十八話 秘密の果物
村人さんたちが所望した植物の鉢苗が大きくなって、実をつけた。
まるで小さな桃。
果物らしく、名前は「ナイス」と言うらしい。
これは古くから観賞用として一般家庭の軒先なんかで育てられていたらしい。
ナイスについての話題になって、サクラ君とラク神父が苦笑した。
「王宮に知れたのは最近のことや」
「そうなんですよ」
「・・・え?」
「「庶民の秘密の果物」」
書物なんかを調べても出てこない。
ここに記述しておこう。
ナイスは観葉植物として、王宮に秘密で育てられていた食用の果物。
庶民の宝、と密かに呼ばれているらしい。
食べられるかどうか聞かれたら、「食べてもいいけど死にますよ」と答えていたと。
ラク神父が、「まぁ大概のひとは100年くらいで死にます」と言う。
素晴らしい仕掛けやろ、とサクラ君は笑っている。
こちらも思わず動揺に笑ってしまった。
――ああ、そう言えばここ『異世界』だった。
村人さんたちの中から、特に料理が上手なひとが選出されて料理の手ほどき。
「ナイスは皮を剥いて、半分に切って、種を取り砂糖水で煮ると美味しいんです」
――なるほど!
「ジャムとかにしたら保存はききますか?」
「えっ?ジャム??いえ、ナイスでジャムって聞いたことない」
「保存が効かないのかぁ・・・残念」
「あ、でも、砂糖水で煮ると長持ちしますよ。甘くなるし、莓感が素敵です」
「いちごかん!?」
手順通りに料理をしてみて、試食。
生で食べるとちょっと青くて渋いけど、砂糖水で煮ると料理の意外性。
砂糖水で果物を煮ることをコンポートと言うけど、ナイスのコンポートは・・・
「ベリーナイス!!あはは。美味しい。莓とふんわり桃と梨」
「素敵でしょう?」
「素晴らしいわ!気に入った!!」
「うふふ。聖女様の喋り方、最近、さまになってきてますよ?」
「そうですか?嬉しい」
「うふふ」
「うふふ」
ヒジで小突きあってる時にサクラ君とラク神父が来て、一緒におやつ。
レモンを使ったら保存は長めにならないか聞いたら・・・
「ジャムじゃあるまいし」と返された。
うーん・・・これがジャムになって保存が効いたら素敵なのになぁ。
熱しても肉厚でフォークなんかで潰せないし・・・
私ってなんで、異世界に来て食べ物にこんなに恵まれてるんだろ?
神様、ありがとう。
・・・そうだ、レモン果汁を使ったらどれくらい持つか実験してみよう。
――
――――・・・密閉された瓶にとっておいたけど・・・悲惨。
肉厚すぎて、中にまで砂糖もレモン果汁も届いてない。
煮込みすぎると美味しくない。
みじん切りコンポート。
・・・ええっ?けっこう長持ち。
パンに塗って食べてみたけど、案外と美味しい。
要は、ミキサーがあればいんじゃないの!?
この世界って、ミキサーってあるのかしら??
――
――――・・・
ミキサーって自由同盟国にはあるのっ?
遠いんだ・・・
レイン姫ってなんでこんなレア情報が載ってる書物所持していて知恵にしなかったんだ。
ラク神父が、「ミキサーはありますけど、洗うのが手間なんです」と言う。
なるほどなぁ・・・フードプロセッサーとかももしかしたらあるって。
ただ、遠方。
ここは小さな村・・・
送料がかなりかかる。
自費で出せなくも無いけど、「ダメですよ」ってラク神父に言われた。
「ナイスは庶民の旬の秘密の食べ物なんです。保存はしない」
「なぜ?」
ラク神父がため息を吐いて、少し言いにくそうにした。
「こんな美味しいものがジャムにでもなったら、王宮が占めるでしょうに」
「・・・ええっ?」
「まぁ、大量生産の試みがまだされてないけど・・・秘密は甘美」
「お砂糖みたいに?」
「ええ、お砂糖みたいに」
「異世界から来た者として聞きますが、ジャムになったら嬉しいですか?」
「大量生産が叶って、ってこと?」
「はい」
「うーん・・・情緒的に答えたくない」
「なるほど・・・ずけずけ聞いてすいませんでした」
「いえいえ。大丈夫。百五十年生きてると、なんか色々とね・・・僕、軍人でもあるし」
「ジャムはム無理?」
「ミキサーを洗う手間が、どうしても問題なんです」
あとはその日一日、私は解せずに唸ってばかりいた。




