二十八話 本格的な冬
さすがに冬らしくなってきた。
涼しいが『寒い』に変った。
相談の手紙に返事を書いて、少し気伸びをした。
自室の中、机を前に椅子に座っている私に、ラク神父が紅茶を淹れてくれた。
赤いお茶に、角砂糖ふたつ。
少し疲れてるなぁ、と思う。
甘い芋の苗が手に入らない村からの相談で、砂糖はなんとかあるらしい。
なので『ポテモンド』をおすすめした。
この国にはじゃがいもがあることが分かって、私が考えた料理。
◇じゃがいもを蒸かして潰して、砕いたアーモンドと適量の砂糖を混ぜる◇
それだけの簡単レシピだけど、あると安心するかも。
「これは―・・・とってもいものです!」
ラク神父は嬉しそう。
微笑をした私にラク神父が言う。
「こんなに協力してもらって、どんなお礼をしたらいいのか分からない」
「とんでもない!」
あわてて立ち上がろうとした私をいさめて、ラク神父は静かに涙を流した。
「・・・アメ。あと、もう少しで私と『姫』は王宮へ戻らなければなりません」
「ラク神父・・・村の人達との交流って―・・・」
「いえ、基本的に取れないと思って下さい」
「そうなんですか?」
「そうなんです。あなたは奇しくも聖女兼姫として転生した」
「・・・お城は・・・私のこと、どう思ってるんだろう?」
ラク神父は小さくかぶりを振った。
「今からでも、サクラと逃げたらいい。自由同盟国へ」
「はぁ!?イヤですよっ」
ノック音がして、入ってもいいか、と声が聞こえる。
慌てて涙をぬぐった私とラク神父は、そちらへと向き直った。
「どうぞ」
部屋に入って来たのはサクラ君で、スケッチブックを持っていた。
ラク神父が「それは何?」と聞いている。
サクラ君が「見てくれや」とラク神父に向けてページをめくる。
そこには村のひとたちの笑顔や、草花の形や、偵察用の目玉オバケの絵があった。
それは・・・実は、私が描いたもの。
前に絵が少し描けるみたいにこの記述にしたと思う。
スケッチブックを隣町でみかけて、ポケットマネーで買っておいた。
こちらでは鉛筆も消しゴムも貴重。
「万屋:よろずや」がコンビニ感覚。
ラク神父は絵を見て、意外そうにしていた。
「この視察用の目玉オバケ、とてもすごい観察力だ」
「これも、見て~」
そう言ってサクラ君は、自分の似顔絵を示した。
「うんうん、似てるね。それで、アメ。絵をどこで習ったんです?」
「えっ?いえ、独学です・・・イラスト見てるのが好きだったり、して・・・」
「イラスト・・・」
「イラスト投稿するサイトとか書籍とかがあったんです」
「うーん・・・イラスト、ね」
「つまり、絵、です」
「うんうん。不思議な聞こえ方がする。説明はむずかしい」
「こちらにも時々おこります」
「なるほどなぁ」
「反応薄くてなんやさびしいわぁ。ラク、あんたさんの顔の絵もあるで」
「ほう、どれ?」
描いた絵を見て、「おお、僕はこんなに美男子ですかね?」と嬉しい気遣い。
サクラ君も微笑。
「こういう絵は、城に持って行っていけないのんけ?」
「ああ、今のところ分からない。分かるのは当日だろうなぁ」とラク神父。
「ダメだったら、どうなるんですか?」
「「焼いて捨てる」」
「ええっ!?イヤですっ」
「「うーん・・・」」
「村のひとたちにあげたら、もらって嬉しいですかね?」
ラク神父が「検討しましょうね」と嬉しそうに言った。
部屋を出て行ったラク神父を見送り、サクラ君は言った。
「もうすぐ城に行かんといけん・・・」
「はい・・・」
「わしは我慢しとるけど、浮気はせぇへんから」
「・・・はい」
視線を落とすと、サクラ君の涙が手の甲に落ちた。
顔を上げる。
「ホンマやから」
「私はあなたを愛しています」
「・・・分かった」
「あなたのことが大好きです」
「俺、そんなこと口に出したことなかったな・・・・俺はアメを愛してる」
感動で涙が溢れた。
そのあと濃厚なキスをしあって、その日は同じベッドで眠った。
キス以上のことは・・・なかった。
そろそろだとは言われたけど、翌日、城から手紙が来た。
召喚命令だった。
青空教室の子供たちと遊んでいるところ、突然のことで動揺した。
準備に多少の時間を与えると言われた。
荷物担当の引っ越し屋みたいな役割の兵士が、絵をあげたらいけないと言った。
自分の荷物として持っているなら、焼かなくてもいいらしい。
向かうのはラク神父と三人兵とサクラ君と私。
六人兵は村に衛兵として残る。
三人兵と一緒に、六人兵に会いに行った。
忙しそうだけど、これで今生の別れかもしれない。
視線が合って、歩が早くなって、そして六人兵に抱きついていた。
受け止めてくれた六人兵たちが苦笑している。
もう泣きそう。
「あなたたちを、ひととして、愛しています」
「マジでっ!?」
そのあとしばらく間があって、ふと顔を上げてみた。
全員が、泣いてくれていた。
「さびしい・・・」
「俺達、頑張るよ」
「我も最善を尽くす」
「俺も愛している」
「大好きだよ」
「ありがとうです」
「今まで本当にありがとうっ・・・戦いが終結したら、きっとまた会おう?」
六人兵と、号泣していて言葉が出せない三人兵がうなずいてくれた。
「「絶対だ!」」
「うんっ」
ハタゴの婆が実は元王宮仕えであったことを知ったのは、出発の当日だった。
水色を基調に、黄色のレーズのふちどりの帯リボン。
それを貰って、王宮からの迎えの馬車に乗った。
護衛はサクラ君じゃない、知らないひとふたり。
自然と表情が硬くなる。
――わたしは、レイン姫。姫らしく。美しく!!
・・・そうか、レイン姫は、こんな心地でずっと生きていたのかもしれない。
知らないひとと肩を並べる満員電車を思い出した。
そんなフレーズが入っている歌とかも。
曲名はどうも、ふんわりしすぎて思い出せない。
冬のせいで鬱々(うつうつ)としている。
隣に座っている兵がひとりこちらに言った。
「はちみつレモン、だいぶ助かっています・・・」
「・・・えっ、あ、はい。お役にたてて嬉しいです」
もう片方の兵が意外そうにまたたいた。
表情がゆるむ。
「緊張しています」
護衛ふたりが微笑した。




