里帰り-γ
パルサル。
アガラシ王国3つの玄関のうちの一つ。
山に囲まれた首都を守るためソル川の途中、2つの山の裂け目に作られた。
まだ作戦は始まっていないが、どういうわけか多くの兵士がいた。
ナギサは会議でパルサルには最低限の防衛軍しかいないと聞いていたので不思議に感じた。
そこでモルニア経由で兵士に聞いてみる。
「あー、そこ衛兵の方?今日は一段と兵士多いみたいだが、何があった?」
「サントの村が襲撃を受けてな、なんとか追い払ったが、また来るかも知れないということでここで立て直しているんだ」
次の瞬間、兵士の話が終わったあとに乗るため展開されていたホバーボードが発進した。
「あ!マイラどこに行く!」
『君だけで乗るのは危険だ!』
マイラはモルニアの叫びも、ナギサの警告も無視してホバーボードに乗り遠くへ。
一瞬にしてナギサから見えない距離まで離れてしまった。
マイラはホバーボードに乗るのはもちろん、飛行魔法も移動魔法も、それに類する道具も使ったことはなかった。
ただ、この時だけは何かに操られるように、完璧にホバーボードを操縦してみせた。
この後マイラがホバーボードに乗ろうとしても、動かす前に転んでしまうのがわかりやすい例であろう。
改造されたホバーボードは、鉄道に匹敵する最高速と、戦闘機に負けない加速性能を申し分なく発揮し、サントの村にものの数分で到着した。
あちこちで火の手が上がり、腕を失った焼死体や頭だけの骸骨、折れた剣が散らばっていた。
マイラは家だった場所を正確に覚えており、そこで瓦礫の山と2つの死体を発見した。
片方の死体の懐にはマイラの写真が入ったお守りが、もう一方の死体にはマイラが作ったアクセサリーがついていた。
顔は、どちらも失っていた。
マイラはこのとき、何を思ったのか。
怒りか、憎しみか、悲しみか、後悔か。
十数分の間、辛うじて原形をとどめた2つの死体を抱きしめ続けた。
その後、近くの穴に埋めて瓦礫の中から使えそうなものを利用して簡素な墓を建てた。
「いつか、もっと立派なものにして貰うから、今はこれで我慢して欲しい。私にできる精一杯だから」
マイラは二つの目印を立て、そうつぶやいた。