噓告白キターーー!!!!(大歓喜)
「ゲェ、私の負けかぁ」
「イエーイ、勝ちー!」
「じゃあ約束通り、ちゃんと津島君に告白してよね」
「……わかったわよ」
――!
とある昼休み。
図書室に向かう途中、人気のない科学室の中で、僕と同じクラスの女子三人がこそこそとジャンケンをしている光景を目撃してしまった。
ジャンケンに負けたのは、我がクラスのスクールカーストトップの冬森さん。
誰もが羨むような美貌を持つうえ、実家もお金持ちという、絵に描いたようなお嬢様。
そして津島というのは僕の名前だ……。
こ、この流れはまさか――!
僕は慌てて、その場から立ち去り教室に戻った。
「ね、ねえ津島君、放課後ちょっと話があるんだけど、裏庭まで来てくれない?」
「あ、はい」
教室で一人ボーっとしていると、案の定冬森さんから声を掛けられた。
――そして迎えた放課後。
「つ、津島君、実はずっと前から好きでした。私と付き合ってください」
「――!」
僕たち二人以外誰もいない裏庭で、抑揚のない声で冬森さんからそう告げられた。
いや、正確には僕たち以外にも、先ほど冬森さんとジャンケンをしていた二人も、草むらに隠れてニヤニヤしながらこちらを窺っている。
――噓告白キターーー!!!!(大歓喜)
毎月二十冊以上ラノベを読んでる僕だからわかる!
この流れは、ラノベの定番中の定番、『噓告白』だッ!
最初はドッキリで付き合っていたスクールカーストトップの美少女と、スクールカーストドベの陰キャボーイが段々と心を通わせていき、やがて本物の恋人同士になるという、ラノベ界の王道オブ王道!
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た。
……お、おっと、一人でズンドコしてる場合じゃない。
ここは噓だとは気付いていないフリして、何にせよ告白は受けないとね!
「あ、うん、ぼ、僕なんかでよければ、喜んで」
僕は敢えて声を震わせ、オドオドしながらそう返事した。
「あ、ありがとう、とっても嬉しいわ」
微塵も嬉しくなさそうな、引きつった笑顔を向ける冬森さん。
それに反して草むらに隠れている二人は、満面の笑みでハイタッチを交わしている。
「……じゃあ、早速二人で帰りましょ」
「そ、そうだね」
さてと、見せてやるとしますかね、ラノベ主人公の力ってやつを(倒置法)。
「……」
「……」
二人で帰り道を歩く間、気まずい沈黙が僕たちを包む。
そりゃそうだ。
冬森さんは別に、僕のことが好きなわけじゃないんだから。
――だがそれでも無問題。
そろそろ、アレがくるはずだからだ。
「おっ、こいつぁメッチャマブいスケじゃねーか」
「ひゅーひゅー! イイナオン連れてんなニーチャン!」
「ヘイヘイジョノカ! こんなダサ坊放っておいて、俺たちとイイコトしよーぜ!」
「なっ、何よあなたたち……!」
昭和臭漂うガラの悪い三人組キターーー!!!!(大歓喜)
ラノベには欠かせない存在と言っても過言ではないのが、この昭和臭漂うガラの悪い三人組だ――。
彼らが起爆剤となり、冬森さんの僕への好感度はスプラ〇ゥーン3の売上並みに爆上がりするのさ!
昭和臭漂うガラの悪い連中は、何故か二人組でも四人組でもなく三人組なことが多いが、これは一説によると、コンビニによく売っている三本入りのみたらし団子を仲良く分けられるようにするためだとか……。
「ちょ、ちょっと……! ぼ、僕の彼女に、て、手を触れないでください……!」
「っ! ……津島君」
ここでも僕は敢えて声を震わせ、陰キャオーラ全開で昭和臭漂うガラの悪い三人組の前に立ちはだかる。
「あぁんッ!? 何ダサ坊がイキってんだコラァッ!!」
「ぐえっ!」
が、一度も喧嘩なんてしたことないド陰キャの僕は、当然の如く殴り飛ばされる。
「大丈夫、津島君ッ!?」
宝石みたいに綺麗な瞳を潤ませながら、僕に駆け寄ってくる冬森さん。
さっきまで僕のことなんて何とも思ってなかったはずなのに、早くも情が芽生えた様子だ。
フフフ、流石ラノベヒロインはチョロいな!
「ああ、うん、このくらい、かすり傷だよ」
それにそろそろ、アレがくるからね!
