初フライト-β
ようやく追いついた!
お金なくなっちゃったけど、あの馭者に頼んでよかった!
普通なら2日かかる距離を半日で運んでくれたから追いつけたし、だからこそレサンなんかに私たちの希望を奪われなかったんだからね。
改めて見ても、不思議な格好の人だよなー。
全身白色の服?鎧?みたいなものを着ていて、顔の部分だけ真っ黒の水晶みたいになってる。
しかも、言葉が通じない上に大金を持ってるとあれば、盗賊に襲われるのは当然とも言えるね。
彼が船に乗せるから道案内をしてくれるって言うので、今は街を出て船に向かって歩いてる。
船ってあの飛んだやつだよね?
飛行魔術難しすぎて諦めちゃったから空飛べるなんて夢みたい!
『そういえば、寄り道ってどういうところに行くのですか?』
『回路作成に必須なカーボン、反物質保管に必須な磁石、燃料及び生存するために必要な水、そしてこの文明の言葉を覚えること。
たくさんあるが、どれも今の私に必要なこと』
『そんなに!?そんなことしてたら私の故郷が燃えちゃいますよ!』
『君の故郷は戦争中なのか?』
『はい、魔物の力に手を出した連中が私たちに襲いかかってきているんです』
『そいつらは、何が目的なんだ?』
『略奪です。
領土や食べ物、武器や魔石といろいろなものを奪うためです』
『なんとも、らしい理由だ。和解の余地もないだろう』
『そうですよ!そもそも、国をあげて略奪を推奨する野蛮な奴らと話し合いなんてやるもんですか!』
『未開の人々にも、話し合いは必要だ。
もっとも、話し合うつもりの代表が全員殺されたら仕返しぐらいは許されるだろう』
『そういえば、あなたってどこから来たんですか?』
『私は、遠いところから来た。光が数百万年かけて届くような遠いところ。
私がもともといたところはさっきの街みたいな光景が星中に広がっているところだった。
あちこちの施設からから煙が立ち上り、星は一つも見えず、みんなマスク…口や鼻をある程度守ってくれるものをつけて咳してる。
希望という言葉からかけ離れたそこで、私は育ってきた。
色々あって探検家をやって、物資を補給するために帰還する途中で、ここに遭難してしまった、というわけ』
『辺り一面が鉱山街ってことなんですか!?』
『まあそんな感じ。
あちこちに着陸場があり、単純作業を全て機械がやってくれてるだけで、空の向こうに行ける船ができるぐらいの時代になっても、結局あそことそう変わらないのさ』
これから乗る船は、船というよりは大きなチョウチョみたい。
ただ、上に乗るんじゃなくて中に入るみたい。
『今まで一度も他人を乗せたことがないから、座り心地と乗り心地は期待しないで』
『どっちも多分一番ひどいのにさっきまで乗ってたから大丈夫です』
『まぁ、命だけは保証できるので安心して』
中はいろいろなもので一杯だった。
『もともと3人乗りの飛行船だったけど、私だけで使ってたから物置になってた。
退かすからちょっと待ってて』
光る箱、缶、小さな円盤と知っているような知らないようなものばかり。
なんとか空席ができたみたいなので、腰掛ける。
『安全装置は、右肩の後ろから左腰、左肩の後ろから右腰になるように繋げて、一応椅子の横に下がってる帽子も被っておいて。
落ちるつもりはないけど、規則は守らなきゃなんでね』
『そう言ってるけどあなたは着けないのですか?』
『まあ低速かつ低高度だからいっかなって』
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これがゆっくりで低空飛行って冗談でしょう…?
高さは山を軽々越えて、速さは草原を一瞬で通ってしまうほど。
『とりあえずこの近くで一番大きな街に飛んでいってみてる。そこでこの文明について知ろうかなって』
『ヘトブ周辺で一番大きいのはヘトブだけど…
もしかしてザハベルに行こうとしてるんですか?』
『ザハベルかどうかは知らない、ただ大きい街には人も物も情報も集まるから寄ってみるだけ』
ザハベルを空から見るのは初めてで、最初はどこかわからなかったけど地図上でしかわからない城壁が成す特殊な模様が、そこがザハベルだと教えてくれた。
ザハベルは私が知る限り一番大きな街。
世界樹の時代からあるとか、でも歴史はちょっと専門外ですね。
街の外に降り立って、正門の方へ私が案内する。
その途中でのこと。
『そういえば、名前まだ聞いてませんでしたね』
『そういえばそうだった、君の名前から教えてくれ』
『私はマイラ・ルベライト、アガラシ王国一番の精神魔法の使い手!国王より異界の人物を探すよう命じられた宮廷魔法使いの見習いである!』
『私はナギサ・キリサキ、銀河を旅する探検家さ』