ゆうちゃんは憂鬱
とくに落ちもなく山もないけどなんとなく思いつきました。
ゆうちゃんは憂鬱だ。
ゆうちゃんはごく普通の小学六年生である。ごく普通の住宅街にすみ、専業主婦ののほほんとしたお母さんに会社員のふにゃーとしたお父さんがいて、普通の小学校にかよう一般的なこどもである。特に天才だとかはなくごく普通のおませな女の子だ。
そんなゆうちゃんだが、ひとつだけ変なところがあった。他の人が見えないものが見えるのである。それは人によっては幽霊だというかもしれない。ゆうちゃんにとっては変な黒い影である。その黒い影は人が死んだところに比較的多い。ゆうちゃんは物心つく頃からその影が見えた。影が見えてもそれがゆうちゃんに何かすることはない。逆にゆうちゃんがえいやーと殴るとすぐに消えちゃう、弱いものだ。
ゆうちゃんは小さい頃から影が見えたので、当然親にも言った。ただ、のほほんとしたお母さんとふにゃーとしたお父さんなので、そっかーで終わった。だから、よくある家族から嫌われたり怖がられたり何て全然ない。ただ、友達とか周りの大人とかにいうと嘘つきとか言われたので早くから周りにいうことはなくなった。
そんなゆうちゃんだが、最近は憂鬱なのである。その原因は隣に引っ越してきたるーちゃん。るーちゃんはゆうちゃんと同い年の男の子だ。明るい茶色のふわふわの髪に大きな飴色の目をした男の子で、残念なことにゆうちゃんよりもかわいくてぱっとみは美少女なのだ。ゆうちゃんは最初女の子だと思ったのでるーちゃんと呼んだのである。男の子だとわかってもかわいいのでちゃん読みだ。
そんなるーちゃんはゆうちゃんとは真逆で勉強はできるし運動はできるし天才って言われるものだ。そして変な影は見えない。
ゆうちゃんと全然違うるーちゃんとあったとき、ゆうちゃんはびっくりした。るーちゃんはるーちゃんの親と一緒に引っ越しの挨拶にゆうちゃんちに来た。ゆうちゃんがるーちゃんを見たとき、るーちゃんは真っ黒だった。小さい頃から黒い影を見て図太くなったゆうちゃんでもさすがに驚いた。るーちゃんは普段見る黒い影におおわれていたのである。黒い影が人に寄り付くのは見たことあったゆうちゃんだが、黒い影におおわれて顔も見えない人にあったのははじめてだった。
思わずゆうちゃんはえいやーと殴っちゃった。するとさーっと黒い影は消えてそこからとんてでもなくかわいい子がでてきた。ゆうちゃんは思わず「えー」と声をあげた。そして気づいた。その子の顔を殴っていたのである。もちろんこどもの力なので軽くだったがなにしろ初対面の子である。その子はポカンとした顔をしてそのあと大きな目がうるうるとして今にも泣き出しそうな感じだった。実はるーちゃんは泣き虫だったのである。
そのあとは大騒ぎだった。ゆうちゃんの親とゆうちゃんはものすごく謝って土下座なんかもしてなんとか許してもらったのである。これ以降ゆうちゃんは黒い影を殴らずにさわるだけで消せるように頑張った。簡単にできた。
そこからゆうちゃんとるーちゃんは友達になった。ただ、びっくりなことにゆうちゃんがるーちゃんに会うたび、るーちゃんは黒い影を体にくっつけていたのである。るーちゃんの顔が見えないので、ゆうちゃんはるーちゃんに気づかれないようにいつもえいやーとしていた。ゆうちゃんがさわればすぐに消えるので。どうやらるーちゃんは黒い影を引き付けやすい体質らしかった。
そんなるーちゃんにたいしてゆうちゃんが思うことはこれまでなかった。黒い影はゆうちゃんにとって大したことはないし、ゆうちゃんはるーちゃんが大好きだったからである。るーちゃんは泣き虫なのでゆうちゃんはるーちゃんを守らないとと思っていた。ゆうちゃんはそのとき少女向けアニメぷりてぃあにはまっていた。ゆうちゃんはぷりてぃあになりたかったのである。
