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九話 聖女の涙と瞳


 道のりの記憶が少し飛んでるんだけど、目的の場所は聖地。


 普段は特に誰も入らない場所。


 そこに、『聖女の涙』があって『収穫』することになってる。


 ―・・・夜、森の中、妙に静かな花畑。


 満月が雲から顔を出すと、つぼみだった花畑の花たちがいっせいに交配こうはいをはじめた。


 人体に無害のその光花粉が、空中にふよふよ浮いている。


 それを掴まえて、雄蕊おしべ雌蕊めしべの役割の手伝いをする。


 すると花の中から硬化こうかしたキラキラと透明な石が出てきた。


 透明なのは『涙』、水色が『瞳』と言うらしい。




「これが・・・聖女の涙・・・?綺麗・・・」


「少ししか取れないんです。貴重な体験なんですよ」とラク神父が言う。



 なんだか感情の抑制よくせいかなかった。



「わ・・・わたし、レインと呼ばれていて、いいんでしょうかっ?」


「『それでいい』」



 今まで黙っていたサクラ君と今回の収穫手伝いの三人兵が同時に言った。


 泣いてしまったけど、誰も私をバカにするひとはいなかった。


 救われた、と思ったから、彼らに還元せねばと思ったのは本当の気持ち。



「私、聖女として姫として、何か役に立ちたいですっ」



「そんなに気負きおうな」


 ってサクラ君が言ってくれて、側で収穫をしている三人兵もうなずいている。



「おお、大きいの取れましたよ~」



 のんきな発音で、少し離れたとところからラク神父が見せに来る。


 手の中にあったのは、たしかに大きめで、素直に感動した。



「素直なひとだなぁ」とラフ。


「ねぇねぇ、今度、前がどうっだったか聞かせてよ?」とルビ。


「ええっ?あんまり覚えてないですけど、役に立つならぜひ」


「ほーぅ、その話は面白いのかなぁ?」とコハ。



「これこれ、早く作業をしなさい。時間に限りがありますからね」


「「「はーい」」」



 ラク神父の言葉に、まるで子供の返事の三人兵。


 

 収穫は上々(じょうじょう)で、これでアクセサリーを作って城に献上けんじょうしたりするらしい。


 『聖女の瞳』と『聖女の涙』を合わせて作ったらどうだろうか、と提案。


 するとサクラ君が「自分で採ったやつは少しもらってもええのんやろ?」と聞く。


 ラク神父が、「それでいいです。僕も姫に贈りたいですからね」と言う。



「元恋人・・・」


 サクラ君がぼやく。



「ん?僕は今でもレイン姫が好きですよ?」



 まるで軽々しく、それを意識したかのような態度のラク神父。


 少しときめいてしまう。



 聖地に入れる人数が決まっているので、収穫は貴重。


 しかも一年に一回。


 その場に居合わせてよかったんだろうか・・・?



 何か真っ白な光の夢の中で、「やり直していい」って聞こえたんだった。



 ――・・・私に何ができるだろう?



 なぜか異世界に転生した私は、どうもこの世界なら生きていたい理由があるみたい。


 まだ感覚くらいで文字にするのはムズカシイけど、当たった気がした。


 向こうの言葉で「当選とうせん」って言ったらいいのかな?


 うーん・・・言い方をまだ思いつかない。


 なにかとっても不思議だけど、信じがたいけど、幸運に当選したかもしれない。


 ・・・そう思うのは不謹慎ふきんしんかな?


