弐話 事実確認
どうもこの身体の主だった聖女様の記憶がないので、周りに聞かないと色々困る。
聖堂で棺に入れられ眠っていたのは、呪いがかけられたから。
その呪いは運命の相手のキスでしか解かれない。
原因は、魔女に向かって「私は美しい」と聖女様が言ってしまったから・・・らしい。
なんだかショック・・・
そして、キスで目覚めた日は、呪いを解かないと死ぬ当日。
夕暮れまでには出会わないといけないので、男陣が列を成していた。
そして『運命の相手』は目覚めた『私』を目の前に、「何も語るな」と言って人波にいなくなってしまった。
どうも個人的に気になるのがここらへん。
顔がそっくりな衛兵がひとり、いる。
なまりで喋っていて、つんけんした感じだ。
話をしてくれたラク神父も元衛兵であるらしい。
どうもこのふたりが、小国の『姫』である私の見守り役に任命されたらしい。
遠目から顔を見たけれど、気になっている彼はなぜか不機嫌。
視線が合う度に眉間にしわを寄せて、そっぽを向かれる。
――もしかして、身体の持ち主だった姫の日頃の態度の印象が強い・・・?
つまり、嫌われている??
ヤバい。
キスで呪いを解いてくれたひとじゃないんだろうけど、気になる。
ヤバいとか、前世の言葉じゃないか。
ヤバい、ヤバい。
私、恋をしているかもしれない。
――
――――・・・
「ああ、そうじゃ、俺は姫さんのことが嫌いじゃ」
そう言ったのは、お守り役の衛兵・・・名前をサクラと言うらしい。
前世の印象で植物を連想したけど、どうもその植物を知らないらしい。
この世界には存在しないのかしら?
名前の意味を聞こうと思って、「サクラ君」と切り出した途端・・・
彼はキレた。
とっても都会的な美を持つ顔立ちなのに、喋り方はなまっている。
元農夫の家で、出稼ぎに出ている間に村が魔女に燃やされた悲運を持つひと・・・
そして「生き残ってよかった」と発言してしまった。
今思えば、ツラいことかもしれない。
それ以来、妙に避けられて視線は特に合わないけど、状況は話してくれるようになった。
個人的にラク神父経由で村に雇われている衛兵。
ラク神父を衛兵の先輩として尊敬しているので、村にまだいること。
それから・・・私へのキスに覚えがないことも言われた。
きょうだいがいたりしないか聞いたら、火事で亡くなっていて・・・
そしてそれ以来、親戚とも連絡がつかない状態で兵士の仕事を選んだ、と。
もしかしてなまりを止めないのは、過去への執着なのかな、って少し思った。
うーん・・・それは勘違いレベルの私の空想かも?
とにかく私が恋をしているのは、サクラ君。
キスで呪いを解いてくれた相手には感謝しなくちゃ。
サクラ君に出会えたから。
――私にキスをしたひとは顔に傷があった。
・・・こんな気持ち初めて。
私、恋をしているわ。
でも、キスをして呪いを解いた相手が見つかったら、そのひとと結婚らしい。
これはラク神父も意外がっていたけれど、聖堂引きこもり生活はいやだ。
とにかく現状が分かりにくい。
それから、私に呪いを駈けた魔女と、サクラ君の里を焼いた魔女は同一。
見つかったら討伐する、と言われた。
なので周りのことを知りたい、と思って見守り役のサクラ君に願い出てみた。
ラク神父は文字の読み書きなんかを村の子供達に教えるために時間がおしいらしい。
柔和な感じが人好きして側にいると安心するけど、仕方ないです。
ああ!それから・・・
この身体に残っている記憶で、この記述をしています。
どうも聖女様は読書家だったらしく、その記憶は潜在能力として残っていました。