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3. 王





「じゃぁ、あの時の声はアリシアの?」



「はい、召喚魔術において最も重要なのは対象にこちらの存在を気付かせることだと云われています。そして今回の召喚魔術は私を中心に発動しましたので、シンヤ様には私の声が届いていたはずです」






国王に顔見せするのでついて来いと云われ、その道中-----道中とは言っても王城へは直通の地下通路であったが-----。



真也は王女に是非自分の事は呼び捨てにしてくださいと頼み込まれ、承諾し、現在いろいろと質問していた。


俺はもちろん蚊帳の外である。その方が助かるが。






「そういえば、俺たちは今普通に言葉が通じているけど。全く違う世界から来たはずなのに、これは一体・・・・・」



「シンヤ様の世界ではどうだったのかわかりませんが、この世界の文明は魔術と共に発展してきました。----------『言葉ことのはとは、人が最初に会得した魔術である』。これはある魔術研究家が遺した文献の一節ですが、現在ではこのような考え方が定説ですね。この説から様々な人種間でも意志の疎通が可能なのだ、とも言われています」


本当に便利というか、都合が良すぎるというのか。



「え?じゃぁ何、俺たちは既に魔術を使っているって事?」



「そういうことになりますね。素養に個人差はありますが魔力は万人が保有しており、日常生活でも頻繁に使用されます。召喚などの複合魔術を使用する際は『魔術師』、などと大袈裟な呼び方もされますが、本来はもっと身近なものなんです」



「複合魔術?」



「召喚のような大魔術を使用する際は、膨大な魔力を得るために大勢の魔術師が必要となります。しかし、本来魔術とは一人で使用するものなんです。個人で使った方が想い描いた術をそのまま発動できますし、圧倒的に効率がいいんです。それが複数人で使用するとなれば、それぞれのイメージの誤差から術全体に影響を及ぼしてしまうんです」



「でも、さっきは大勢の魔術師がいたみたいだけど・・・」

神殿には王女の神官服と似たようなローブを纏った者が十数人いた。


今も俺たちの前後に数人護衛として付いている。彼らがただの見物人だった訳ではないだろう。



「ええ、ですからその誤差を修正するために詠唱や魔術式は用いられるんです。術式という設計図を描き、詠唱によって組み立てていく。そうして一人一人に共通の魔術構想を持たせることで、複合魔術は実現できるんです」



「結構大変そうだね、何人か倒れていたみたいだし・・・・・」



「もともと、大量の魔力が必要になることが複合魔術の前提ですからね・・・。しかしそれほど心配はいらないと思いますよ?一時的な魔力枯渇というのは貧血のようなものですし、症状によりますが数日で回復されるでしょう」

真也はどうやら、自分を拉致った者の体調を気に掛けているらしい。


本当にお人好しな・・・。まぁそれも勇者の器というものなんだろう。



「アリシアは?体、平気なの?」

不安げな子犬の瞳。そこらのむさい野郎がしても気色悪いだけだが、やはりこいつにはイケメン補正がかかる。



「っ、平気ですっ!・・・・・・・・ぃ、いえ、すみません、やっぱりちょっと、足元がふらつくかもしれません・・・・・」



「だ、大丈夫!?辛いなら肩貸すよ?」



「申し訳ありません、お願いできますか・・・シンヤ様」

どうやら王女は中々の策士らしい。



寄り添い歩くその姿、本当に絵になる2人だ。



いちゃいちゃ、と耳障りな擬音が聞こえてくる。




俺は耐性があるから無事だった。


しかし、濃厚な桃色の瘴気にあてられてしまった護衛たち。彼らはヒクヒクと口元を引き攣らせ、死んだ魚のような白く濁った目で歩いていた。





















眼前には巨大で、重厚な扉。




「失礼します、国王様。アリシア・アルカディア、アルビオン神殿より勇者様をお連れしました」



「入れ」

雰囲気のせいもあるのだろう、ずっしりと質量のある声が響いてきた。



重い扉がゆっくり開き、謁見の間に入る。






中世ヨーロッパを想わせる内装は精練されており、そしてそこには嫌味ったらしい程の豪華さはない。


壁側にはおそらく幹部級であろう数人の武官が控え、玉座の側には文官たちが並び、全員の視線が俺たちに集中している。


しかし、その視線も忘れる程衝撃的だったのは壁際の大きな人影。



大きいとかいう次元ではない。武官であろうその人影は目算、5,6メートルはあった。


召喚勇者も目を丸くして言葉を失っている。







リアクションのとれない俺たちに、玉座から先程の声が掛かる。


「アルカディアへようこそ、異界より来た客人よ。既に報告は聞いている。勇者と、その友人だな?」



はっ、として向き直る。

「は、はい。異世界の、日本というところから来ました。シンヤ・シシドウです」



「同じくアヤト・タチバナ」

まぁ、俺の方は気にしてないだろうが。



「うむ。大方の説明はアリシアから聞いているはずだが、魔物の被害は何も北に限った話ではない。各地でも被害は日に日に広がり、国民の不安も増している。魔国との国境地帯は常に厳戒態勢であり、小さなきっかけ一つで戦端が開いてもおかしくない状況だ」



魔国が魔物を操っているという確証はない。だがそれ以外に考えようがないという。



魔国の民はほとんど魔物に襲われたことがないというのだから、神国民がそういう考えに至っても無理はない。



今の両国間の緊張状態では対談はリスクがでかすぎるらしい。



この国の実質の軍隊である王国騎士団、その勢力は魔国軍に優る。が、しかし魔王という存在がそのパワーバランスを予測不能にしてしまう。



魔王の力は全くの未知数。それが何故こんなにも危険視されるのかというと、魔王はその昔、世界最強の生物『龍』を倒したと伝えられているのだそうだ。



「龍については諸説ある。魔王がそれを倒したというのも言い伝えでしかない。しかし魔国は実力主義の世界、魔王が強大な存在であるのは疑いようもない事実なのだ」






成程、魔王という不確定要素に足踏みする現状、その魔王を打倒するために立ち上がった勇者。典型的な英雄主義ヒロイズム-----兵の士気向上には分かりやすい図式だな。



理不尽な政治的判断・・・・・・・。だが良い為政者なんだろうな、とも思う。


この国を守る為に犠牲を払う覚悟もある、優しいだけの指導者ではない。忠臣も多いだろう。



無関係の者を巻き込みながらも、堂々たるその姿。・・・・・・・・これが、『王』という存在か。











そして、国王は玉座から立ち上がり、悠然とこちらを見下ろしながら告げる。


「我が名はアレス・アルカディア。アルカディアに住まう数多の民草、その命を預かる者として申し出る。勇者シンヤ・シシドウ、貴公にはこの国の未来を脅かす魔王を、打ち倒して貰いたい----------」








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