壱話 解(と)かれた呪い
おぉ、っと周りから注目が更に集まったのが分かった。
重いまぶたをなんとか開けてしばたくと、周りから喜びの声があがった。
棺に入った私は、唇に違和感を感じて起き上がってみる。
すると側にいた男は人波に姿を消して、どこかに行ってしまった。
ここが聖堂の中であり、棺に入っている私は、どうやら聞こえるに『聖女』らしい。
ウエディングドレスみたいなものを着ていて、不思議に思った。
・・・え、なに、花嫁、的なこと??
まだ重たい口で喋るのは難しそう。
頭痛とめまいがするけど、そう言えば誰かにキスをされた。
淡く光っている棺周りが落ち着いて来る頃、ローブを着た男が言った。
「眠りの呪いが解けたようですよ、姫。ああ聖女様かな?」
「・・・姫っ?聖女?なに??頭、痛いっ・・・」
「しょうがない。蘇ったばかりです。部屋に移って養生しましょうね」
「ここはどこですか?」
周りがざわっとする中、微笑してくれたのはローブの男。
「私はこの聖堂の神父。ラク・フレイア。姫はどうやら記憶喪失のようだ」
「ここはどこで、私はどうしてこんなドレス着てるの?」
ラクは首をかしげた。
「あなたはこの国の姫であり、聖女。呪いにかけられて眠りについていたのです」
「何の呪い?」
「魔女による嫉妬で、です」
「嫉妬?なにについて?」
神父は深いため息をつくと、小さくかぶりを振った。
そしてこちらを見る。
「あなたは若く、美しい」
「・・・は?」
「さぁ、棺の中から出てごらん、レイン。ドレスが気に入らないなら着替えを用意しよう」
・・・どうやら口調から察するに『レイン』は、『私』??
どういうことなんだろう?
これは夢?
ああ、そうか夢なんだ??
そう思っていたのに、数時間たっても私は「聖女様レイン」のままだ。
天蓋のあるシルク素材のシーツが敷かれたふかふかベッド。
そこで休んでいると、頭の中が光に満たされた。
光の中から声がする。
《これは天啓です。あなたは異世界転生をしました。これからは聖女レインです》
すと目が覚めて、泣いている自分に気づいた。
これが異世界転生だとしたら、元の世界に戻りたくない。
ノック音がして扉が開き、部屋に困った顔をしたラク神父が入って来た。
「君は呪いにかかっていた。そして呪いを解く方法は運命の相手からのキスしかない」
「え、じゃあ・・・」
あの時の唇への違和感って・・・
「本来なら運命の相手と結婚、と言うことになるはずだが、どうも名乗り出てこない」
「・・・え?」
「うん。向こうにも何か事情があったのかな、って僕は個人的に思っているけどね」
「あの~・・・私って、何歳ですか?」
「14歳だよ」
「14歳で、結婚の話っ・・・!?」
「ん?14歳くらいで子供を産む姫は何も珍しいことではないじゃないか。まぁ上流階級での話だが。君のお母様も14歳で君を産んだ」
「今・・・28歳っ?」
「そうだよ?お城にいる」
唖然としている私の顔を見て、神父は苦笑した。
「様子を見に来ただけだ。まだ疲れているんだろう。休んでいるといい」
神父はかりんとうみたいな色の扉を開けて、こちらに振り向くと「休んで」と出て行った。
―――・・・まだ信じがたいけど。
どうやら私、異世界転生したみたいです。