表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

#3|日常→非日常

「お前、同じクラスの来宮(きのみや)だろ。来宮里玖(きのみや りく)


 メイドの恰好をした僕は今、同じクラスの『陽キャ集団』の一人である水瀬慧都(みなせ けいと)に、正体がバレようとしている。水瀬(みなせ)に引き止められた腕から、全身の血が冷えていく感覚がする。


「それは、どちら様でしょうか?」


「おい、とぼけんなよ。無駄だぞ」


僕なりに精一杯他人の振りをしたのに、それもバッサリ切られてしまった。

 すると、水瀬(みなせ)は僕から手を放して、スマホを操作し始める。


「そこまで認めないなら、クラス中に広めるしかないよなー」


 水瀬(みなせ)はクラスのグループトークにメッセージを打ち込み、あとは送信ボタンを押すだけで拡散される一歩手前の画面を見せびらかしてきた。


「は、ちょっ……!?」


僕は阻止しようと必死に手を伸ばすが、水瀬が背伸びをするせいでギリギリ届かない。

 もうどうなってもいいやと諦め、僕は大きくジャンプをして強引にスマホと奪い取ると、机に強く押し付けた。


「ダメ」


息を荒らしながら、水瀬(みなせ)を睨みつける。


「その反応は、認めたってことでいいんだよな?」


「認めるので広めるのだけはやめてください。お願いします」


偉そうに足を組んで座った水瀬(みなせ)に、僕はプライドを捨てて深々とお辞儀する。


「何? 二人とも友達だったの?」


 一方水瀬(みなせ)の友人は、呑気に水を飲みながら話しかけてきた。どこの何を見てそう思うんだよ。どう考えても、カツアゲされてる店員と客みたいなもんだろうがよ。


「そーだよな、里玖(りく)ちゃん?」


水瀬(みなせ)は何かを企んだような笑顔で僕に肩を組み、顔を近づけてくる。その表情からは、「拒否するな」と言われている気がする。


「……はい」


 僕は『陽キャ集団』に抗えるわけもなく、首を縦に振ってしまった。




 店の端に戻った僕の顔がげっそりしているように見えたのか、体調を心配した別のメイドがレジと代わってくれた。

 そして、水瀬(みなせ)達の会計を終えて、やりたくもないお見送りをする。


「ありがとうございました」


「おい、来宮(きのみや)


水瀬が急に近付いて来て、僕の耳元に口元を寄せる。


「可愛かったよ」


 僕の目の前は、一瞬にして絶望一色となった。その日はずっと、その声と嘲笑(あざわら)った水瀬(みなせ)の顔がこびり付いていた。

 ああ。明日の学校、休もうかな。





 次の日、教室に入るとすでに『陽キャ集団』が来ており、他の男女も混じりながら談笑していた。僕の席は窓側の端っこの方で、前でも後ろでもない中途半端な席。

 真ん中の後ろで集まっている『陽キャ集団』を回避するために、僕は前方の入り口から侵入して、なるべく距離を取りながら通過する。


来宮(きのみや)


 すると突然、水瀬(みなせ)から名前を呼ばれる。その瞬間、一気に静まり返り、クラス中から視線が集まった。胃が痛くなりそうだ。


「はい」


僕はお腹を抑えながらゆっくりと水瀬(みなせ)の方を見ると、昨日と同様に嘲笑(あざわら)った顔をしている。


「昨日のさ」


あ、これ多分、バラされるやつだ。


「ち、ちょっと!」


 僕は無心で『陽キャ集団』の中に入り、気が付くと水瀬(みなせ)の口を手で塞いでいた。

 我に返った瞬間、一気に顔が真っ青になり、鼓動が激しくなっていく。

 僕は居た堪れなくなり、水瀬(みなせ)の手首を掴んで教室の外へ連れ出した。




「言わないんじゃなかったのかよ!」


 僕は連れてきた空き教室で、目の前の水瀬(みなせ)に向かって大声を上げる。走ったせいで息も荒れていて情けないが、水瀬(みなせ)にバラされる方がよっぽど嫌だった。

 すると、そんな僕を見下して、水瀬(みなせ)は鼻で笑う。


「何のことだよ」


「は?」


「昨日の友達の話だよ。お前、美術部だったんだな」


僕を、からかったんじゃないのか。一瞬、舐められたのかと怒りの線が切れそうになったが、ホッと胸をなでおろす。


「そうだけど?」


僕は少し不貞腐れた返事をする。


「あいつも美術部だったからお前のこと知ってたぞ。上手いってちょっと有名だったって」


あの呑気に水を飲んでいた彼、僕のことを知っていたのか。

 店では申し訳ないことをしたなと少し反省すると同時に、水瀬(みなせ)がクラス中に僕の秘密を拡散するんじゃないかと疑ったことにも罪悪感が増してくる。


「何か、ごめん」


俯いて謝ると、水瀬(みなせ)は「ハッ」と声に出して笑った。


「まあ、お前の弱み握れたし良かったわ。意外と話しやすいし」


俺が良くねえよ。そもそもこいつ、最初から(いじ)る気満々だったな。

 水瀬(みなせ)は再び嘲笑(あざわら)っていたが、先ほどとは違い、その顔からは少しあどけなさが垣間見えた。

 僕は仕方がないといった風に、ため息をつく。


「あんま余計な事しないでよ」


これは陰の僕に出来る、最大の抵抗だ。


「大丈夫だって。俺らもう友達だしな。」


水瀬(みなせ)は楽しそうに肩を組んできたが、僕は喜んで受け入れた覚えはないぞ。

 水瀬(みなせ)に顔を向けると、じっと見つめる眼力の強さに圧倒されて、一瞬背筋がゾワッととする。


「あはは……」


 僕には断言する勇気も無かったため、その場を笑ってごまかした。


 こんな絡み方がこれからも続くと考えると、目の前が真っ暗になった。

面白かったら、評価やコメントなどよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