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十話 雨に美を魅て


 収穫された・・・あ、ここでは採取や採掘さいくつやなんかも「収穫」っていうなまりがある。


 そう言えば前世でも、「収穫」って言葉がそんな風に使われてた気がする。



 村には新しい住人たちがいくらかのきを並べ始めた。


 子供たちは『ハナバチ』を三人兵士たちと夢中。


 三人兵士たちは小さい頃から兵士になるために訓練ばっかりだったらしい。


 ・・・あんまり適合してないかもしれない印象を持たせるくらいはしゃいでる・・・。



 そう言えばレイン姫の本棚から、「花と蜜蜂みつばち」と言う書籍が出てきた。


 手に取った感覚では、何度も読んだであろうめくれかたをする。


 もしかしてお気に入りの本だったのかしら、と内容を読んでみた。


 自室の扉がノックされて、どうせラク神父だろうと思って背中を向けていた。



「どうぞ~」



 近づいてくる気配けはい


 流し読むに、内容にぎょっとした。



「えっ」



 後ろにいた人物がひょっこりとのぞきこむ。


「何を見てるん?」


「ええっ?」


「・・・なんや、これ?」



 そこにいたのはサクラ君で、本の内容を読み取って眉間にしわを寄せた。


 思わず本を閉じて、身をひるがえし、後ろ手に回す。



「ち、違います。こ、これは・・・あの・・・本棚にあって・・・偶然・・・」


「ああ、偶然なんやな。この本は有名やで」


「え?そうなんですか?」



 後ろ手に回した手を前に戻して、本のページをぱらぱら捲る。



「んん~・・・この本が面白い、って言ったのは前の姫さんじゃ。俺には分からん」


「どんなお話なのか知ってますか?」



「ああ・・・前の姫さんが読書記録として村人に言いよったんじゃい」


「・・・ん?」



「蜜蜂が花粉を求めるように、ひとの『花』の中に入っていく目的で事件が起きる、って」


「すっごい、怖い・・・おそろしい場面がちらほら出てくる・・・」



「うん。せやな。そう言えばあんたさんは、前の名前、なんて言うん?」


「あ・・・はい。アメです」



 本からの視線を上げたあと、なんだか視線が下がった。



「どんな意味?」


「雨雲から落ちてくる水滴のことです」



「雨・・・?ほー・・・恵みの、とかか。良い名前やの」


「いえ・・・億劫おっくうって意味合いでつけられたんです」



「なんやそれ」


「ですよね・・・」



「美しい、で。ええやん?」


「え?」



「ん??」


「え・・・」



「なんやのん?」


「本当に?適当に?」



「俺は雨は色んな意味合いで『美しい』と思ってる」


「本当にっ?」



「ああ。本当や」


「・・・嬉しいっ」



 また不覚ふかくにも少し泣いてしまって、サクラ君は私を優しく抱きしめてくれた。



「ふたりっきりの時は、『アメ』がええんか?呼ばれかた?」



 しゃくりあげてしまった。


 少しの間ののち、顔を上げる。



「今、するんですか?」


「違うわいな。色々と段階があるやろに」



「そうなの・・・?」


「『向こう側』って一体どんな所やってん?聞くに信じがたいわ」



 苦笑してしまう。



「よく分からないまま、転生してしまいました・・・」


「んん~・・・ふたりっきりの時に、な・・・うーん」



「はい。『アメ』って呼んで下さい」


「そういう時に?」



「よく分からない」


「ふぅん・・・分かったで。今回は衛兵としての知らせに来たんじゃ」



「知らせ・・・?」


「せやねんけど、ちょっと待ち」



 私の身体を解放すると、サクラ君は鼻紙はながみを鏡の前まで取りに行ってくれた。


 戻って来て、渡してくれるのかと・・・思いきや・・・


 自分の鼻を噛んだ・・・?



「あの~・・・私の分の鼻紙、残しておいてもらえますか?」



 こちらを見て、「あ」って顔をして、鼻紙を渡しに来てくれたサクラ君。


 その間に本を本棚に戻す私。


 鼻を噛んで、結局は鏡を見ないと落ち着かないほど鼻の下に違和感が残っていた。


 鏡に対面している私の後ろにたたずんでいるサクラ君が映っている。


 鏡越しに視線が合った。



「知らせ、って・・・?」


「ん、ああ、突然なんやが・・・あんたさんが別人であることがバレた」



 えっ、と声を上げて、思わず後ろに振り向く。



「え、なんでですかっ?誰にっ?」


「うん。村人全員に、今、ラク神父が説明をしている。異世界転生について」



「・・・は?」


「本当の話だ。今、外出するな」



「外出の予定は今はないです。どうして知れたのか知りたいです」


「うん」



 少しの間ののち、「アメ。あんたさんは絵が上手い。前の姫さんは絵が描けない頭や」


「・・・ああ~・・・それで、別人、だと?」



「こちら側では、絵が描けない頭は一生や」


「・・・なるほど・・・子供達の似顔絵とかを描いたんだった・・・どうしよう?」



「問題無いねん」


「・・・ん?」



「前の姫さんが価値観ちょっとおかしいかもしれんから、別人になってくれて感謝やて」


「はぁっ?めっちゃラッキー!!」



「そんな明け透けにするんや?その件で泣くのかと思ったのに・・・」


「え」



「いや、いい、いい」


「え、え、え、え・・・どうしよう?何か間違えた?」



「大丈夫やから、落ち着きぃて。知らせはまだあるねん。近々、来客らいきゃくがある」


「来客?どのような?」



「王宮からの使いらしい。白幕童子しろまくどうじ。ダイヤとモンドさんや」


「しろまくどうじ・・・?」



「不思議な力を持っていて、代価だいかを払えば動くこともある『あやかし』や」


「なにそれっ?」



「その不思議な力で、王宮の古代兵器を発動するめどがたったらしい・・・」


「まさかっ・・・戦争っ?隣国とのっ?」



「違うらしいねん」


「ん・・・?」



「俺も隣国との領地争いかなんかに使うもんやと思っとてん・・・」


「何に使うんです?」



「とりあえず、領地争いにはおそらく使われへん『移動手段』らしい・・・」


「移動手段・・・?馬とか牛とかですか?」



「古代兵器は『電気』とか『ネジ』とか『パネル』とかでできてるらしい」


「もしかしてこの世界、デジタルがあるんですかっ?」



「・・・ん?向こうではデジタル言うんけ?俺は機械に詳しくないで?」


「あ。『機械』でいいんだ?」



 少しの間があって、サクラ君が言った。



「国は、古代兵器で隣国を奴隷国にしようとしていた。その説が濃かった。せやのに、その算段がなくなった」


「それで―・・・なにが問題が?」


「ない、ねん」



 数秒の間。



「もしかして知らせ終わり?」


「そうや」



「もしかして『花と蜜蜂』って、レインが村人に広めたんですか?」


「子供たちは、変な意味も込めて言ったらしいが、別人であるのが分かって安心したって」



「・・・はい。もういいです。自分らしく生きていくしかない」



 そのあと三人兵士、サフ、ルビ、コハが訪ねて来て、絵を描いてくれないかと言われた。


 絵についての件は別の章で書こうかと思う。

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