接触-α
「グギャグワァァァ!」
突然聞こえたその鳴き声に私は飛び上がりそうになった。
鳴き声が聞こえてきた方向を見ると巨大な怪生物がこちらに向かって来ていた。
私は慌てて船に乗りこみ、発進しようとしたが怪生物はもうすぐそこの正面まで迫っていた。
一か八か、修理したてのメインウェポンの照準を合わせて引き金を引く。
ドゴン!
小惑星を破壊するために調整されたメインウェポンは、平常時の精度と威力そのままであった。
怪生物は粉々になってしまっていた。
なんとか一命をとりとめたと安堵していると、無数の人影が怪生物がやってきた方角から現れる。
何か言ってるようだが全く聞き取れない、というか私が知っているいかなる言語体系とも似ても似つかないため全くわからない。
離陸に必要な手順はもう踏んである、もしあいつらが襲いかかって来ようものならすぐに離陸して別の場所に移ろう。
何度もこちらへ声をかけていそうなのはわかったが、それが「こっちに来い」なのか「止まれ、動くな」なのかすらわからない。
こういうときこそ、「テレパシスト」こちらが考えている感情を相手に伝え、相手の感情をこちらに伝える特殊な翻訳機があればよかったと痛感する。
こんなときに限ってテレパシストは修理に出してしまっていた。
向こうからアクションがあるまで待機しよう。
ついでに周辺の地形とギャラクシーマップの確認も。
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ここは私がもともといた銀河から最低250万光年以上離れた銀河にあるらしい。
簡易マッピングで見えてくる他の惑星は、連邦首都の恒星系のものとよく似ている。違うのはこの惑星の衛星が2つあること、この星系にある恒星が2つであること、そして第四惑星が荒れ地であることだろう。
反物質炉が故障している以上、この星系からの脱出は不可能である。
どうにかしてこの惑星で修理せねば。
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かれこれ先程の戦闘から数十分が経過した。
人影たちは一切私に近寄るつもりがないらしい。
それはそれで好都合だ。
ここにもう用はない。
離陸して卑金属の反応が高いところに移動し、採掘と精製を行って資材を確保して反物質炉を作り始めよう。
『待ってください!』
急に頭に声が響く、それも私の知ってる言語で。
『待ってください!お礼がしたいんです!』
『お礼?さっきの怪生物のことか?』
『そうです!あの魔物は、何度もヴルガルを襲いなんとか撃退だけできていた強大な魔物なのです。それをあのように吹き飛ばしてしまうなんて、上位の魔術師や戦士でも困難な芸当です!』
『お礼も何も、私も殺されそうになったから殺しただけであって何も感謝される謂れはないわけだが…』
『でも、受け取ってもらわないと私たちが困ります。代表のものがあなたのところへ行くので、受け取ってください』
『分かった、ただ君たちの身長の2倍ほど離れた場所にお礼をおくように。この船に近寄ると良くないかもしれないから』
『わかりました、代表にそう伝えます』
声は聞こえなくなった。
おそらくこの星固有の技術で、自動翻訳も兼ねた優秀な通話機なんだろう。
文明レベルは事前の観測では中世程度とされていたが、おかしな技術だけ異様に発展しているのだろう。
近寄らないよう言ったのは、何かされてもいいよう船にシールドを張ったためだ。
シールドに防護服無しで近づくと身体にシールドのエネルギーが流れて感電、最悪心停止で死んでしまう。
この星の住人が感電死するかはわからなかったが、変なトラブルは避けるべきと考えての指示である。
代表とやらが3mほど離れた位置に袋を置いて去っていった。
そいつがかなり離れたのを確認し、船外に出て袋を持ってみると重い。
まさかと思い中を見ると金や銀が大量に入っている。
困った、金も銀も使わないことはないがこんな大量にいらない。
運べなくもないが、持ち帰ってどうするってものだから貰うべきか迷ってしまう。
しかし受け取らないと彼らが困ると声は言った。
仕方なく受け取り、袋ごと船の格納庫(爆弾の格納庫であった場所を改装したもの)に突っ込み、離陸した。
空から先程の集団を見てみるとなんとも驚いた表情でこちらを見ている。
いや、軽度のパニックとも言える。
こっちを指さして慌てる人、信じられないと呆然とする人、そしてキラキラした目をこちらに向ける人。
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卑金属スキャンを空中で行うと、先程の場所からそう離れていないところに大きな反応があった。
ひとまずそこに着陸し、大量の鉄を確保しよう。