さて、そんなゆうちゃんだが、るーちゃんのことでちょっと憂鬱なのである。なんでというと、こういうことがあったからだ。
あるとき、ゆうちゃん一家は旅行に出掛けた。二泊三日の沖縄旅行である。沖縄の海はきれいだった。ホテルでゆうちゃんはお母さんの足をごろごろさわってこれが大根足なんだーと言った。のほほんとしたお母さんはそのとき鬼になった。ゆうちゃんは二度と大根足とは言わないと決めた。
旅行から帰ってきて最初にるーちゃんにあったときゆうちゃんはびっくりした。最初にあったときみたいにるーちゃんの顔が見えなかったからだ。これまでは、黒い影がるーちゃんにくっついても顔は薄く見えたのに真っ黒なのである。
ゆうちゃんはすぐにえいやーとした。もちろん殴らず、フワッとさわっただけである。それなのに見えたるーちゃんの顔は泣きそうなのである。あわててゆうちゃんが聞いたら、ゆうちゃんがいない間、なにもないところで転んだり(るーちゃんは運動神経がいいので滅多に転ばない)、変な人に声をかけられたり(すぐに逃げた)、横断歩道で後ろに誰もいないのに後ろから押されたり(車は来てなかった)とさんざんだったのである。どうやら黒い影はるーちゃんに不幸を呼ぶみたいだった。
ゆうちゃんと会う前、るーちゃんはこんな不幸がしょっちゅうだったらしい。ひどいことに周りの人からのろわれていると言われていたそうだ。そんなところで暮らしていたらるーちゃんにとってよくないと思い、るーちゃんの親は引っ越しを決意したということだった。
ゆうちゃんがるーちゃんとであってからは、ゆうちゃんが黒い影がつくごとにえいやーとしていたので不幸はなかったらしい。でも、旅行でゆうちゃんがいなかったので以前のようになったのである。
これを聞いてゆうちゃんは心配になり、必ずるーちゃんを守ろうと決意した。とりあえず毎日るーちゃんにつく黒い影は消すことにした。やっぱり黒い影が不幸の原因だったらしい。るーちゃんは不幸にならずに毎日元気一杯だ。
さて、ところでゆうちゃんは憂鬱だ。ゆうちゃんは結構責任感があるので毎日黒い影を消すことは全然問題ない。ゆうちゃんにとってはえいやーとするだけだし簡単なのだ。ただ、問題なのはこれではゆうちゃんは旅行にいけないのだ。ゆうちゃんちは結構旅行にいくのである。ゆうちゃんのお父さんは今度ネズミがモチーフのパークに泊まり込みでいかないかと言ってくれた。ゆうちゃんはものすごくあの声の高いネズミに会いたかったがるーちゃんのことを思って断った。お父さんはそっかーとふにゃーとした声で言った。ゆうちゃんはがっかりした。
ゆうちゃんは思った。るーちゃんはお友だちだし、かわいそうな目にはあってほしくない。でも旅行にいきたい。ネズミに会いたいと。ゆうちゃんは諦めが悪かった。
でも。いくらゆうちゃんが諦め悪くても、どうすればいいかわからない。だからゆうちゃんは憂鬱なのだ。
今は小学校からの帰り道。るーちゃんと一緒だ。ゆうちゃんははあっとため息をついた。ゆうちゃんはアンニュイな気分だった。そんなゆうちゃんにるーちゃんは心配そうな顔で言った。
「ゆうちゃんどうしたの?変な顔して」
るーちゃんにデリカシーはなかった。ゆうちゃんは変な顔をさらに変な顔にしてこたえた。
「べつにー何でもないよ。ちょっとセンチメントルな気分なだけ。」
「センチメントルじゃなくてセンチメンタルじゃない?」
「るーちゃん、細かいことは気にしないの。ただ何となく気分が上がらないだけだよ。それだけ」
ゆうちゃんは本当のことを言わずにてきとーにこたえた。本当のことを言えばるーちゃんが悩むと気づいていたからだ。るーちゃんは優しいからすごく悩むはずなのだ。