 言い方が。



 まだまだ勉強したい。


 心も体も、言葉も。



 前の私は十五歳くらいだった。


 学校に勉強をしに来ている、って理由でイジメられていた。


 学校は遊びに来て、真面目まじめちゃんをイジメる場所なんですぅ・・・


 そんな喋り方のクラスメイトが派閥のリーダーだった。



 ここには、そんな喋り方のひとと出会う確率が低いのかもしれない。


 前は命が苦手たがる対面ばっかりだった。


 タバコの火を腕に押し当てられたり、カミソリで髪を切られたり・・・


 その理由が、勉強をしに来ているから・・・


 それは私にとっては、最悪な状態と環境だった。


 両親が、「ひとりで耐えなさい。めんどくさい」とそんな風だった。



 それを話したら、三人兵たちが泣き出した。


 どうもお人好しが高じてラク神父の舎弟兵しゃていへいでしかいられないらしい。


 それを国が認めているから、一緒に村に来たんだそうだ。


 城にいる時代、『レイン姫』の遊び相手役だった三人兵。


 今は私が身体を借りてることになるけど、私の話に泣いてくれた。


 胸ポケットからハンカチを取り出し、鼻を噛む。



「うわー・・・ハンカチ一枚じゃ足りねぇ」


「その手で俺とレインに触りなや」とサクラ君。


「三人とも鼻を噛んだら、手を洗って来なさい。ここは聖地だ」とラク神父。


「「「はーい」」」



 収穫のあとは一晩、野宿のじゅく


 簡易かんいのテントがあって、川辺。


 川に手を洗いに行く三人兵を見ているラク神父は微笑を浮かべていた。



「ん?」


 こちらの視線に気づいて、ラク神父が振り向く。


「あ、あの・・・アクセサリーを作る現場って、見ることできますか?」



「ほーう・・・見聞けんぶんですね。衛兵としてこれは最善を尽くさねば!」



 テントに戻るとサクラ君がいて、火の番をしている。



「あの・・・そういうことって・・・近々、予定・・・」


阿呆あほう。聖地でそんな話すんな」


「あ、ごめんなさい」



「大丈夫や。取って食ったりせぇへん」


「あ、はい!」



 荷物の中に入っていたパンとバターを焚火たきびで温めて、渡される。


 溶けたバターの上に蜂蜜はちみつがかけられた。


 前は当たり前にあったものだけど、この世界ってこれだけをそろえるのに案外とむずかしそう・・・ありがたい食べ物なんだ、これ・・・


 コーヒーにそっくりな飲み物に、砂糖と乳球ちちだま


 乳球は『牛乳成分』に似ている割るまでは長期保存が利く植物液。


 ある程度なら身体に良いらしい。


 媚薬みたいな効果もないから、安心して食事ができた。



「お魚食べたいな・・・川とかにいないかな?」


「ここは、聖・地!」とサクラ君。


「ああ、ごめんなさいぃ」


 呆れた様子で、「あんたさんは姫として肉も魚も食えるんだろうに」と言う。


「あ。そうだった・・・」


「なんで義理立きぎだてて我慢がまんしてんねん?」


「それもそうだなぁ・・・」



 ――

 ――――・・・翌朝。



 本当に、何もなかった。


 なんか隠してたけど妙な期待と不安みたいなのあったのに。


 そこらへん聖地の荘厳感とか感じるのがまだちょっと聖女としては、うといのかな。


 前の暮らしとは全然違う。


 色んなものが貴重きちょう・・・これはとっても凄い経験をしていると思う。



 前の話だけど、小さい頃は祖父母と田舎で暮らしていたから、不便ふべんいとしい。


 ただ、村には特に何もない。



 村に帰って子供たちに『かくれんぼ』と『鬼ごっこ』を教えたら狂喜された・・・


 なぜか三人兵が子供たちのその遊びを守護することになって、本気で楽しそう。


 『鬼ごっこ』は、「鬼って何?」みたいに言われた。


 なので『ケイドロ』を説明したけど、通じにくいらしい。


 なにか他の呼び方はなかったか思い出したかったけど、無理。


 なので「追いかける役と追いかけられる役がいるって遊び」と言ってみる。


 すると子供たちが、「花と蜜蜂みたいな?」と聞いてくる。


 ラク神父が、「良い例え方ですね。ハナバチ」と青空教室で言う。


 どうも『ケイドロ』は『ハナバチ』って発信されたらしい。



 ――花は普通、逃げないけど。



 子供たちの意見により、ハチ役が「つかまってくれてありがとう」と言う新しいルールが追加された。


 なんて可愛いこたちなんだろう?


 聖女の手前、参加はできない。


 村の人々から「ケガでもされたら大変ですからね」と言われている。


 ちょっと残念・・・でもなんだか嬉しいような気もする。

 


 私の流した涙を、サクラ君が気づいて・・・その軌道きどうにキスをくれた。



「来てくれてありがとう」


 彼の優しい発音も大好き。



 私、ちゃんとした人間になりたいですっ!!

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