「交渉」‐γ
場面は現在に戻る。
ナギサは2人の機械少女を連れて交渉の席に着いた。
子供を入れることについて文句を言われたが、「彼らは私の優秀な仲間です、それにこういう空気に慣れてもらおうと思っていて」とごまかして椅子につかせた。
見た目は子供だが、中身は機械。
椅子に座ると人形のように静かに待った。
「おほん、ではこれよりナギサ・キリサキとアガラシ王国との間に結ぶ条約についての交渉を始める」
交渉席の周りには不思議な装備をした騎士たち。
威圧するように整列している。
「まずこちらからナギサ・キリサキに対して提示できる条件は、無際限の資金援助と人員の提供である」
魔法契約において「虚偽」をふくんだ契約は無効となる。
しかし、「隠匿」に関しては「内容を詳しく読まなかったほうが悪い」として成立する。
「次に我々がナギサ・キリサキに求めるのは⋯
わが国に滞在していることである」
:そんなのでいいのか?:
「ええ、あなたは我々にとっての仲間であり、エムレーオ含む他国の敵です。
あなたがいるだけで抑止力となり、あなたがわが国に居続けていただけることによる戦略的価値は計り知れません」
「サインはこのペンを用いてください。
なお文字はナギサさんの知っているもので結構です」
ナギサはペンを取った。
すると今までじっとしていたステラとエヴァが動き、ナギサの手をつかんだ。
沈黙、そしてナギサは頷いた。
エヴァとステラは元の席に戻る。
交渉人たちは子供が何かやったぐらいにしか思っていなかった。
子供が魔法文字を読めるはずないし、何よりこの短時間で全容を把握できるわけない。
ナギサは何かを記して返した。
交渉人たちは満面の笑みでそれを受け取るも、ナギサの文字を見たとたんに青ざめていき⋯そして赤くなっていった。
:私の返事を書いたまでだ:
署名欄は空っぽ、そのかわりに契約書にはこの文明の文字で大きく「いいえ」と書かれていた。
ナギサは字が読めるようになってしまったのだろうか。
交渉人たちは目配せした。
予備の計画を発動させるべきと判断したから。
:やはり交渉の席には似合わないと思っていた。
最初からこうすればいいだろう:
騎士たちがナギサたちを取り囲む。
「甘く見るなよナギサ・キリサキ⋯貴様の仲間は我々が預かっているのだからな!」
:すると私は、まんまと君たちの策にハマったわけだ。
それで?不平等な契約を結ばせようっていうのか?:
「貴様が署名する以外の選択を取れば仲間の命は無いものと思え!」
ナギサは彼らが聞き取れない言語で喋った。
そしてステラとエヴァと手を繋いだ。
そして、その場にいる全員にナギサの声が響く。
「降伏し、締結は断念せよ。
逆らえばこの場にいる全員の生命は保証しない」
「ひ、怯むなぁ!どうせハッタリだ!」
次の瞬間、その場にいたナギサ、エヴァ、ステラ以外は驚くべきものを見た。
テルペイドがそこにいたのだ。
「へ⋯陛下⋯」
「これは一体どういうことだ!
なぜ未だにあやつは署名をしておらぬ!」
「た、直ちに⋯」
「どれだけの資金と人員を投入したと思っておる!
それなのになんだこの体たらくは!
あやつは条文を理解し、我々の脅しも跳ね除けてしまったではないか!」
「お⋯お許しを⋯」
「もうよい、そなたらは全員最低でも左遷と思え!」
叱りつけるテルペイド、次第にその場の全員の視線と意識はテルペイドに集中する。
目的を忘れて、ただただ許しを請おうとする愚かな人々。
それだけがその空間にいた。
ーーーー
「お手柄だステラ、あんなことができるとは思ってなかった」
*あのひとたちのキオクをミて、テルペイド・ハレスというひとのユメをみんなにみせた。
みんないないひとにむかってユルしてユルしてって*
<とにかく急ぎましょう、マイラさんたちが心配ですし、ステラの夢がそんなに続かないかもしれません⋯
あんなにたくさんの人が相手だと不安です>
「急ごう、彼らにかぎって死ぬことはないが、拷問を受けている可能性がある」
ナギサの船は空へ飛んでいった。




