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4. セカイに住まう人々


「しっかし、広い部屋だよねー」



「?・・・お前の部屋もこのくらいなのか?」



「そうだけど、それがどうかした?」



「いや・・・・・」

このスイートルームのような客間よりも更に1ランク上があるのか、と驚愕していたがこいつの方も似たようなものだったのか。






国王との謁見の後、俺たちはそれぞれの客間に案内された。



そして俺にあてがわれた部屋には現在、勇者こいつが訪れている。






「それより、よかったのか?」



「あっさり引き受けちゃった事?」



「あぁ・・・・・」

主語を抜いてもすぐに言い当てられた。こいつもいろいろ考えていたのだろう。



「うん。話を聞いてて、この国の人たちを助けたいって気持ちは強くなったし。それに元の世界に帰れないっていうなら、少しでもここの人たちと協力的になった方がいいんじゃないかな、て思って」


この男は馬鹿だが、頭はいい。これは別に皮肉などではない。


こいつはただ、人間的に利口になりきれないだけなのだ。


だから異邦人である自分たちが、これからこの世界でどうすれば野垂れ死にせずに済むのか、それくらいはちゃんと考えていたらしい。




「むしろ文刀の方こそそんな曖昧な受け答えで大丈夫かな、って思ったんだけど・・・・・」


俺もこいつの友人として、魔王打倒のサポートを頼まれた。まぁ余計なオマケは勇者と一元管理できた方が助かる、という腹だろうが。


俺はその申し出に対し、当初の言葉通り返答は保留という事でその場は流した。



「む、それは心外だぞ。いつも女性からの求愛をのらりくらり、のお前に言われたとなると。せめて慎重に様子見を選択した、と言ってもらおうか」



「ちょ、ちょっと文刀!今その話は関係ないでしょ!」



「いや、そうとも言い切れんぞ。このまま元いた世界に帰れないとなったら、彼女たちの気持ちはどうなる?それに魔王を倒し、国を救ったとなれば、それは英雄になるということだ。英雄は人々に求められる。お前はその人々の願いを、断れるか?」



