十五話 魔女が眠りから覚める頃
村公認で、サクラ君と交際をすることになった。
皆が、元カレ的な存在がラク神父であることを知っていて、祝福してくれている。
なんたって、別人。
わたしは「アメ」であって、「レイン姫」じゃない。
皆がそれを喜んでくれていて、アメとしてサクラ君と付き合おうことを応援してくれている。
ただ・・・「甘いことはまだしない」とサクラ君に言われた。
「甘いことって例えば?」
「分からんのんけ?」
「んん~・・・はっきり言ってほしいです。私、恋人がいたことがない」
「ああ。子作りのことや。できたら大変やろに」
「・・・そっか~・・・ちょっと楽しみにしてたのに・・・」
「正直なひとやな。望まれてるの気づいてはいたが・・・」
サクラ君は苦笑しながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
人気の無い自室、ふたりきり。
なにかないとおかしくないですか、って思ってしまう。
でもここは異世界だしなぁ。
なにか話題を・・・
「そう言えば、異世界って三つ目の牛とか普通なんですね」
「いや、なんの話か分からん。三つ目の牛なんているわけない」
「え?」
「なんや、怖い」
「白幕童子さんたちが連れていた牛は三つ目でしたよ?」
「・・・怖いから・・・抱きしめてくれ」
「・・・え?あ、はい」
こちらから横にいるサクラ君に密着する感じで抱きついてみる。
「なんや、怖いわ~」
「どうしたら・・・話題に出してすいません・・・」
「どうしよう?キスされたら怖いのどっかいなくなるんかなぁ?」
「はぁ!?」
「あ。バレた」
「本当は平気なんですねっ!?ありえないっ」
笑い出すサクラ君が、ベッド際から立ち上がろうとする私の腰を引っ張って座らせる。
笑いが落ち着くと、ため息を吐いてこちらを見た。
「俺は本気だ。だから、まだ抱かない」
「それはなぜ?私の身体が姫だからですか?」
「俺は魔女に復讐をする。討伐を。討伐隊に入るんや」
「・・・子供ができたら大変ってどういうこと・・・?」
「あんたは確かに、身体が姫さんやろに」
「そう・・・なんですけど・・・お城のひとたちも私が異世界転生者だって知ってるんですよね?」
「そうやな。何も動きがないのは少しおかしな気もする・・・」
「あの~・・・」
「ん?」
「姫の自室で、ふたりっきりで、ベッド際に隣り合って座ってて、何もないのもおかしいような気がするのは・・・気のせいなんでしょうか?」
「ううん。気のせいじゃないと思う」
嬉しそうにしたサクラ君が私をベッドに押し倒した。
「・・・するんですか?」
「キスだけじゃ」
そう言って始まったキスは濃厚で、息が少し乱れた。
おでこ、ほほ、目元、唇、首筋、手の甲・・・他にも色々。
なぜか泣き出してしまって、サクラ君は意外がって「どないしてん?」と言う。
「よく・・・分かんないっ・・・幸せです」
「おそらくやが、俺にとってお前ほど可愛い女いないわ」
「そんなこと言われるなんて思わなかった。両想いになりたい」
「どういう意味だ?」
「両想いに、今、なりたい・・・」
「両想いの証?」
しばらく呆然としているサクラ君の側で泣く私。
困っている様子のサクラ君が言った。
「もうすぐ魔女の眠りが覚める」
しゃくりあげながらも、重要なことだと思ったので手を目元からどけて彼を見た。
「魔女を倒すから、そしたら・・・契ろう」
「・・・はい」
「それまでは、キスでええか?」
「はい。それでいいです」
「・・・続き、してもいいか?キスの?」
「・・・はい。こちらからも返していいんですか?」
「かまわんへんで」
そこに、自室の扉にノック音が響いた。
声を抑えて、きっとラク神父だわ、と言うとサクラ君が勢いよく退いた。
多少乱れた衣服を直し、どうぞ、と言う。
扉を開けてひょっこりと顔を出したラク神父が言った。
「件のクッキーの試作、焼けましたよ」
「・・・ええっ?クッキー!?まさかっ・・・」
「ええ、マーマーレードクッキー」
不思議そうにサクラ君が「なんやそれ」とぼやく。
ベッドから降りて、マーマレードジャム輸入の経緯をサクラ君に話す。
相談の手紙が届いたうちの一件で、わたしの前世の記憶でマーマレード作りをすすめたんだった。
ちなみにマーマレードはオレンジと砂糖水で作るジャムのことだと言った。
レモンバージョンもあることも。
マーマーレードがあるところとないところと、まちまちのこの国。
マーマレードクッキーは私が言うまでなかったみたい。
多分、だけど。
「それは美味しいんかい?」
「きっとメロリンコルンよりマーマレードのほうがサクラ君好きだと思う」
「ほ~・・・俺も同席していいのか?」
「いいですよねっ?ラク神父?」
「もちろん、いいですよ」
「あっちの世界にはマーマレードジャムクッキーが普通なんかい?」
「あ。私が文化祭の時に提案した偶然の産物なんです」
「文化祭・・・?」
「いいです、いいです。偶然の産物なんです」
「ふぅん」
なんだか魔女の眠りがいつ覚めるのか、この時は聞きにくかった。
もうすぐ目覚める。
それにしてはサクラ君は暢気な気がするし、あとどれくらい時間が残っているんだう、と思った。
それから・・・
魔女討伐に、着いていけないかなぁって・・・
ふんわり、思った。




