三十参話 博愛主義者
王宮の廊下を歩いている。
「それで、ふたりの間に進展はないの?」とお妃様。
「それが・・・本当に今のところ進まないんです」とフェルナルド。
「なにが問題なんだい?」と王様。
「うーん・・・」と唸るフェルナルドをさえぎるように、私が言う。
「あ、あの。今から見に行くのは古代兵器なんですよね?名前とかありますか?」
お妃様が「あら、言ってなかったかしら?」と不思議がる。
「あ。ゼウス・・・でしたっけ?」
フェルナルドが「『ゼーウス』だよ、アメ」と訂正。
――もしかして神様の名前?くわしくはないけど。なんだか怖い。
王様が「そのあだ名を『博愛主義者』と言うらしい」とぼやいた。
「博愛主義者・・・?」
「そろそろ目的地です」と衛兵。
衛兵が側にいるんだけど、みんな標準語。
サクラ君のなまりが恋しい。
とある扉の前で、立ち止まる面々。
「こちらです」と衛兵。
「さぁ、ゼーウスのお目見えよ!」とお妃様が妙に嬉しそう。
うっすらと両開きの扉から光がもれたところ、目を細めた。
そしてそこから出てきた白衣の男が、焦っていた。
「も、申し訳ありません」
「どうしたの?」
「問題が発生したので、本日の視察は延期していただきたい所存」
「・・・あら・・・」とお妃様。
「うーん・・・もうすぐ完成なんだよね?」と王様。
「どうも、詰めの部分が上手くいかず・・・申し訳ありません」
「・・・うんうん、アメちゃん。今日は予定を変更しよう」と王様。
作業員に挨拶をして、きびすを返す面々。
――また長い廊下を歩くのか・・・怖いくらいほこりひとつないみたいに綺麗。
「あの、古代兵器ってどんなものなのですか?」
「移動手段なんだよ」とフェルナルド。
「・・・ん?」
「そうなんだ。詳しいことはまだ言えないんだがね」と王様。
「瞬間移動とか?」
思いついたことを考えもせずに口にだすと、周りは明らかにぎょっとしていた。
すぐに穏やかな顔にもどった王様が「勉強家だなぁ」とぼやく。
それで多少の緊張がほぐれたらしくお妃様が言う。
「隣国との冷戦も古代兵器が完成すれば終わる」
「あの・・・つまり、領地争いなんですか?」
「うーん・・・領地争い?・・・うーん・・・僕は、『和平』のために来た」
フェルナルドのその言葉で、王様もお妃様も何度も小さくうなずいている。
――ちんぷんかんぷん。
そのあと特別室に呼ばれて、魔法について解説があった。
魔素に適合しないひと、つまり魔法を使えないひともいる。
そして適合するひとは、複数の眷属を持つ者もいる、と。
綺麗な器に入った『特別』な魔法石を両手に持つ。
目をつむり意識を集中して、そして何かの意思とリンクした気がした時。
口が勝手に、「ヒジリ、カゼ、バリア」と言った。
周りにいた見守り人たちが拍手をする。
側にいた王様とお妃様は複雑そうな顔をしていた。
フェルナルドが言う。
「僕との結婚はしない、ってこと?」
「はい・・・もしか、したら・・・役に立てるなら、魔女討伐隊に入りたいです」
そう言った私は両手に持っていた器を平静を装って元のテーブルに戻した。
「大丈夫ですよ、アメ」
同席していたラク神父は、『軍人』ラク・フレイアに戻っていた。
私の担当をしてくれるらしい。
「ラク神父・・・」
「ラクか、ラックでもいいですよ」
「ラック・・・・・・気絶してもいいですか?」
「はい。ベッドまで運びます」
「安心しました」
そう言って私は、気絶をした。
どうも倒れる身体を受け止めて、部屋に運んでくれたのはラク。
――
――――・・・
その日からしばらく私は眠っていて、そして目覚めた時に軽いめまいを感じた。
周りの仕えのひとたちが心配してくれた。
側にラクがいる。
「何か夢を見たのですか?」
重たいような気がする口には、まるで鍵がかかっていた。
「・・・奇妙な夢を見ていた気がするけど、覚えていないです・・・」
困惑している周りのひとに対して、ラク・フレイアは平静だった。
「何か食べたいものか、食べれそうなものありますか?」
「・・・おにぎり、食べたい」
数秒の間があった。
「『おにぎり』って・・・何?」