ゆうちゃんはそのままるーちゃんと一緒に家に帰った。ゆうちゃんが家に帰るとお母さんが中国ドラマを配信サイト・ネットフラックスで見ていた。ゆうちゃんも一緒に見ることにした。中国のドラマは字幕しかなくてゆうちゃんにとっては難しいけど、なんかヒラヒラしててきれいだし、ふわふわ飛ぶしくるくる回るしで面白かったのである。ドラマではヒラヒラした服を着た男の人が指を噛んでお札に文字を書いていた。ゆうちゃんはいたそうだなと思いながら見ていたけど、その瞬間気づいた。男の人がお札を扉に張り付けたら外のボロボロの服を着た変な人たちが入れなくなったのだ。ゆうちゃんはこれだ!と思った。このドラマの人みたいにお札で黒い影が近寄らないようにすればいいんだと気づいたからだ。
そこからゆうちゃんの努力の日々は続いた。最初は折り紙に文字を書いてみた。何を書けばいいかわからなかったのであっちいけと書いてみた。いきなりるーちゃんに渡すのもどうかと思って外で黒い影を探して折り紙を近づけてみた。なにもなかった。ゆうちゃんはめげずに他の文字で試してみた。お母さんに聞いて悪霊退散みたいな漢字だったり、十字架だったり、なんか良さそうなものは全部試してみた。けどダメだった。やっぱり血で書いたほうがいいのかなとゆうちゃんは思ったけど、嫌だった。ゆうちゃんは痛いのが大っ嫌いなのである。
いっぱい試したけどダメでさすがのゆうちゃんも諦めそうになった。そんなゆうちゃんを見てお母さんは言った。
「ゆうちゃん、そんなに悩んでどうしたの?お母さんに教えて」
ゆうちゃんは悩みすぎていたのでお母さんに相談した。そうしたらお母さんはのほほんとした顔で答えをくれた。
「ゆうちゃん。お母さん、思ったんだけど、ゆうちゃんの心を込めたのかな?もしかしたら何も考えずに作ってたんじゃない?どんなものでも心を込めないといけないってお母さん思うな」
そのお母さんの言葉にゆうちゃんはハッとした。たしかに、これまでゆうちゃんは折り紙に何を書くかは悩んでいたけど、書くときはなにも考えずに書いていたのである。ゆうちゃんはお母さんにありがとうといってすぐさま行動した。ゆうちゃんは折り紙にあっちにいけと思いながらあっちにいけと書いた。不思議とうまく言ったように感じた。
ゆうちゃんは書いた折り紙をもって家を出た。いくらか歩いたら黒い影を見つけた。黒い影は人形をしていて顔を書いていないハゲのマネキンみたいだ。ゆうちゃんが黒い影に近づこうとしたら、黒い影が離れていった。さらに近づこうとするとやっぱり離れていく。成功だった。ゆうちゃんは嬉しくて仕方なかった。飛び上がって踊り出そうとしたが、人が通りかかったので恥ずかしくなってやめた。
成功したけどゆうちゃんはお札作りをやめなかった。どうせ作るのなら最高のものを。ゆうちゃんは凝り性だった。見ていたドラマの影響かもしれない。
そこからゆうちゃんはさらにお札作りにのめり込んだ。宿題しなかったりするとのほほんとしたお母さんが鬼になるのでそこは気を付けた。毎日るーちゃんにえいやーとすることも忘れない。それ以外は全部お札作りに集中した。
作っていくうちにどうやらゆうちゃんが作った折り紙のお札は時間がたつと効果がなくなるとわかった。そして折り紙よりもコピー紙、コピー紙よりも画用紙、画用紙よりも便箋と効果が高く持つ時間が長かった。いい紙を使ったらいいとわかったけど、いい紙はその分高い。ゆうちゃんではあまり使えない。ゆうちゃんはどうしようと悩んだ。ところでその頃、クラスではミサンガ作りが流行っていた。ゆうちゃんも友達に教わって休み時間に作っていた。ゆうちゃんがお昼休みにミサンガを作っているとき、突然気づいた。これ、お札になるんじゃない?と。
ゆうちゃんのお札に必要なのは、ゆうちゃんの心が込められていること。逆に言えばゆうちゃんの心が込められているものがお札だ。心を込めて作ったミサンガもおふだになるのではと気づいたゆうちゃんは、家に帰ってさっそくミサンガ作りを開始した。
