表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2. リスタート



意識が浮上する。






最初に感じたのは冷たい石畳の感触だった。




静かに瞼を押し上げ、上体を起こす。



目に映るのは石の壁に等間隔で並ぶ松明の灯り。



しかし、その炎も大質量の暗闇に覆われ弱々しく揺れている。






・・・・・地下室、だろうか。



冷たく薄暗い現在地を推測する。



随分、広い空間だと感じた。松明の灯りは霞んで見えるし、天井もかなり高そうだ。




そしてその空間の中央、祭壇のような石積物の上に俺はいた。







「・・・・・・・ぅ」

背後で呻き声が上がる。



「ぅう、・・・・・・・あ、あれ?俺一体」



「おはよう、気が付いたか」



「ぅわっ!・・・ぁ、ああ、おはよう・・・」

情けない声を上げたのを恥じたのか、小さく返してくる。



「えっと、ここ・・・・・どこ?」

気が付いたら全く憶えのない場所にいた、などという経験はそうそうないだろう。

こいつの疑問ももっともである。




「知らん。こういうときは事情を知っていそうな人間に聞くといいんじゃないか?」



「え?」



立ち上がり、周囲を見回す。











ぐるり、と祭壇を取り囲む影があった。



隣で息を呑む気配、慌てて立ち上がったようだ。



影は俺たちが目を覚ます前からそこにいたのだろう。



皆一様にフードを目深に被り、長くゆったりした外衣-----ローブ、というのだろうか-----に身を包んだその姿は影法師そのものだった。







その中から1つの影がこちらに近づいてくる。




「目を覚まされましたか?」

フードを取り、松明の灯りに素顔を晒しながら問いかけてくる。澄んだソプラノだった。



「ああ、うん。えーと、君は?」











わたくしはアルカディア王国第1王女、アリシア・アルカディアと申します。」


少女は、美しかった。


同じ年頃だと思われるその姿には、この薄暗闇の中でも光を放つような、どこか神々しい雰囲気があった。


背中まである亜麻色の艶やかな髪は毛先で緩い波を打ち、同色の大きな瞳は穏やかな笑みを湛えている。





「俺は獅子堂真也っていいます。えっと、アリシアさん?その王国って・・・いや、それよりここは一体」



「はい、ここは王都アルビオンの地下に位置する神殿です」

聞いたことのない地名。しかし彼女の声にも表情にも嘘を言っている気配はない。



「お、王都?・・・あの、すいません、俺たち日本にいたはずなんですが・・・」







すると彼女は少し顔を俯かせ、謝罪した。

「・・・・・申し訳ありません。私たちが、貴方がたをここにお連れしたのです」



「アリシアさんたちが?でも、どうやって・・・・・」



「はい、召喚の魔術を使用させていただきました」












「・・・・・・・・えっと」

どうしたものか、と助けを求めるような視線を俺に寄こしてきた。









地下神殿、聞き覚えのない地名、召喚魔術、か。



流石にいきなりそんなことを言われてもな・・・・・。



だが脳に直接響く声といい、あの時の光の紋様といい、俺の持ち合わせる常識では処理しきれん。



では仮にその話を信じるとしたら?これは、まさかあれか・・・・・




いや、とりあえず話を聞いてからでも遅くはないはずだ。











「アリシア嬢、その王国についてもう少し詳しく、それと俺たちが召喚された理由について聞いても?」



「え、ええ。そのですね・・・」

彼女は俺から声をかけられるとは思ってなかったのか、それとも言いづらいことなのか、言葉に詰まり目を伏せる。








そして意を決したように俺たちを見据え、語り始めた。
















アルカディア王国。


神国、などとも呼ばれるそうだ。



14代目国王、アレス・アルカディアが治めるこの国は、大陸の中でも有数の大国でありながら現在も人口や経済は成長中だという。



しかし近年、魔物による被害が急激に増加しており、経済、国交、様々な面で差し迫った状況だそうだ。











「ナマモノ?」



「・・・・・苦しいんじゃないかな、その聞き間違え。一瞬意味が通りそうな気もしたけど」

む、人が必死で現実逃避してるというのに血も涙もないやつだな。




アリシア嬢に至っては苦笑いだけで続きを話し出す。

「え、えっと、魔物の襲撃による被害というのはずっと昔から散発的に起こっていたことなのですが・・・・・」






神国の領土は広く、王都から遠い街や村などは年に数回、魔物の被害を受けていたそうだ。



もちろん、各地でそれなりの警備体制は整えてあったという・・・・・。



しかし最近では魔物の襲撃が頻発、死者も相当数でており、村を手放さなくてはならない者たちもでてきたらしい。



