任務達成-β
アガラシの中心のソル・へラード、その真ん中のアガラシ王宮。
入口から豪華で壮大で、偉大なるハレス家の双頭の翼竜が来訪者を頭上から見下ろす。
すでに大きな圧を感じる。
モルニアさんは一応外国人なので、外で待っておくように伝えた(ナギサが遊び代として10トラと15モラ渡してた…今のところヴェルティア討伐報酬だけだけど、どんだけ持ってんだか)。
これから、ナギサを陛下の前に連れて行くんだ。
陛下直々の命令を達成できるんだ。
なんとなく服装を整え、ナギサを連れて入口をくぐる。
私が国王陛下から承った任務は、2日前の召喚実験で召喚された人間がいないかどうか調査し、もしいたらここにつれてくること。
そのために私以外にも多くの精神魔法の使い手がこの任務を陛下から直接承った。
もしこの任務が達成できれば、憧れの宮廷魔法使いになれるかもしれない!
そう思って真っ先に向かった先がレサン王国で良かった。
たまたま城に来ていた宰相が、私が不思議な人を連れていることで状況を理解したみたいですぐさま謁見の準備をしてくださった。
ナギサはこの空気が初めてではないみたいで、ずっと落ち着いていた。
私は興奮と緊張で震えてるんだけどね。
ーーーー
玉座の間。
ハレス家の黄金の血を連想させるがごとく金装飾で埋め尽くされた神聖な空間。
玉座に座るは現国王のテルペイド・ハレス。
「ルベライトよ、その人物は余が探すよう命じた異界人であるか?」
「は、遠き星から来た、ナギサ・キリサキという者です。
昨日レサン王国にて巨獣ヴェルティアを一撃で粉砕し、ヘトブ、ザハベル、そしてここソルへラードを寄り道や休憩しながら2日で移動できるほどの乗り物を所持しています」
「ほう、ではキリサキよ。
余からの頼みを聞いてはくれぬか?」
「陛下、キリサキさんは私たちの言葉がわからないので、私が魔法でお伝えしてもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
精神遠隔感応魔法を使い続ける状態にする。
「では、キリサキよ。そなたが持つ技術を我々に教えてはくれないか?」
『ナギサ、陛下が技術を教えてほしいって』
『それはできない。文明保護法の2条に、未開文明に技術を提供することを禁ずる、というのがあるからだ。
君たちの文明レベルに適した技術であれば教えられるが、そんなものは自力で開発しているだろう』
『ええ…』
『その法には構造学や材料学といった産業技術の制限のみと規定されていて、美術や言語学、経済や政治といったものは教えてもよいとされているが、あいにく私はただの探検家だ。期待に応えられそうもない』
「…彼の国の法律で、技術を教えることはできないらしいです」
「そんな…!」
『役に立つかどうかはわからないが、教えることは禁じられているだけで、ともに考えることは別に禁止されていない。私の星々を駆ける探検家としての経験であれば、法律にも抵触しないだろう』
「…技術は教えられないが、経験を活かして一緒に考えてくれるみたいです」
「そうか!ならすぐに大臣を集めて彼の経験を伝える場を作ろう。」
なんてこった、いきなりそうなっちゃうのか。
「ルベライトよ、よくやった。報奨金と宮廷魔法使いとしての地位を約束しよう。」
「ありがとうございます、陛下」
「そなたはもう下がってもよい、ゆっくりと休め」
「は、ありがとうございます」
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初めての大仕事は、少なくとも私にとっては大成功って言い切れるものだった。
外のベンチで寝てたモルニアさんを食事屋に誘ってさっきのことを話した。
「ほー、ナギサがそんなことになってるとは」
「うまいことやって戦争を終わらせられるといいですね」
「そういえばナギサが言っていたという文明保護法、ちょっと気になったりしなかったか?」
「まぁ、少しは」
「文明保護法ってのは文明を段階ごとに分けて、星間文明レベルまで到達していない文明の暴走と高度文明からの搾取を防止するためにある法律でな、簡単に言うと『知能や社会に見合わない技術を渡してはならない』ってのと『惑星文明に対しては観察と文化的交流以外を行ってはならない』という法律だ」
「星間文明ってなんですか?」
「そうだな、
夜に見える星々があるだろ?
その星々に実際に行けるぐらい技術も社会も発達した文明が星間文明っていうんだ。
星間文明になってしまえばそういった保護から外れて経済植民地、簡単に言うとお金の流れを完全に支配されてしまうこともあるし、大きな国の基地にされてしまうこともある」
「なんか…難しいんですね」
「まあ俺も覚えてるわけじゃないし、ナギサと俺とでは生きた時代も違うみたいだ。
俺の常識があいつの非常識ってこともあるだろう」
そんな雑談をして、ナギサの帰りを待った。