也は得物を槍を模した鉄製の長物に持ち替え女性騎士と相対していた。
彼女は細身の模擬剣を正面に構え静かに佇んでいる。
「・・・何故シンヤ様は武器を取り替えたんでしょうか。剣でも槍でも不慣れなのに変わりないのでは?」
アリシア嬢が疑問を口にする。
確かに、真也は剣術をやっていた訳でも槍術をやっていた訳でもない。分が悪いのに変わりはないだろう。
「剣と槍の最も大きな違いはリーチだろうな。槍は中距離を保っていれば勝率は上がるが懐に入られてしまえば終わり、こんなところか」
「そうですよね。彼女に初心者の技が通じるとは思えませんし、やはり付け焼刃なのでしょうか・・・・・」
しゅん・・・・・、と口惜しそうにしている。
「だがそれは剣対槍の勝負である、と前提した時の話だ」
「え?」
「先程の勝負、真也の勝因は?」
ぁ、と目を見張るアリシア嬢。
「おそらく真也は槍で勝負するつもりはないんだろうな。相手が自分の懐に飛び込んでくる時、当然一気に踏み込んで一撃で勝負を決めにくる、その時既に自分は槍での攻撃は考慮せず足技で迎撃にでている。あとはどっちが速いのかで勝ち負けが決まる。これで五分、とまではいかんだろうが勝機はできるだろう」
相手の女性騎士もその策は見通しているだろうが踏み込まなければ勝ちようがない。
あとはどれだけ槍先で相手のタイミングをずらせるか、だな。
「では、行くぞ・・・・・!」
「・・・いつでも!」
2人が同時に動き出す。相手が駆け出し接近戦を試みる、が・・・。
キィン・・・・・!
真也はバックステップで後退しながら槍を振るい、細身の模擬剣を払いのける。
男女の体格差もある。簡単には潜り込めないだろう。
しかし彼女は追撃、そしてさっきよりも速い。
「ぅっ・・・」
その緩急の変化になんとか付いていき、再度相手を射程外へ追い出す。
立ち位置を入れ替え、流れを変えながら数合打ち合うがやはり流れは向こうか・・・。
「シンヤ様・・・・・」
アリシア嬢も心配そうな面持ちで眺めている。
「・・・・・・・意識の奥・・・汲み上げる、イメージ・・・・・湧き上がってきたら次は・・・・・」
真也が右手を見つめながら何やらブツブツと呟く。
「余所見は関心しないぞ!勇者殿!!」
それを好機と見て彼女が更に速度を上げて迫る。
・・・ゴゥッ
次の瞬間、真也の掌から「炎」が湧き上がり・・・・・。
「これを、・・・・・・・捻り出すっ!!」
「!」
室内に響く破砕音。
真也の放った炎弾は壁にぶち当たり消失したが堅牢な石壁は窪み、煙を上げている。
「・・・・・こいつは、あれか。炎属性のなんとかって」
「え、ええ、それで合っていると思います。けれどまさか、昨日の今日でこれ程だなんて・・・・・」
「昨日?」
「はい、昨日アヤト様のお部屋にお邪魔した後、少しシンヤ様に魔術の講義を頼まれまして・・・。ほんの少し前まで魔術の事、知らなかったのにいきなりこの威力。やっぱり才ある方なんですね・・・・・」
マンツーマンて。何気に疎外感を感じるな・・・・・・・事実か。
言ってる間にも流れは動いていた。
真也が魔術をここまで使えるとは思ってなかったのだろう。相手、女性騎士は連続する炎弾に切り込むタイミングを計りかねていた。
魔術自体は大した脅威ではない、炎弾は単なる牽制。
問題はいかにして炎弾を避けつつ槍の狙いを外すか・・・・・。
その時。
「あれ?ちょ、ちがっ、でかっ!」
なにやら力の加減でも間違えたのか、一際大きな炎弾が現れる。
「く・・・・・っそ!」
それをヤケクソ気味に投擲。勿論当てる気はないのだろう。しかし・・・・・
「なっ!?」
外して撃ったはずの炎弾の直線上に敵影。
真也は焦って手元が狂ったのかと硬直しかけたが、即座に槍を手放す。相手は既に炎弾を置き去りにして、目の前に迫ってきていた。
「ハァアアアアッ!!」「ォオオオオオ!!」
炎弾が爆ぜ、轟音。そして・・・
「ぐ!!」
2,3メートル飛んで地面に叩きつけられたのは、勇者。
深く呼吸し息を整えながら大の字になっている。
一方の女性騎士はじっと手元を見つめていた。あの瞬間の真也の蹴りが、自分ではなく武器狙いだったのだと気付き、難しい顔をしている。
やがて彼女は僅かに呆れ顔になり、真也に向き直り手を差し出した。
「第5師団長、レオナ・エリアルだ。今後、私に対して女だからって加減したら引っぱたくからな?シンヤ殿」
「えーっと、善処します?」
「どうやら打ち解けたようだな」
「ええ、そうですね。本当に、良い雰囲気ですね。ウフフフフフ」
迂闊。
俺としたことが、妙なスイッチを押してしまったか?
「あらあらあら、まぁまぁまぁ。レオナちゃんったら肩を貸してあげたはいいものの、すぐ隣にあるシンヤ様の横顔と汗の匂いに頬を赤らめちゃったりして。本当に可愛いですねぇ、もぅ。フフ、ウフフフフフフフフフフ」
「・・・・・・・・・・」
隣の王女から溢れ出す禍々しいオーラをどうしたらいいんだろうか。
・・・・・放置でいいか?
「ねぇ、アヤト様?」
「なんですか、アリシア嬢」
思わず敬語がでてしまった。
「元いた世界でのシンヤ様の女性関係について、聞かせて頂けませんか?」
「・・・・・御意」
すまん、真也。