家に来て酒を飲んだらファックが捗るぞ!
寺門雅人──永遠の二等兵。たけのこ派
近藤伊織──永遠の女軍曹。たけのこ派
近藤 椋──永遠の美少女(♂)。きのこ派
松竹梅宏樹──生贄。チョコボール派
タダ飯と言われれば、行くしかないのが悲しいところ。
「お姉ちゃんがハンドル引っこ抜いたせいで……良かったら今度のお休みに、ウチに来てご飯でもどうですか?」
椋さんからお詫びにと誘われた夕ご飯。
作るのは椋さんらしいので、これは是非に及ばず食いに行くしかないな。一応念の為、万が一に備えて宏樹を呼んでおこう。
「椋さんの手料理!? 一週間何も食わずに行くぜ!!」
「死ぬからせめて水は飲め」
段々と訓練も慣れてきたのか、気が付けば一週間はあっという間に過ぎていった。
「おじゃまします……」
一週間で少し痩せた宏樹と共に、件のマンションへ。椋さんは笑顔で俺達を迎え入れてくれた。
「すみません。一人増やしちゃって」
椋さんをガン見する宏樹を親指で指差した。
「いえいえ、皆で食べた方が美味しいですから。どうぞ」
促されダイニングへ向かうと、軍曹が既に一人で食事を始めていた。
が、何処か様子がおかしい。まるで気迫が無く、弱々しささえ感じられる位に……。
「あっ、二等兵さん……!」
「!?」
いつもと違い可愛らしい私服に身を包み、女の子の様にもじもじと俯き加減で、チラチラと俺を見る軍曹。まるで別人と思えるほどにいつもの面影が無い。
「誰?」
宏樹が死を恐れずに聞いた。
「伊織お姉ちゃんです。実は、お姉ちゃんお酒が弱くて、一口でも飲むとこうなっちゃうんです」
軍曹の傍には、赤のワインが置いてあり、軍曹の顔色が仄かに赤くなっていた。
「今思えば最初からこうすれば良かったですね」
椋さんが満面の笑みで笑った。
「二等兵さん、この前はすみませんでした。是非今日は楽しんで言って下さい」
深々と頭を下げる軍曹。長い深緑の髪もきちんと整えられ、ゆったりと後ろで結ばれていた。
「どうぞどうぞ座って下さい。私これから頼んでいた七面鳥を取りに行きますので」
「自分手伝います!!」
椋さんが言い終わる前に宏樹は靴を履き、玄関でやる気のあるポーズをしたが、一週間食ってないせいか少しよろめいた。
「ではお願いします。ねっ♡」
出掛け際、俺にウインクをした椋さんは、宏樹と二人で出て行ってしまった。
「と、とりあえず失礼します……」
「どうぞ」
弱々しい女の子みたいな声で返事を返す軍曹からは、いつものファック力が感じられない。
「ワインは飲みますか?」
「あ、すみません。実は自分お酒は体質的に……」
「ではお茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
料理を小皿へ取り分けられ、冷たいお茶が運ばれる。軍曹と面と向かって座っているのに、どうにもこうにも別人と食事をしている様にしか思えない。
「……美味しいですね」
「ええ」
気まずい沈黙が流れた。
──ピロリン
椋さんからDMが入り、そっとテーブルの下で内容を確認。
──私達はこのまま外に泊まりますので、後は二人で御自由にお願いします。
「……!?」
どういう事なのかと一瞬驚いたが、どうやら気を利かせてくれた?らしい。七面鳥も出掛ける口実なんだろうなと思うと、宏樹の奴は今頃邪魔になって何処かに埋められているかもしれない。
「……」
どうしたものかと軍曹を見やると、物静かな顔で微笑みを返してくれた。
照れ隠しにお茶を飲むと、口の中に妙な酸味が広がった……。
「なんです、これ?」
「……お茶(アルコール度数12%)です」
「……はい?」
「椋ちゃんが『男は酔えば蝦夷オオカミ』だって……」
「…………ぅい?」
「二等兵さん?」
「………………ぁっく」
目の前に居るはずの軍曹の顔が、髪が、後ろの時計が、壁が天井が料理が自分の手が全てが、ゆらゆらと揺れては波打つように、時に回るように、世界の全てが浮いては沈みを繰り返し始めた。
「二等兵さん大丈夫ですか!?」
「……ふぁっく」
「……えっ?」
「これから、ふぁっくをはじめます。れい!」
ペコリと一礼。念の為もう一礼しておこう。ふぁっくは礼に始まり礼に終わる。スポーツマンヒップにもっこって、次は選手宣誓だ。
「二等兵さん!? 二等兵さん!?」
「先生、僕勃ち私達は、すぽつーまんぴっぷを乗っ取り、セーセードードーふぁっくすることを誓います」
「二等兵さんがおかしくなっちゃった!? どうして!?」
選手宣誓もおわた。喋りすぎたので、水分補給をする。さっき飲んだ酸っぱいお茶だ。お茶……お茶……千利休……センノ・リキュー……いや、なんでもない。なんも閃かなかた。
「もしもし!? 椋ちゃん!? 二等兵さんがおかしくなっちゃった!!」