「コラ! 君たち、そこで何やってるんだ!」
「ゲェ!? ポリ公だ! に、逃げるぞテメェら!」
「オ、オウ!」
「ヒエェェ!!」
都合よく通りかかるポリスメンキターーー!!!!(大歓喜)
待ち構えてたんじゃないかってくらい、ベストタイミングで現れてくれる都合よく通りかかるポリスメン!
彼もラノベを語るうえで、欠かせない存在であると言えよう!
因みに都合よく通りかかるポリスメンは、何故か二人組でも三人組でもなく一人なことが多いが、これは一説によると、コンビニでエロ本を購入する際、一人のほうが恥ずかしくないからだとか……。
「冬森さん、僕たちも逃げよう!」
「あ、うん!」
「待ちなさい、君たち!」
僕はどさくさに紛れて冬森さんの手を握り駆け出す。
ド陰キャの僕に急に手を握られたにもかかわらず、冬森さんは抵抗する素振りすらなくむしろ嬉々としている。
フフフ、落ちたな(確信)。
そして本気を出せば絶対に追いつけるだろう都合よく通りかかるポリスメンは、ちゃんと空気を読んで退場してくれる。
いつもお仕事お疲れ様です!
――こんな感じでこの後も毎日僕たちは、手作りお弁当イベントだったり、プールラッスケイベントだったり、夏祭りでの下駄の鼻緒切れイベントだったりといった定番イベントを着々とこなし、ゴールまであと一歩というところまできたのである。
さてと、後は最後の一押しとして、アレの登場が待たれるところだな。
「えー、今日は転校生を紹介する。さあ、自己紹介して」
「はい。本日からこのクラスでお世話になる、白鳥沢雅弘です。みなさんどうぞよろしくお願いします」
「きゃあ、メッチャイケメンッ!」
「しかも白鳥沢って、あの白鳥沢財閥の御曹司じゃない?」
イケメン御曹司ライバルキャラキターーー!!!!(大歓喜)
うんうん、やっぱラストを締めくくるのは、イケメン御曹司ライバルキャラだよね!
彼にはラスボスとして、華々しく散ってもらいましょう。
因みにイケメンライバルキャラの実家は、何故か貧乏でも中流階級でもなく大金持ちなことが多いが、これは一説によると、コンビニでアイスを購入する際、躊躇なくハーゲ〇ダッツを選べるようにするためだとか……。
「む!? キ、キミは!?」
「え?」
冬森さんと目が合った白鳥沢君は、目の色を変えて冬森さんの前にズカズカと歩いてきた。
おっ、この流れは――!
「何と美しい女性なんだ……! キミこそはボクの未来の妻に相応しい! どうかボクの、婚約者になっておくれ!」
「……は?」
開口一番のプロポーズキターーー!!!!(大歓喜)
やっぱイケメン御曹司ライバルキャラといえば、開口一番のプロポーズだよね!
でもこれはあくまでイケメン御曹司ライバルキャラにだけ与えられた特権だから、良い子は真似すんなッ!(しない)
さてと、こうしちゃいられないな。
「ま、待ってくれよ!」
「っ! ……津島君」
例によって敢えて声を震わせながら、二人に割って入る。
「む? 何だいキミは? ボクは今大事なプロポーズの最中なんだ。邪魔をしないでくれたまえ。そもそもキミは何者だ?」
「ぼ、僕は……冬森さんの恋人だッ!」
「「「っ!?」」」
「津島君ッ!」
途端、冬森さんの顔が茹でダコみたいに真っ赤に染まる。
フフフ、可愛いやつめ。
「なぁにぃッ!!? キミのような見るからに庶民オブ庶民の男が、マイエンジェルのこここここ、恋人だとぉぉおおお!!?」
「ああ、そうだよ」
さあ、こうなったら、やることは一つだよな?
