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恋と占いは片想い  作者: 椋木美都
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 第五話『政川紫水の後悔』

「どういうこと」


空井君は器用に右の眉だけくいっと上げる。


「親友がいて、その子と一緒に受験しようって約束してたんだけど・・・『占い』が私は環里高校を受験するべきだって。多分、学力不足でそんな結果が出たんだと思った。だから親に答えが変わったら志望校を変えたいって説得して、直前まで勉強頑張ってA判定貰えたの。けど、最後までその文は変わんなかった。親も応援はしてくれたんだけど『占い』を見て、結局富潟中には行かせてもらえなかったんだ」


空井君は掴んだ手を離してくれた。私はスマホを自分の胸に当てる。


「『占い』は私の幸せを叶えるために存在してて、パパもママも私に悲しい思いさせたくないって思ってるのは知ってる。でも、私は、私の所為で――風蘭(ふらん)ちゃんとの約束を破っちゃった」


自嘲的な笑みを浮かべる。空井君の反応を伺っていると、彼からとんでもない言葉が出る。


「風蘭?正影(まさかげ)風蘭?」


「え!?ひょっとして」


「同じクラス」


空井君を見ると、何故か苦虫を噛み潰したような顔をしている。


――えーーーーーー!?好きな人と親友がクラスメイトだったのーーー!?同学年だし、名前くらいだったら聞き覚えあるかなって思ってたけど。


「こんな偶然あるんだ!」


「そーだな」


――興味なさそう。そっけなさが滲み出てる。


「もしかして、ふらんちゃんとひと悶着あった?」


「アイツ小学生の頃からあんな感じなのかよ・・・超うぜぇ」


空井君は何が委員長だよと吐き捨てる。


「ふらんちゃん、高校でも学級委員長になったんだ」


――変わんないな。ふらんちゃん・・・。


「会いたいの」


「え!?」


急に言われてドキッとする。


「さっき自分で言ってただろ」


どうやら、無意識に口に出していたみたいだった。


「あ、いや、それは・・・」


「あ?」


「会いたいけど、私から連絡取れなくて。それに向こうは、私の顔なんて見たくないって思ってる。と、思う」


涙ながらに私の進路について話した日から、風蘭ちゃんは私に話しかけてくれなくなった。連絡も全部無視されて、目すら合うこともないまま卒業を迎えたので、私はまだ、風蘭ちゃんに伝えたいことを届けられずにいる。


――きっと今も、風蘭ちゃんは怒ってる。


「いんじゃね」


「え?」


「会いたいなら、会いに行けば」


――今、さらっと言われたような。


「これやるよ」


彼はそう言って何かを私の頭の上に乗っける。


「じゃ、そろそろ帰るわ」


「え?え?ま、待って!?」


私の静止など意にも介さずに、空井君は帰ってしまった。頭を押さえたままポカンと彼が去った方向を見る。


――い、行っちゃった・・・後半私の話しかしてない・・・。でもマイペースなところも素敵!


