『なんでもない』‐γ
「そろそろ元の身体に戻してほしい」
「いや⋯ちょっとあなたが特殊すぎるのですよね⋯」
「魂の形が不定という生物は初めてみた」
ナギサは復活した神とやらに捕まってまだ戻れていなかった。
「ずっと人の形じゃないか、どこが不定だっていうのさ」
「時々揺らいでる、水面に映る姿みたいに」
ナギサの魂は、確かに少しだけ揺らいでいる。
普通、生物というのは魂の形が一定である、それは概ね肉体の形と一致する。
なぜなら、肉体が崩壊するときまで魂というものは肉体全体に宿っているからである。
必然、魂だけの形になっても元の生物の形を保つ。
でも、ナギサはほんとに僅かではあるが、輪郭やパーツが揺らいでいる。
「スライムだってスライムの形を保つし、変身する魔物は変身先の姿で固定されてるのに⋯」
「ここまで調べてわからないなら、早く帰してほしい」
「いや、ノーレが復活するまではここにいてもらう」
ノーレは知恵の神、と同時に理解の神。
対象を完璧かつ齟齬なく理解できる、理解できるだけであり、その情報を他者に完全に伝えられるかどうかは別である。
「私は早く身体に戻って、元いた星に帰りたいのだが」
「安心しろ、ノーレももうすぐ目覚めるはずだ」
神というのは実に身勝手だ。
「じゃあ聞きたいことがある、お前たち神とは何か、この時間を使って説明してほしい」
「⋯そうだな、貴殿のような、ある意味では我々と同じ神のような存在には伝えるべきかも知れぬ」
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この惑星で最初に栄えた文明、それはステラたちを作り出した古代文明ではない。
そのさらに昔、宇宙にまで飛び出した文明があった。
しかしすぐに、行ける範囲で最も栄えた文明が自分たちと理解し、絶望した。
この広い宇宙にひとりきりだと勘違いしたのである。
しかしめげなかった者が、種として、いや生物として超越し、文明を作る側ではなく、文明を育てる側になることを選んだ。
法則を操り、超常的な現象を用いて「奇跡の再演」を狙ったのだ。
そうして「神」になった彼らは、行ける範囲の「文明ができるかもしれない惑星」に散り散りに別れ、天上と地表とを繋ぐ「何か」を通して恵みをもたらして次の文明を作ろうとした。
原動力は祈りだった。
自分たちの後を継ぐものがいる、自分たちを超えられるものがいる。
やがて彼らは文明から祈られ、さらなる力を行使した。
最もうまく行ってるように見えたこの星では、無神論の流行と「奇跡の資源化」によって次第に神は力を失い、繋ぐもの、世界樹まで失い、残ったのは争い合う人間たちだけ。
外に進出するよりも殺し合いを繰り返し、ただでさえ少ない資源を浪費し、未来を犠牲にしたくだらない争いを続ける。
そうして古代文明は滅んだ。
そして今も、技術の進歩よりも私欲を満たすために他者を犠牲にするほうが優勢であり、多くの国と人が争いあって自分の資産を守ることしか考えていない。
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数日後、ノーレが目覚めてナギサの前に来た。
「⋯面白いね、きみ」
「どうも、それで私は何なのですか」
「なんでもない」
なんでもない、その言葉にはどんな意味が込められているのか。
「いや、何かではあるでしょう」
「なんでもない、それが君。
なんでもないというのが君の個性。
なんでもないというのはなんでもあるということ」
「ノーレは相変わらず難解な事を言うな」
「今回ばっかりは魔物でも分かりやすいと思うけど」
「まったくわからん、知恵の神だったら伝達の仕方を工夫してくれんか」
「情報はそのまま出力しなければいけない。
別の言語に翻訳した途端意味は歪んでいく」
「はぁ⋯」