そして、それは王国の北の地域で集中して現れた現象なのだと。




「なんで北?」

人々の被害状況を聞いて気持ちが引き込まれてきたのか、この色男はやや前のめりで問う。



「北の大地はもともと魔物が多く生息しています。そしてその大地を統べるのは・・・・・魔人族」








エルヴァン帝国。


通称、魔国。



領土は神国に匹敵し、魔人族は人口こそ多くはないが北に溢れる魔物を使役している、と言われているそうだ。



そして長きに渡り、神国と対立してきたという。











・・・・・これはもう、認めるしかないのだろうか。




「近年の魔物の活性化は魔国による攻勢である、というのが神国の一般的な見解です。そして、アルカディアの民を守るため、エルヴァン帝国皇帝-----魔王-----を討つために私たちは・・・・・」



「異世界より勇者を召喚した・・・・・か?」

自分で口にした瞬間、認めてしまった気がした。



「はい、仰るとおり・・・・・なんですが・・・」

困惑の表情が深くなっていく。



「その、召喚する勇者様はお1人のはずなんです・・・・・」



「それなら、その勇者というのはこいつのことだろう」



「ちょっと、結論早い!明らかに全部俺に丸投げする魂胆だよねそれ!」



無論だ。

「そもそも魔術?の光は真也を中心に広がっていたし、夢での呼び声とか前兆らしきものもあったみたいじゃないか。現状、召喚対象はお前だったと考えるのが自然だ」



「ぐ・・・」

二の句も次げず、撤退を選択したようだ。



「魔術式が現れていたというなら、そう考えて問題ないと思います。しかし、では、その・・・・・貴方は?」



片方だけ名前を聞いていないのが気まずかったのだろう、遠慮がちに聞かれる。



俺もすっかり自己紹介を忘れていた。相手が一国の王女なら中々無礼な真似をしてしまったのではないだろうか・・・・・。







橘文刀たちばなあやとだ。橘が家名であるからこちらに合わせていうならアヤト・タチバナか。俺が付いてきたのは召喚の瞬間、こいつと接触していたのが原因ではないかと予想している」





「成程、そういうことでしたか。2人はご友人、でしょうか?人払いの魔術が効かなかったとなると、なにか特別なご用事でも・・・」



「うん、そうだけど人払いって?」

俺もそうだがこいつは相手が王族である、と意識しているのだろうか。



まて、人払い・・・・・?



「はい、召喚の際に周りの方々に気付かれないようにと。一種の幻覚魔術のようなものなのです」



・・・あの時の違和感はそういうことか。


元々人通りの少ない路地、人っ子一人いなくてもなんら不思議な場所ではなかった。しかし気付くべきだったのだ、-----生物が自分たち以外に全く存在しないという異常に。




「うーん。一緒に下校していただけだし、特に用事もなかったけど・・・」



「そう、ですか。もしかすると、対象が異世界だから効果が薄かったのかもしれません。人払いとはいっても所詮は幻覚、強制的な力はなにもありませんし・・・」











「まぁ、話の大筋は把握した。で、だ。一応確認のために聞いておくが、俺たちは元の世界に帰れるのか?」

回答内容は全く期待せずに問う。






「申し訳ありません。私たちに貴方がたを元の世界に帰す術はありません」

2度目の謝罪は力強く、毅然としていた。


自分たちがしたことの身勝手さを理解しているのだろう。


その上で相手と真正面から向き合うその姿からは、人の上に立つ者の覚悟が伝わってくる。








「だとさ、お前はどうする?真也」



「どうもこうもないよ、文刀」





勇者は一歩王女に歩み寄り、告げる。



「困ってる人に助けて、って頼まれたんだ。俺は馬鹿だからそんな人を見過ごしたりは、できないんだ」

王女の、動揺する気配がした。



「そうか、俺は保留だ」



「ハハ、文刀ならそう言うと思った」





「・・・・・他に、言う事はないのですか?」



「言う事って?」

王女の言わんとすることが本当にわからんのだろう。確かにこいつは馬鹿だった。



「・・・・・いえ、何でもありません」

どんな罵倒を浴びせられるのか身構えていたのかもしれない。


王女は俺たちの気軽い空気に戸惑っていた。






「?・・・まぁ何でもないならいっか?じゃぁこっち流に改めて自己紹介。俺はシンヤ・シシドウ、好きに呼んでよ。よろしくね、アリシアさん」

ニカっと、最高に爽やかな笑顔を見せると幻聴だろうか、古典的な銃声音が聞こえた。



「っ・・・、はいっ、よろしくお願いします。シンヤ様・・・・・」

頬を朱に染めて言うアリシア嬢。







1人目は王女か・・・流石だ、勇者よ。



どうやらこの男は、異世界で領土拡大《ハレム増員》を再開したらしい。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