「ぅ・・・・・」

その点には、そこで初めて思い至ったのか。苦しげに言葉を詰まらせる。


つくづく自分に向けられる好意には疎いやつだ。




「・・・・・・・それでも俺は、困っている人たちを助けたい。ここだけは、曲げられないよ」

愚かだ、と。そう思った。


純粋に他人を気遣う心は自分自身を滅ぼす。



そして、今の台詞を聞いてそんな感想を抱く自分は本当に捻くれている、とも思った。


こいつは他人の笑顔に救われているのだから・・・・・。




「そうか。まぁ、好きにするといいさ。どの道まだ帰れる見通しは立ってないしな」

俺は、心のどこかでこいつの人間性に憧れのような感情を抱いているらしい。


どこかで失くしてしまった、大事なモノ。それをこいつは今も大事に持っている。


だから羨ましい、嫉ましい、そんな気持ちはあっても、持て余してはいない。諦念、だろう。




「うん、そうさせてもらうよ」

どうせこっちでも直に一城《1ハレム》築くだろうしな。







その時、扉からノックの音。



「どうぞ」



「失礼します」

訪問者は、アリシア嬢だった。



「シンヤ様、アヤト様の部屋にいらしたのですか。探しましたよ」



「アリシア、俺に何か用事?」



「ええ、シンヤ様には明日、腕試しも兼ねて騎士団の方の訓練に参加していただきたいんです。アヤト様も、もしよろしければ・・・」

王女は、なんとも微妙な立場な俺の扱いに戸惑うようだ。



「うん、了解。どれだけできるかわからないけど・・・・・」

即答。まぁ、こいつならあっという間に順応するだろう。



「俺は見物だけ、でいいだろうか」



「構いませんよ。それと、折角お二人ともいらっしゃるようですから、この世界について何かご質問があれば承りますが・・・・・」



「そうだね、いろいろ、あり過ぎるくらいだけど・・・」

多すぎて何から聞いたものか、といった感じだ。





「先程、謁見の間に同席していた巨大な武官は?」

記憶に新しい映像を思い出す。


天井を圧迫するような巨体、浅黒い肌、右目は眼帯に覆われていた。


まるで、ギリシア神話に登場する一つ目の巨人『サイクロプス』といったところか。



「クロヌス師団長のことですね。彼は七つある師団の一つ、第3師団の師団長を務める巨人騎士タイタンです。クロヌス様の身長は6メートルを超え、平均身長5メートル前後といわれる巨人族のなかでも、群を抜く大きさだそうですよ」




アルカディア南部平原の常識を超えた巨体をもつ遊牧民、それが巨人族だという。



巨人族の他にも、西部の山村で狩猟を主に生計を立てる獣人族。



その山村を更に西に行くと、鍛冶を得意とする小人族がいる鉱山地帯らしいが、小人族はあまり人族と関わらないそうだ。




「そして東部は港町が栄えており、アルカディア経済の中心の一つとなっています。この国には獣人族、巨人族、小人族、そして人族の主に4つの人種が暮らしています。細かく言えば、獣人族には様々な派生があるのですが・・・」



おおよそ把握したが、なんとも王道、テンプレ、といったところである。


半ば呆れながらも、もう一つ重要な種族がいることを思い出す。





「・・・・・じゃぁ、魔人族って?」

これから、自分が戦う事になるであろう相手の事だからか、少し緊張しながらも真剣な表情。



勇者の真剣な眼差しに、王女も真っ直ぐな視線を返して答える。

「はい、先刻もお話したとおり、魔人族は主に北の帝国に住む人種です。姿形に人族と大差はなく、容姿の特徴はやや耳が尖っているくらいです。そして魔力素養の高い者が多く、魔物を使役できるといわれています」



だが正直、魔人族の事はよくわからないのだという。



「そっか・・・・・」

やや落ち込んでいる。



「申し訳ありません、お役に立てず・・・」



「いや、十分ためになったよ。ありがとう、アリシア」

気を取り直したように言う。



「どういたしまして。・・・・・ところで、話は変わるのですが」



「うん、何?」



「アヤト様のその、お顔に掛けられている物は眼鏡、ですか?」



「?ああ、そうだが、それが何か?」

国王との謁見の際、文官たちのなかにも眼鏡を掛けている者はいた。この世界にも眼鏡はあるようだが・・・。



「いえ、ほんの些細なことです。お二人の特殊な服装が目立つ中で、その眼鏡の形状も少し変わっていて目を引いたので・・・」



元いた世界では普通なんだが、確かに文官たちのものは一昔遡ったような丸眼鏡だった気がする。





「そういえば俺たちの格好、この世界じゃ大分不自然みたいだね」

確かにこの世界は、俺たちのいた世界でいう中世ヨーロッパの雰囲気が強い。


そこに突然現代の高校ブレザーが湧いてきたら、かなりおかしなことになるだろう。





空気になりきるために掛けていた伊達眼鏡もこれでは逆効果か・・・・・、はずした方がいいな。

「アリシア嬢、お手数掛けて申し訳ないが俺たちにここでの普段着、のようなものを用意して頂けないだろうか」



「・・・・・・・・」



「・・・・・・・・」



「・・・・・アリシア嬢?」



「あ、いえ、申し訳ありません。少し驚いただけです。直ぐに用意させますね」

慌てて侍従を呼びに行くアリシア嬢。



「・・・・・そうですよね・・・。シンヤ様のご友人ですものね・・・・・」

何か一人で納得するかのような事を呟いて行った。






「・・・どうかしたのだろうか」



「・・・・・・・・そういえば俺って文刀の素顔、見たことなかったんだ・・・・・」

こっちは何やら落ち込んだ様子だった。








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