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恋と占いは片想い  作者: 椋木美都
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エピローグ『空井直冶は恋をする?』

政川の声が聞こえなくなって数分が経過した。俺は昨日から充電の切れたワイヤレスイヤフォンを外して、ケースにしまう。他に利用者がいないのをいいことに、頭を畳につけた。


「マジかよ・・・」


体中が熱い。政川が俺に好意を持っているのは薄々気がついていた。だから、彼女が嫌がらないのをいいことに近づいたわけだが。俺は寝ころんだままスマホを開き、『sou』をインストールする。データダウンロードの間、あの時のことが脳裏に浮かんでいた。




「直君。久しぶり。私のこと覚えてる?」


沼山先輩らしき人に声をかけられた瞬間、心臓が口から出るかと思った。だが、声が全く違うこと気づき、酷く狼狽する。


「その制服・・・まさか、アンタ」


「眼鏡の後輩君に言われてやっと分かったの。私は自分のことしか考えてなかったって」


あの時はごめんなさい。と平先輩は頭を下げた。


「・・・殊勝な心がけっすね。こっちは先輩のお陰で一生分のトラウマ背負いましたよ」


「だから反省して、改めて思いを伝えようと思って。ほら見て。私、大分沼本さんに近づいたと思わない?」


平先輩は縮毛矯正された髪をいじる。


「俺の好みの見た目になったら、付き合えると思ったんですか」


「うん。このくせ毛を直すのには時間がかかったけど、それで空井君が手に入るなら、ブリーチだって、ピアスだって開けてみせる。同じ高校に行くほど、好きなんでしょう。沼本さんのことが」


「・・・じゃねぇよ」


「え?」


「沼本先輩の見た目を好きになったんじゃねーよ!俺は、アンタのことが『占い』の次に嫌いだ。ってかキモい。生理的に無理だわ。ガチで」


俺は心の中で思っていたことをそのまま口に出した。


「消えてくれ。つーか俺も16になって一応『将来結婚する相手』見たけど、アンタはかすりもしてなかったし、沼本先輩でもなかったわ」


「・・・っそんな、どう、して・・・?」


「触んな。きしょいんだよ。その面もう2度と見たくねぇ」


平先輩は震える手で俺に触れようとするが、険しい表情のまま1歩後ろに下がる。俺を映していた瞳にはじわじわと涙が溜まり、完全に決壊する直前、平先輩は短くなったスカートを翻して走り出した。


陰から2人の女子高生が出てきて、1人は「すぅ!待って!」と言って平先輩を追いかけた。そしてもう1人。平先輩と同じ制服を着たボブヘアーの先輩らしき女性が怒りの形相で俺に食ってかかるのだった。




沼山先輩は変わった。ベビーカステラの屋台で政川が正影を見たときの表情は、以前コンビニで先輩を見た時の俺と同じものだったと思う。政川に出会ってしまった以上、もう今は、沼本先輩の質問に即答できる自信がない。


彼女のことを助けたのは、ほんの気まぐれだった。後ろ姿や仕草が何となく昔の沼山先輩に似ていた気がしたから声をかけたっていうキモい理由。


ダウンロードが完了する。1年半ぶりだったが、操作方法は変わっていなかった。俺は目当てのカテゴリを選択し、迷わず『占う』をタップした。


「はぁ・・・だっせ」


俺は勢いよく起き上がり、そのまま駆けだした。今一番会いたい人(政川)と話すために。




『空井直冶 さんが将来結婚する相手は 20××年10月24日 現在、最も近くにいます。国籍は日本人、黒髪、身長154~156cm、血液型AB型、9月生まれの乙女座、右利き、知能指数上の中、長女、収集癖あり 年齢差0~1 の女性が将来あなたとの幸せを誓ってくれるでしょう』










番外編『何故占えなかったのか』


富潟西中学にて。



休み時間、少年漫画のノベライズ作品を読んでいると庄本がこちらにやってきた。


「庄本。この前の平って先輩は」


「もう大丈夫!ちゃんと話つけたから。運命のいたずらがない限り、空井と会うことはない・・・といいな」


「そこは言い切ってくれよ」


「僕が決めることじゃないから。それに女心ってリアルタイムで変わるし。この前風蘭が」「あと俺、もう1つ決めたことがある」


「はーまだあんの?」


「これから関わっていく人達にはこの名前で通していく」


俺はルーズリーフに『空井直治』と書いた。庄本は俺の机の上に置いてある理科の教科書を裏返し、氏名の蘭に記入されてある『空井直冶』と見比べる。


「とうとう間違われすぎてうんざりしちゃった?改名したくなった?」


「ちげーよ。高校上がったら、占える量が増えるだろ」


「あー確かに。『将来結婚する相手』とか解禁される『占い』が結構あるんだっけ」


「もう自分を占うのも、勝手に占われるのもキモい。キモすぎて耐えられねぇ」


「その名前で通せば空井のことは占えないけど、何でそれを僕に?」


「高校でも世話になるからな」


俺はにや、と笑って、進路希望調査票を手に立ち上がった。


「はぁ!?おいおいおい。あの人がいるのにいいのかよ」


「沼山先輩は関係ねぇ」


――俺が自由に生きるためには、力が必要だ。優等生という証が。俺は沼山先輩とは違う。『占い』結果が出てるからこうなるのは当たり前なんて、誰にも言わせない。


「『占い』なんてなくても、富潟中央くらい受かるって証明してやるよ」


左の袖を捲る。まだうっすらと残るベルトの跡を撫で、微かに微笑んだ。

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