女の子が電話をしていた。
髪の長い女の子だ。緑色の髪をした、可愛い女の子だ。筋肉が凄い女の子だけど、可愛いからストライクだ。俺がルールブックだ。
「ピー、ピー、バックします」
フラフラするが、後ろ向きに進めたので大丈夫だ。
「お姉ちゃんどうしたの!? 雅人さんに何をしたの!?」
「お酒を飲んだら二等兵さんが壊れたの! 普通に怖いの……!!」
「──雅人に酒を飲ませたらダメです!! 豹変して手に負えなくなりますよ!!」
電話から誰かの声が聞こえる。聞き覚えのーーーーぅ……無い声だ。
「ピー、ピー、ふぁっくします」
「私を『ファックする』って言ってるの!! 助けて椋ちゃん!!」
「……お姉ちゃん普段『ファックしろ!』とか言ってるし、良いんじゃないかな?」
「アイムは、ユーを、ふぁっくする。可愛いからおっけー」
「今度は『可愛い』って言われたの!」
「お姉ちゃん……夢が叶ったね」
「いやーっ! 嬉しいけど、ファックはいやー!!」
「ふぁっくエンジンしゅっぽ、しゅっぽ、しゅっぽ、しゅっぽ!」
「普通に怖い!! 助けて椋ちゃん!!!!」
「……急いで戻っても二十五分位は掛かるよ? 大丈夫?」
「急いで帰ってきてー!!」
女の子が叫びながら部屋の隅に逃げだした。
これはあれだ。それだ。いわゆる一つの……あれだ。
「ふぁっく、ふぁっく」
とりあえず踊りながら女の子の方へと近付いてみる。踊れば皆穴子兄弟だ。
「椋ちゃん早く! 二等兵さんがクネクネしながら近付いてくるの!」
「お姉ちゃんスピーカーにして!」
電話から聞こえる音が大きくなった。ふぁっくだな。
「雅人! 手は洗ったか!?」
「お? おお?」
聞き覚えのあるーーぅいや、無いな。
けど手は洗わないとな。親しき仲にもふぁっくあり。昔の人はよく言ったものだ。
「あた」
洗面所へ向かうとちゅーで、ぶら下がっていた寛容植物に頭をごっつんこした。一礼をしておこう。
「なますて」
洗面所で手を洗う。水が冷たい。具体的には14℃だ。たぶん。
「てをーあらうー、おれー、あらうー、あらってー……ふぁっく!!」
ハンケチーフで手を拭いたので、ふぁっくが解禁された。いざ尋常にふぁっく。
ムキムキの可愛い女の子へとファッキンロードを歩いてゆく。
「助けて椋ちゃん! 今度こそファックされちゃう!! まだお嫁にも行ってないのに……!!」
「あ、お姉ちゃん結婚するまでしない派なんだ」
「雅人ー! トイレには行ったかー!?」
「お? おお?」
聞き覚えの無さ気の声が俺にトイレへ行けと言う。言うからにはトイレへ行かねばならない。ふぁっくするまでが遠足だから、前の日は早く寝ないといけないのと同じだ。
「あた」
慣用植物に頭をごっつぁんこした。一礼二拍しておこう。ついでにお賽銭も……。
「財布無い。忘れた。ふぁっく」
トイレへ行き、座る。急にドアの向こうがガタガタと騒がしくなった。
「……お?」
トイレから出ると、知ってる人が二人居た。名前は……忘れたか覚えてない。
「お姉ちゃん大丈夫!?」
「遅いよ椋ちゃん! あと少しでファックされるところだったの!」
「すみません、コイツの酒癖の悪さを説明してなかったですね」
知ってる人がポケットから五円玉を取り出した。糸がついてブラブラと揺れている。
「コイツにアルコールは御法度です。二十歳の同窓会で初めて飲んだとき、どういう訳か怖いお兄さんの組織を一つ壊滅させてしまいまして……」
目の前で五円玉が揺れている…………?
「しかも寝て起きたら何も覚えてないんですよ。飲んだことすら忘れてます」
五円玉が二つ、三つと増えだした。気が付けば目の前が五円玉だらけで…………。
「寝ろ」
「……Zzz」
──お?
「朝だ」
いつ何処で寝たのだろうか?
気が付けばいつもの自分の部屋だ。昨日は確か軍曹の所へ椋さんの料理を食べに行って……うーん。
「食べて帰ってきて寝た、のか?」
良く分からないが、今日は休みなので二度寝するとしよう。
──バゴォォン!!
「寺門二等兵よ! 絶好のファック日和だ! さあカモン!!」
「人の家の玄関をぶち破らないでくださいよ! 直して貰ったばかりなのに!!」
城門をぶち破る勢いで玄関のドアがぶっ壊された。軍曹は今日も元気だ。
「ファックするまで何度でも壊してやるさ!」
「しませんよ!!」
軍曹はニッコリと笑って仁王立ちをした。どうやら今日もゆっくりと休めはしなさそうだ。
「ところで寺門二等兵よ!!」
「サー、何ですか、サー」
「私は可愛いか?」
親指を自分の顔へ向け、軍曹は満面の笑みで質問した。何しに来たんだこの人は?
「軍曹は軍曹ですが……」
「……軍曹パーンチ!!!!」
「──ぬおぅ!!」
全く見えない1秒間に地球を七周半するパンチで、思い切り腹を殴られた。解せぬ。