ヘトブの街-α
卑金属反応が強い場所は、やはり鉱山街であった。
着陸し、先程のお礼が使えるようであれば買えるだけの資材を買い取ろう。
この文明は不思議なもので、蒸気機関が人や物を運ぶ横で大型生物が客車を牽引して走っている。
大型生物に乗っている方が豪華な服装をしているため、貴族は機関車に乗らない、ということなのだろうか。
空中から鉄やアルミなどの機械金属があるであろう場所を探す。
といっても鉱物センサーでは街中に張り巡らされた蒸気パイプ(スキャンの結果鋼鉄製と分かった)に反応してしまい全くわからない。
つまり、カメラとヘッドセットの望遠機能のみの目視で探す必要がある。
幸か不幸か、すでに飛び立つ宇宙船を大勢の前で見せてしまったためもう隠す必要はない。
のんびり空中から店選びをしよう。
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やはり表通りに面している店は武器や道具といった加工済みの物を取り扱っているようだ。
原材料をどこから購入しているのか、空からでは全くわからない。
着陸して直接探索しないと購入場所すらわからないようだ。
今度は何があってもいいように、携行シールドをいつでも展開できるようにしておこう。
今の時代は便利なもので、携行シールドで数分程度は土石流や溶岩の中でも生存できるのだ。
しかし、一度発動したら壊れるまで止められない、使い切りのものしかないので慎重に扱っていきたい。
再使用可能な携行シールドはとても高価で手が出せなかったのだ。
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街からそう離れていない場所に着陸し、宇宙服を着て船外に出る。
今度は長時間活動するため、宇宙船にロックをかける。
このロックは持ち主しか解除できないよう、パスコードと鍵、そして遺伝子スキャンの3重となっている。
そう簡単に解錠されないが、万が一のために鍵と宇宙船は常に接続されていて、施錠状態がわかる。つまり、私以外の誰かが宇宙船を動かそうとしたら私に伝わるのだ。
街の方まで歩く。ホバーボードもあるにはあるのだが、こちらも温存したいためまだ使わない。
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街の入口で警備員のような人に呼び止められたが、大量の金銀が入った袋を見せ、鉄屑の山ほうを指差すと少し狼狽えたようだが通してくれた。
今思えば言語が通じなくとも通れる検問など、なんて杜撰なものだろうか。
鉄屑では少しばかり扱いにくいため、街の奥へ奥へ歩いていく。
宇宙服は悪目立ちしているだろうが知ったことではない。
道行く異星人たちはこちらを指差して何かを囁きあっている。
まあこんな奇抜な格好をして、一言も発さない(発せないだけだ…知らない言葉を)やつなんてそうそういないだろう。
大通りの先は役所のようであるが、政府に用はない。
鉱山の入口近くであれば、鉄鉱やらボーキサイトやらを販売している場所もあるだろう。
大通りから逸れ、暗い雰囲気漂う通りを進んでいく。
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やはりこの文明は不思議だ。
蒸気機関の活用によってかなり自動化が進んでいる場所がちらほら見えるのに、手作業や人力、生物に頼ることが多い。
張り巡らされたパイプの蒸気は限られた人々しか使用できないとでもいうのだろうか。
しかし前述の輸送手段の例では貴族のほうがかえって原始的であった。
非常に不思議だ。
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歩き続けると、レールが敷かれていた。
鉱山からかなり離れた場所にあるため、製鉄所と鉱山とを結んでいる輸送線だろう。
この輸送線の製鉄所方面に進めば、鉄の販売場所があるかもしれない。
鉱山ではなく製鉄所の方へ進路を変え、また歩き始めた。
時々レールの上を輸送列車が通過するのだが、鉄鉱石や石炭を落としてしまうことがある。
それを待っていたかのようにボロボロの服を着た人々が建物の影から一斉にでてきて、落下物を我先にと拾い上げ、奪い合っている。
彼らの収入源なのだろうか。
争いを制した人が2、3個の鉱石を抱えてどこかに去り、拾えなかった人がまた建物の影に隠れる。
私の存在など気にもとめず、今日を生きるのに必死なのだろう。
製鉄所、と言うよりは鍛冶場の集合地であった。
あちこちで金属を叩く音が聞こえるはずなのだが、あいにく私は宇宙服を着ているためうるさすぎる音を遮断してしまうのだ。
しかし鍛冶場であればその場で精錬と加工を行ってしまうだろう。
鉄を直接入手することはできなさそうに思える。
ただ、少し引っかかる点がある。
街中に張り巡らされたパイプや鉱石を輸送していた小さな蒸気機関車。
あれがこの小さな鍛冶場で作れるとは思えない。
大型の製鉄所か鉄工所がどこかにあるはず。
そこの職員になんとか大量の鉄やアルミが欲しいことが伝われば、購入もできるかもしれない。