剥がれる天井‐ι
私は運が良かったかもしれない。
私の第四騎士団は先の戦争で半壊していたため今回の任務は伝達されず、あとから結果を知ることになったからだ。
怪我の功名、というやつだろうか。
とは言えこれは第四騎士団が戦力として見られていないという証でもあるため、不名誉なことではあるのだろう。
⋯私は、先の戦争で戦うことが嫌になった。
胸で輝く勲章は騎士をやめることを許してはくれないが、それでも私は静かに暮らしたい。
今までアガラシの十二騎士団の一つとして、敗北どころか犠牲者は最大でも1割で抑えてきた。
私たちは実力に自信があった。
しかし、あの戦いは私に気づきをくれた。
国王陛下は我々を駒としか見ていない、そして、我々が命を散らしたとしても得られるものはほとんどない。
名誉というのがいかに薄っぺらいか、というのを実感した。
仕方ないのはわかっている。
アガラシは財政難と食糧難に直面している。
報酬が十分じゃないのだってわかる話だ。
⋯しかし、死んでいった仲間を弔っていたら、騎士という称号と戦うというものに意味があるのか分からなくなってきた。
共闘したナギサという人の武器は一瞬で人の命を奪うらしいじゃないか。
ここまで生きてきた私だって簡単に死んでしまうのだろう。
第三は全員自死したと嘘をついて先日ナギサとの交渉の場に突入したらしい。
ナギサがいなくなったあとはあの重装備でかなりの数が撤退したのだという。
第三の行動も理解できないわけじゃない、今国王陛下は追い詰められている小動物のように、見境がなくなっている。
仮にも救国の英雄を、魔法契約で縛り付けようとした、なんて聞いたら誇り高い者は忠誠が揺らいでしまうう。
その点第十二は感情を排して国家のためだけに動く騎士団だったから、都合がよかったのだろう。
⋯壊滅したが。
ナギサを指名手配したことは私も聞いている。
国王はナギサの方から一方的に攻撃を仕掛けてきたと喧伝しているが、民衆の間の噂として国王が無茶な条件をふっかけたからだ、というところまで漏れている。
この前の臨時御前会議ではナギサに契約を結ばせることができなかった責任を押し付け合っていた。
外交官、交渉人、周辺の警備。
そして彼の仲間を捕虜にしていたというセヴル伯爵と壊滅した騎士団のリーダは一切姿を見せなかった。
ナギサという人はあの短時間でセヴル城を無人にしたらしい、恐ろしいことだ。
第三は離反したし、第二と第十一も亡命準備を進めている。
私も逃げようか?
隣国の都市国家なら保護してくれるだろうか。
いやあえてエムレーオに逃げるのもありかもしれない。
「スターリンク騎士団長、国王陛下からの⋯」
「焼いておけ、どうせ中身は戦えというだけだ」
「⋯逃げましょう騎士団長、私はあの事件の後セヴル城を訪れたのですが、見るも無残な死体ばかりでした。
ただの戦闘ではならないであろう死に方、目玉がなかったり顔がなかったり、指が抜けていたり髪の毛が血溜まりの中に皮膚ごと浮いていたり⋯
ナギサの一味には攻撃をしないのが得策です⋯」
「そんな事は分かっているよ、君もナアドへの亡命準備をするといい、もうこの国は永くはない」
「⋯失礼します」
さて、私も隠し金庫から貴重品だけ持って逃げようか。
勲章も名誉も名前も捨てて。