ところがこれが結構難しかった。ミサンガを作り始めるとゆうちゃんはつい黙々とやってしまい心を込められないのである。ゆうちゃんはちょっとだけ不器用なのでつい作る方に集中してしまうのだ。不思議と心を込めず黙々とミサンガを作っているとゆうちゃんにはすぐにダメだとわかった。ゆうちゃんは何度も何度もミサンガを作って作って作りまくりなんとか成功した。お札のようなミサンガができた時、ゆうちゃんは疲れまくっていた。でも達成感でいっぱいだった。ゆうちゃんにはなんとなくわかっていた。このミサンガであればきっと大丈夫だと。
ミサンガが完成した次の日、ゆうちゃんはさっそくるーちゃんにミサンガを渡した。るーちゃんにはお守りだと伝えた。るーちゃんはちょっと不思議そうだったけど、嬉しそうにほっぺたを赤くして受け取った。それを見てゆうちゃんはほっとした。これで旅行に行けるのだ。
ミサンガのお札効果がなくなるとミサンガが切れることをゆうちゃんは本能的に気づいていた。ミサンガが切れたのをゆうちゃんは離れた場所にいても気づけた。ミサンガは紙のお札よりも長く持った。ゆうちゃんはミサンガが切れるたびに新しいものを作った。その間はるーちゃんには紙のお札をお手製のお守り袋に入れてるーちゃんに渡した。お守り袋は縫い目がガダガタで手作り感あふれるものだ。るーちゃんはやっぱり不思議そうな顔をしてその後ほっぺたを赤くして受け取った。
その後、月日は流れて、ゆうちゃんーー園田 優子は高校一年生になった。るーちゃんーー小鳥遊類とは同じ高校に通っている。
優子の憂鬱が無くなったかと言うとそうでもない。理由は三つある。
その一。幼馴染のるーちゃんこと小鳥遊 類がーーー百合豚になっていること。優子は高校に進学してからへんなところでアルバイトをしている。そこには美人なお姉さんがいるのだが、猛烈に優子のことを気に入り、会うたびにキスしてこようとするのだ。類は時々優子のアルバイト先に顔を出しており、美人なお姉さんと優子の触れ合いを目撃している。そのうち女の子同士っていいなと思うようになり、今では立派な百合豚である。ちなみに優子はノーマルであり今後性癖が変わる予定はない。
そのニ。アルバイト先がめちゃくちゃ怪しくて普通のバイトでないこと。優子のバイト先はドラマにある探偵事務所みたいなところだが、探偵業務はしておらず、オカルトな仕事をしている。優子が見ていた黒い影は、実は他にも見える人がいるらしく、やっぱり幽霊だったらしい。厳密に言うと幽霊ではなく残留思念と言うらしいが優子にとっては変わらない。黒い影を消せる人は貴重らしく、ある日、影を消すところを見られた優子は熱烈に勧誘されて、しょうがなくアルバイトをしている。時給が良かったのもある。
仕事は依頼を受けたところにいる黒い影を消すこと。依頼先の黒い影は、大抵よく見かけるものよりもかなり大きかったが、優子にとってはえいやーとするだけなので全然難しくない。でも、やっぱりあやしいから普通のバイトに変えたい。でも時給が良くて悩ましい。
その三。周りにいる男が碌でもないやつばっかなこと。少女漫画でよく相手役になるイケメン幼馴染は百合豚。そうでなくても優子にとっては弟みたいなものだから恋愛対象外。バイト先には独身男性が二人いる。一人は三十代で、鋭い眼光のクールなイケメン。ただしギャルゲー好きで、嫁は初恋えたーなる(ゲーム名)の雛川雪香ちゃん(白髪碧眼ロリ)。もう一人は大学生のゆるふわ癒し系イケメン。ただし超がつくほどのど天然で話が通じない。話しててもどう言う思考回路をしているのか、話が突然変わるのでめちゃくちゃ疲れる。身近に接する男どもがやばいやつばっかりで優子は全く恋に夢見ることができない。イケメンじゃなくていいから常識のある人と接したいものである。
こんな感じで、成長してもやっぱりーーーゆうちゃんは憂鬱だ。
お読みいただきありがとうございました。今後ゆうちゃんは憂鬱になりながらも適当に生きていきます。