里帰り-α
なんだか久しぶりな気がする。
あの会議室の空気か、それとも別な何かか。
さて、あの場で話した作戦を実行するためにも数日掛けて準備する必要があるだろう。
実行は3日後だ。
なんなら今からでもと思っていたが、情報伝達と作戦のすり合わせからすこしかかるらしい。
モルニアが「俺はあの青色の瓶の看板の店で飲んでるぜ」と言っていたから、マイラもそこにいるだろう。
とりあえず合流して報告しよう。
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『あ、おかえりナギサ!』
「よう、異界人どの!」
マイラもモルニアも飲んでいた。
ただし、マイラはフルーツジュースで、モルニアは牛乳で、申し訳無さを私が感じている。
強く頭に念じながら口でも言う。
「『とりあえずで酒場行くのは今度からやめろ、喫茶か茶処かあるだろこの街』」
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食事処(相変わらず私は飲みも食いもしないが)で、会議のことを話すことに。
2人同時に伝えるいい方法をさっき自然にできたから今後も活用していこうと思う。
「『さっきの会議で、私に仕事ができた。私と第三騎士団とで国境部の砦と城壁を取り返すというものだ。
ひどい戦闘になることが予想できる、2人は私についてこなくてもいいが…』」
「『もちろんついていく!』」
2人で一斉に言われるとは予想していなかった。
頼もしい人たちだ。
「『だとすれば3日後は絶対に私の指示に従ってくれ。
無駄な犠牲は出したくないからな』」
『そういえば、ナギサの所持金っていくらなの?』
『数えたこともなかったな、1枚の重さから計算したほうが早そうだ』
『銀貨も混ざってるから、ざっと分けちゃおう』
そうして、暇つぶしのようにも感じる所持金確認が始まった。
この文明が全国家で共通の通貨を使ってくれてよかった。
計算がしやすくて助かる。
銀貨と金貨の仕分けはこの暇つぶしの様子を見た店員が便利な道具を貸してくれたのであっという間だった(銀貨のほうが小さいから「ふるい」のようなもので簡単に仕分けられる)。
金貨と銀貨の1枚の重さと総重量から、何枚ぐらいか計算すると、金貨が400枚、銀貨が700枚だった。
マイラによれば銀貨64枚で金貨1枚ということなので、銀貨26’300分ということだ。
で、銀貨1枚が1モラ、金貨1枚が1トラで、大抵モラの方を基準にするらしいので私は今26’300モラを持っている。
ヴェルティア討伐報酬がいくらなのかはマイラもモルニアも知らなかったが、鉄を大量購入したことから考えると大体30’000モラだろう。
モルニア曰く、半年は遊んで暮らせる金、らしい。
早い時間に宿屋を取っておけば2人の寝所に困らないと思い、まだ日が昇りきってすぐの時間に宿屋を探した。
その途中で、この街の探検家組合の建物があったので覗いてみようと思ったら、閉業中であった。
なんでも、戦争中のため依頼は直接王宮へ、とのことだ。
戦時下では仕事は全て国家のために振られるのだろうか。
時代にそぐわず戦争体制は発達しているようだ。
移動中に、マイラから衝撃的な告白を受けた。
『実は実家がサイベとパルサルの間にあるんだ…
ここ最近一通も手紙が来てないから、不安で…』
実際に行ってあげたいが、敵に私の船を見られても困る。
というか、私の船が強力な武装を持っていることが知られると困る。
怪生物のときは仕方なかったが、できるだけ船での攻撃は控えようと思う。
ただし、私にはもう一つ高速移動できる手段がある。
『マイラってバランス感覚いいほう?もしくは、どれだけ激しく揺れても落ちない自信がある?』
『どういうこと?』
『今すぐ君をご両親のもとに連れて行こうって思ってね。船は休ませたいから、ホバーボードで行こうかと』
『ほばーぼーど?』
『すこし浮かんでいる板で、地面との摩擦がないせいで結構な速度で移動できる優れモノさ。近くの王国軍の砦まで船で行って、そこからホバーボードで行こうって算段だ』
そう言って私はホバーボードを展開した。
私のものは古の移動方式の1つであるスケートボードによく似ていて、レトロなデザインとホバーボードにしては高い耐久性が理由で銀河でヒットした。
もちろん、私が探検のために改造したものなので乗るには少々コツがいるが、うまく扱えれば一般的なホバーボードの1.7倍の速さで移動できる。
『でもこれ、3人も乗れないよ?』
『モルニアには船で待っててもらおうと思う。まあ他人の親なんて興味もないだろうし』
そういうことで、私たちはパルサルの関所まで飛び、そこからホバーボードで移動してマイラの親に会いに(そして可能なら避難させに)行くことになった。