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恋と占いは片想い  作者: 椋木美都
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 第二話『は、はぎゃーー!?』

『わちゃぽいアニマルズ』は千ちゃんみたいに好き嫌いがはっきり分かれてしまう。そんな独特なタッチで描かれた動物のカプセルトイのこと。フィギュアだけじゃなくて、アクリルスタンドやキーホルダー、ストラップなど・・・。


「そして私が今注目しているグッズが『わちゃぽいアニマルズ~水中で生きる~』フレームマグネット全6種!」


わちゃぽいアニマルズ公式SNSの画面を見せると、2人は案の定怪訝そうな表情を浮かべている。


「・・・で?紫水は張り込みでもすんの」


強制的に話題を戻された。私はスマホの画面を閉じる。


「最初に会った場所もう1回行ってみる」


「その人の分かりやすい特徴は?」


かんちゃんの家は私が通っている塾と同じ、富潟(とがた)駅にある。私は出来るだけたくさんの情報を伝えようと頭を巡らす。


「髪はこげ茶で・・・サラサラしてて、鞄左肩にかけてたから多分右利きで黒のワイヤレスイヤフォンつけてて漫画好きで背高くて足長くて目がキリっとしてて肌つやつやしてるけど右のこめかみにほくろがあって」


「多い多い多い」


「よく見てるね」


「しっかりと目に焼き付けたからね!あ、これが一番大事!その人見た瞬間こう・・・はぎゃーーってなったの!」


今もそう。彼を思い出す度胸が締めつけられたように痛い。


「歯医者行けよ」


「親知らずが神経に食い込んでいるのかもしれない」


揚げ足を取られても怯まずに主張する。


「違うの!胸抑えてるじゃん!今もその人のこと思い出すとこんななっちゃう・・・」


「これがガチ恋・・・狂っているな」


「私の恋愛が如何に打算的なのかを突き付けてくるなんて酷い」


「香音のは果たして恋愛と言えるのか・・・」


「彼のことは好き好き大好きだけど?」


「そう!本当の恋はかんちゃんみたく冷めっ冷めじゃないの!」


「恋愛の形は人それぞれよ」


――それはそうだけど・・・そうなんだけど!


「2人が運命の人に出会えた時!絶対今の私みたくなるよきっと!はぁ・・・何て名前なんだろう。声も聴きたいな・・・名前で呼んでほしぃぃぃぃ~ん」


「恋したくないわけじゃないが、あんなにはなりたくないな」


「千も空円について語ってる時と遜色ないよ」


「何だと!?」


進捗あったら報告よろしくということで、今日の昼休みは終了した。


そして


「今日もいない・・・」


彼をもう一度見つけると豪語してから早4日が過ぎた。この時間帯に来たのはたまたまだったのかな。もしこのまま会えない日が続いたら――


――最終手段として、彼の通っている高校で待ち伏せする・・・。


脳裏に非常識な考えが浮かんだので、いやいやとその考えを打ち消す。


『会いたい人に会う占い』も名前が分からなければ機能しない。自分の運と目だけが頼りだ。


彼探しは打ち止めにして、折角塾がないのに駅に来たんだからと地下街にあるガチャポンコーナーへ立ち寄ることにした。


そこで私は別の出会いを果たすことになる。


――え!?新しいの入荷されてる!特にこのシロナガスクジラ超かわいい~!欲しすぎる・・・けど・・・。


『sou』を開くと『政川紫水 さんの今日のくじ運は6%です。引くことはおすすめしません』と表示されている。


ひ、一桁は絶望的すぎる・・・今日は引いても出ないだろうな。来週になったらお小遣いももらえるし。今日は我慢・・・明日の運次第でまた来てみようかな・・・。


私は回れ右をして帰宅しようと足を――。


足を――。




「またラッコ・・・これで3個め」


――で、出ない!全然だめだ・・・。


結局誘惑に耐え切れずガチャを引き始めてn回後、未だにシロナガスクジラを出せないでいた。


――他のアニマルズも十分かわいいし!欲しいしね!全種コンプリートしちゃおう!!そのついででシロナガスクジラが当てれたらいいし!


そう自分に言い聞かせていたが、そろそろこのやせ我慢も限界に近付いてきた。


とうとう持っていた100円玉がなくなり、急いで両替機に走ると『故障中』の張り紙が貼ってあった。


「何で!?」


よりによって今日なの・・・しばらく呆然としていたが、ようやく諦めがついてきた。


「明日にしよう・・・」


「故障中?」


ガチャポンコーナーを後にしようとしたその時、知らない声が聞こえた。


「はい。今日は使えないみたいで・・・」


・・・は



はぎゃーー!?