「ぐぬううぅぅ!! 認めん認めん認めんぞおおおおお!!!! こうなったら、マイエンジェルを賭けて、決闘だッ!!!」
決闘キターーー!!!!(大歓喜)
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た。
「ほ、本当に大丈夫、津島君?」
「ああ、心配しないでよ冬森さん」
そして迎えた昼休み。
たくさんのギャラリーが取り囲むボクシング部のリングの上で、ボクシング部から借りたヘッドギアとグローブを身に着けた僕に、冬森さんが縋るようにもたれかかってくる。
フフフ、初期の頃の素っ気ない態度は何処へやら。
すっかりデレデレじゃないか。
冬森さんは本当に可愛いですね(黎明卿)。
「フン、勝負は時間無制限。三回ダウンするか、ノックアウトされたほうの負けでいいね?」
「ああ、いいよ」
どうせ僕が勝つからね。
「昼休みの時間がもったいない。さっさと始めようよ」
「フン、その謎の鼻っ柱、ポッキリと折ってあげるよ、このボクがねッ! ――セイッ!」
「ガハァッ!」
開幕早々、ボディーにキツい一発をもらってしまう僕。
あまりの激痛にとても立っていられず、思わずうずくまる。
「津島君ッ!!」
これでもかと眉間に皺を寄せて涙目になった冬森さんから、絶叫が飛ぶ。
大丈夫だよ冬森さん。
これは予定調和だからさ。
フラフラになりながらも、何とか立ち上がる僕。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「フン、既に虫の息じゃないか。口程にもない。これでフィニッシュだよ! ――セイッ!」
「グアアァッ!」
今度はカミソリのように鋭いアッパーが、僕の顎にクリーンヒットする。
そのまま仰向けに倒れ込み、天を仰ぐ。
「津島くうぅんッ!!!」
ロープにしがみつく冬森さんの顔は、涙でボロボロだ。
フフフ、泣き顔も美しいけど、やっぱり君には笑顔が一番似合うよ、冬森さん。
さてと、これでやっと条件は整ったし、仕上げといきますかね。
僕はガクガクの足を意地で抑え、肩で息をしながら立ち上がる。
「グッ……ハァ……ハァ……」
「ハッハー! 立ってるのもやっとといったところだね! せめてもの情けだ! 一撃で楽にしてあげるよッ!」
目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、渾身の右ストレートを放ってくる白鳥沢君。
――さて、ここだよ、冬森さん。
「――負けないで、津島くうぅんッ!!!」
ヒロインからの「負けないで」キターーー!!!!(大歓喜)
この瞬間、スーパーサ〇ヤ人もかくやというほどの桁外れのパワーが、全身に駆け巡る。
「フッ」
「なぁっ!!?」
白鳥沢君渾身の右ストレートを頬に掠めながら、ギリギリでかわす。
「ハァッ!」
「ゴベラァァァアアッッ!?!?」
そしてカウンターで出した僕の右ストレートが、白鳥沢君の無防備な顎に突き刺さった。
白鳥沢君は五回転半くらい錐揉み回転してから、潰れたカエルみたいにリングに叩きつけられた。
うん、流石イケメン御曹司ライバルキャラ!
散り際も百点だね!
――さて、これにてめでたくエンディングだな。
「津島くうううぅんッッ!!!!!」
「うおっ!?」
号泣している冬森さんに、むぎゅっと抱きつかれる。
「津島くん津島くん津島くうぅんッ!!!」
「冬森さん……」
冬森さんは母親を求める赤ちゃんみたいに、僕にスリスリと頬擦りしてくる。
……ゴメンね冬森さん。
いくらラノベ展開的に必要だったとはいえ、ちょっと心配させすぎちゃったみたいだね。
僕は冬森さんを宥めるように、よしよしと頭を撫でる。
「ゴ、ゴメンね津島君……」
「え?」
何で冬森さんのほうが謝るの?
「じ、実は私、最初は罰ゲームで津島君に告白したの……」
「――! そ、そうだったんだ」
ああ、まあ、知ってたけどね。
「――でも、今は本当に津島君のことが好き。――どうか私を、津島君の本物の彼女にしてください」
「――! 冬森さん」
大胆な告白キターーー!!!!(大歓喜)
大胆な告白は女の子の特権!(迫真)
「うん、僕も冬森さんのことが好きだよ」
「っ! つ、津島君……!!」
一瞬でカラーコードでいったら、#FF0000くらい真っ赤に染まる冬森さん。
フフフ、冬森さんは本当に可愛いですね(再びの黎明卿)。
「津島くうぅんッ!! 好きいいぃぃぃいいい!!!」
僕と冬森さんは万雷の拍手が降り注ぐ中で、熱い抱擁を交わしたのであった。
――ハッピイイイイイイイイエエエエエエエンド!!!!!
2022年11月15日にマッグガーデン様より発売の、『悪役令嬢にハッピーエンドの祝福を!アンソロジーコミック②』に拙作、『コミュ症悪役令嬢は婚約破棄されても言い返せない』が収録されております。
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