怪しき人物‐α
流石にここまでひどいと私だって泣きたくなる。
バイザーで目元どころか顔が見えないから、泣いたっていいんだがそれは自分が許せないので堪えてる。
静寂が全てを包む組合の建物に、新たな人が現れた。
故郷の企業の人がよく着用していたスーツのような服を着た、中年ぐらいに見える男性だ。
組合の上層部か、取引先なのだろうか。
はいかいいえ、そしてありがとうしかわからない私は、何度か男性が喋ったのを聞き取れなかった。
受付の人が男性に駆け寄り、何かを話したかと思ったらこっちを指差してきた。
今更男性は私に気付いたようで、ジロジロと私を見る。
数秒後、その表情は驚愕に変わった。
男性がマイラに何かを言っている。
するとマイラは驚いたあと、私に向かって希望に溢れた目を向けてきた。
『ナギサさんって、軍人だったんですね!
この人、あなたのことを知ってたみたいです!』
私が驚く番だった。
なぜこの星に私のことを知っている人がいるのか?
いやいや、そもそもなぜ探検家の私を軍人だと判断した?
わからないことだらけだ。
ひとまず、喋ってみる他ない。
「なぜ私が軍人だと思った?」
私の知ってる言語で発音する。
すると同じ言語で流暢に返答された。
「その宇宙服は、連邦国の軍人にしか支給されない高性能な物です。さらに、腰に下げたブラスターに連邦国軍の軍旗が描かれています」
「私の所属する部隊はわかるか?」
「今はわかりません、階級章は情報端末やその機能が盛り込まれた機器を通してでなければ確認できませんが、私は持っていません」
「連邦国の前身についてどう思う?」
「田舎の恒星系でしたが、その勇敢で大胆な立ち回りから銀河を支配した星系国家です」
どうやら私では彼が嘘をついているかどうか、この場では判断できないようだ。
後半はただの思いつきだが、私の世界の歴史をよく知っているようだ。
「ロビーで立ち話もなんですから、組合にお願いして奥の部屋でお話しましょう」
「わかった、ただマイラも一緒にお願いする」
「もちろんです、あの精神魔法使いの方も来ていただくつもりです」
『ナギサさん、この人はなんて言ってるんですか?』
『私とゆっくり話したいから、奥の部屋に案内する、とのことだ。
君もついてくるように言っている』
『もちろんついていきます!』
こうしてこの謎の人物と私、そしてマイラは会議室のような場所に案内された。