声の主は、私がずっと探していた――『一目惚れした人』だった。


――わ、わわわわわわわわわわわわわわわわわ。


彼から目が離せない。私は内心大パニックになっていた。


「ふーん」


――ひぃやぁぁぁぁぁ!声!声も素敵すぎるううううう!


「諦めんの?」


間違いなく耳まで赤くなっているだろうけど、彼は構わず私に問いかける。


「え・・・はい。さっき全部使ってしまって」


「ほら」


彼が差し出した手のひらには300円――ちょうど、ガチャ1回分のお金が乗っていた。


「え?ええ?」


理解の遅さに苛立ったのか、段々と彼の眉間に皺が寄る。ワイルドで素敵!!


「横の自販機でこれ買ったときに出てきたやつだから。俺小銭嫌いだし」


そう言って彼はミネラルウォーターを軽く振る。私は小銭と彼の顔を交互に見つめた。


「・・・本当に良いんですか」


「なんかずっと引いてて可哀想だったから」


ん?ということは・・・体温が上がっていくのを肌で感じる。


――一部始終見られてたってこと!?


「は、恥ずかしいところを・・・」


「で。引くの」


「引きたい!けど・・・『占い』が・・・」


「チッ」


急に舌打ちされて驚く。彼は――怒っていた。


「そんなに悪いんなら、何でさっきまであんなガチャ引いてたんだよ」


「それは」


欲しかったからじゃねぇの。と言って、彼は開いていた手を握る。


「どいつもこいつも『占い』『占い』『占い』・・・馬鹿じゃねぇの。マジで気持ち悪い」


彼を怒らしてしまった。私がいつまでも煮え切らない態度とってるから。


そのまま手をポケットにつっこみ、行ってしまうのをを阻止したくて彼の腕を掴む。


「待って!」


「!」


「あ、ごめんなさい・・・私」


深呼吸して真っ直ぐに彼の目を見る。


「今日のくじ運が6%でも・・・引きたいです!引かせてください!お願いします!」


「6%!?」


素っ頓狂な声が上がり、情けない気持ちになる。


「あ、あはは・・・無謀だよね、やっぱり。もともとあんま高い方じゃないんだけど」


私は、他の人と比べて『くじ運』が低い日が多い。普通の日は20%~30%で、良くて50%で悪くて1桁。0%だった日に、画面を家族に見せたらSNSに晒された。『sou』は月末になると、運ごとの平均値を折れ線グラフで表示してくれる。『くじ運』の項目で『sou』ユーザー平均値と私の値を比較しても、超えている月が1年を通して2回あればいい方で。


「馬鹿だろ」


バッサリ切り捨てられた。でも顔がいいからご褒美です!


彼はしゃがんで、さっきまで私が引いていたガチャポンに小銭を投入する。


チャリンと3回、彼の長い指が100円玉を投入口に入れていく。その動作すら輝いて見え、私は思わず目を抑える。


「・・・回せば」


目を開けると、目の前に彼が現れた。


「はあっ!!あ、ありがとう!お金は絶対返します!」


別にいいという彼の言葉を尻目に、ガチャポンの前で合掌する。


「・・・そんなんしても意味ねーだろ」


「だって泣きの1回ですよ!?ちなみにあなたに引いてもらうっていうのは・・・」


「帰るわ」


「紫水、引っきまーす!」


ガチ、ガチ、ガチン・・・コトッ。


「出た・・・!」


奇跡のフレームマグネット・・・例えこれが4個目のアシカになろうとも、超大切にする!!


「中身見えないんだ」


「はい。『わちゃアニ』シリーズのカプセルトイは全部このタイプなんです」


では、と私はセロハンテープを外して留め具に手をかける。


「開けます・・・!」


カポッとカプセルが開き、中には――白くてでっぷりと太ったアニマルズが描かれていた。


「なんだコレ・・・」


私がワナワナと震えている中、彼はマグネットをひょいとつまみ、袋越しに観察している。


「少なくともクジラじゃねーな・・・あ、お前がクジラ来いクジラ来いって言いながら引いてんの見てただけで・・・つーかここあんま人通らないからって独り言呟きすぎ」


「――ごい」


「ってかこれフレームの部分がキラキラして――?」


「すごいすごいすごい!これジュゴン!シークレット!!シークレットだよ!」


私は感動の余り両手で彼の手を掴み、上下に振る。


「!?」


「ありがどううううう!引いてよっかったぁぁぁぁぁ!めちゃくちゃ嬉しい!」


「分かったから!手!手離せ!落ちんだろ!」


「わっ!ごめんなさい!」


彼の目元が赤みを帯びているのを見て幾分か正気に戻った。


――勢いでついやっちゃった・・・でも、慌てた顔もかわいい!千ちゃん私、男の人にかわいいって思う気持ちやっと分かったよ!

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