また千ちゃんとかんちゃんにツッコまれるなぁ・・・と持っていた紙を見る。それが何かを理解した瞬間、衝撃が体中に走った。


空井君から渡されたものは『真中祭(しんちゅうさい)』の招待チケット――富潟中央高校の文化祭に入場するための必須アイテムだった。


11時10分


私は富潟中に着くなり近場の女子トイレに駆け込んだ。


――緊張してきたあぁぁ。やっぱり独りは怖いよ・・・アウェイすぎる。


鏡を見ると、私と同じおろしたてのワンピースに身を包んだ知らない人が不安そうな表情を浮かべている。


――かんちゃんは凄いな・・・私のことこんなに綺麗にしてくれるなんて。


4日前。つまり空井君にチケットを貰った次の日私は千ちゃんとかんちゃんの前で両手を合わせた。


「お願い!真中祭一緒行こ!」


「それって金曜?土曜?」


「土曜がいいな」


「ならウチは無理。普通に部活」


予想通りバッサリ断られた。ならばとかんちゃんを見る。


「空いてるけど」


「かんちゃん!」


脳内でファンファーレが鳴り響いた。


「ちょっとそのチケット見せて」


「うん!」


私は何の疑いもなくかんちゃんに渡すと、かんちゃんは呆れたように溜息を吐いた。


「やっぱり。このチケット1人用みたいだね」


「えっ」


急に音楽が停止する。


「ん~?『本券1枚に対しお1人様の入場が可能です』・・・だってよ。紫水」


「・・・」


残念だったなとかんちゃんに頭を撫でられるが、到底納得出来ない。


「こ、このチケットをコピーすれば!」


「絶対行かない」


「んんん」


私は文字通り頭を抱える。


――終わった・・・1人で他校の文化祭。楽しそうだけど、不安だよ。


「はぎゃ男がいんなら大丈夫じゃね」


「まだ連絡先知らないから、空井君がいつ校内のどこにいるのか分かんない・・・」


「進展のスピードが亀!」


折角名前教えたのに、はぎゃ男呼びを続行していることについてツッコむ余裕もない。それくらい私は焦っていた。


「当日一緒に行けないけど、会いに行ってあげる」


「・・・どういうこと?」


私が顔を上げると、かんちゃんはドヤ顔で親指を立てる。


「要は自信ないから不安なんでしょ。私が紫水を可愛く変身させてあげる」


「本当!?」


「ドヤ顔はムカつくけど、よかったじゃん。香音メイク詳しいもんな」


こうして富潟中に行く前にかんちゃん家に寄り、あれよあれよという間に髪は結われコテで巻かれアクセがついた。顔はかんちゃん曰く素材を生かすメイクを施してくれた。ずっと私のためにメイク講座をしてくれたけど、脳内は空井君一色だったのでほぼ聞き流しちゃった。かんちゃんごめん。


通知音が鳴り、かんちゃんと千ちゃんから『頑張って』のメッセージが送られてきた。


―――そうだ。今私は一人だけど、2人がいる。もっと空井君と仲良くなるし、絶対に風蘭ちゃんと仲直りしてみせる。


「よし」


小さく息を吐いて、女子トイレを出た。


――まずは、1年生の出し物エリアを見て回ろう。


私はパンフレットを開く。


環里高校では1年生が展示、2年生が劇、3年生が中庭で屋台と決まっているけど、富潟中は学年問わず、好きな出し物をしていた。


――1年生7クラスあるんだ。しかもどのクラスもやってる所がバラバラ・・・空井君と風蘭ちゃんがクラスメイトで良かった。まずどこに行くかを『sou』で・・・。


「こんにちは!」


「!こ、こんにちは」


突然、黄色のクラスTシャツを着た男子が挨拶してきた。彼は肩に『2-C はしまき』と書かれた看板を担いでいる。


――2年生・・・先輩だ。


「迷子?誰か探してる?」


「あ、いえ。どこ周ろうか考えてて・・・」


「だったら!はしまきどう?中庭でやってんだけど」


「中庭」


「お願い!まだ1人も呼び込めてなくてさ、このままだとクラスのやつらにボコボコにされちまう」


――まぁ、中庭にも1年生がやってる屋台あるし、先にそっちから行ってもいいかな。


ついて来てくれるだけでもいいから!の一言に乗せられ私は先輩の後をついていくことになった。


――はしまきって初めて聞いた・・・どんな食べ物なんだろう。




今日の占い『絶好のお出かけ日和!けど服が汚れそうな食べ物や飲み物には要注意』



私は文化祭に来て早々、先輩達の洗礼を受けていた。


「かわいいー!」


「タザキナイス!」


「どこから来たん?」


愛想笑いで質問に答えている中、頭ではどうやってこの場を切り抜けようか考えていた。


――はしまき、めっちゃソースかかってる!というか私の今日の『占い』も終わってるし!


私は今日の『占い』を思い出す。この空気感で今はやめときますなんて言えない。


――買うだけ買って、家で食べるか空井君にあげようかな・・・。


「はい!サービスでソース多めにかけといたから!」


「ありがとうございます」


――わーん!


念のため白色の服は避けたけど、もう持っているだけで怖い。


「じゃあ・・・」失礼しますとここから去ろうとした瞬間、連れて来た張本人――タザキ先輩がとんでもない提案をする。


「良かったら、ここで食べてくれない?」


「・・・え?」


「政川ちゃんめちゃくちゃ可愛いから、そんな子がはしまき食べてくれたら他のお客さんも買ってくれると思うんだよね」


「いや、でも。私よりきれいな先輩沢山いるじゃないですか!」


そう言って女の先輩方に視線を向けてもタザキ先輩はやれやれとかぶりを振る。


「え?見て分かんない?どっからどう見てもゴリ」「ごめんねウチのカスザキが変なこと言って」


ベリーショートの先輩が現れたその時、タザキ先輩が腹を抑えて崩れ落ちた。

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