会議室-γ
ナギサはアガラシの有力者たちが集められた会議室に入った。
そこにはアガラシの十二騎士団の総長、宰相、地方都市の統治者や治安維持の責任者、参謀、財務官、そして国王や王太子までもが集っていた。
ナギサとの円滑な情報伝達のため、試作品の翻訳水晶、言葉を認識し見たものに合わせて表記や文字を変えて表示する不思議な水晶、を使用して会議が始まった。
:まずこの国の状況を知りたい、だから普通に会議をしてほしい。詳しく聞きたいことがあったら質問するから、私はいないものとしていつも通り会議してみてくれ:
ナギサとしては、内情も知らないのに適当な知識を披露するだけでは何も変わらないと考えたのであろう。
参謀がテーブルに広げられた地図と、赤と紫の駒を使って説明する。
「わかりました。では、まず戦況ですが、私達はここゲルサルの関所とサイベの街周辺で戦闘しています。
ゲルサルは今でも接地兵器やポーションなどが数多く残っており、敵占領地では市民の妨害行動が活発なこともあって安定して防衛できています。
一方サイベの周辺では開戦からずっと前線が後退しており、じわじわと押されサイベ近郊まで敵が到達しています」
:この、ソル川の沿岸はどうなっているんだ?:
「ソル川南岸のみ防衛に成功、北岸はサイベの前線同様押され続けています」
鎧を会議室内でも外さない騎士が言う。
「我々十二騎士団はパルサルにて待機し、首都圏に敵を一歩も侵入させないつもりでいる」
それに対して魔術師が言う。
「騎士団には敵を殲滅してもらう積極的防衛をしてもらい、魔法陣を守り続けてほしい」
なんとか逃げ延びたサイベの統治者が言う。
「サイベは特殊な資源もなく、王立研究所も移転しております。また、貴族や魔術師たちの避難は終わっているため、あまり我が街の防衛に固執するべきではないと進言します」
王太子が言う。
「サイベ辺境伯は数ヶ月前から行方不明となり、噂ではエムレーオに加担しているとも言われています。サイベが落ちれば、次はパルサルです。そこを突破されればもう王都になってしまいます」
大蔵卿が言う。
「お忘れかもしれませんが、無茶な攻撃を行えるほど国庫に備蓄はありません。昨年は豊作だったにも関わらず、兵士に供給する食糧がもう不足し始めています」
一言も発さず、いままでの報告を聞いていた国王は、口を開く。
「今、我が国は岐路に立たされている。
時間が経てば経つほど、海を持たぬ我が国の物資は減り、戦局は悪化していく」
国王がナギサに向き直る。
「今までの話を聞いた上で、貴殿ならどうするのか教えていただきたい」
ナギサはしばらく黙り、そして口を開いた。
その作戦のあまりの危険性に、大蔵卿や王太子、騎士団総長は猛烈に反対し、この状況を短期間で変えられるという可能性から魔術師と参謀、そしてサイベ市長が賛成した。
国王は初めからナギサの言うことに従うつもりであったが、ナギサの言葉を聞きよりナギサという異界人を信用するようになった。