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ウチに来て妹と海デートしてもいいぞ!

松竹梅宏樹──雅人の古くからの友人。犠牲枠。

 月曜日、平日とあってか海岸に人の姿もまばらで、俺達は広々とビーチに陣取る事が出来た。


 軍曹、椋さん、俺、そして犠牲枠(友人)松竹梅(しょうちくばい)宏樹(ひろき)と共に軍のジープから荷物を降ろしていく。


「雅人、あのゴッツいお方は何者なのか聞いてもいいか?」


 宏樹がコソッと俺に耳打ちをした。

 今日は初めから女モード全開で佇んでおり、ビーチに着くなり服を脱いで水着で泳ぎだす軍曹は、もしかしたら訓練成分が足りないのかもしれない。

 しかし脱ぐとこれまた凄い筋肉で、俺なんかはまだまだ修行が足りないなと改めて痛感する。


「あれは……気にするな」

「……?」


 宏樹は首をかしげ苦笑。しかしすぐにその視線は椋さんへと向けられた。そりゃあ、健全な男子なら先ずはそっちだろうな。


「パラソルこの辺で良いですかっ!?」

「あ、松竹梅さんありがとうございます♪」

「気軽にヒロキって呼んで下さい!」


 ビキニで特大の爆弾を二つ揺らす椋さんには、ビーチから視線が集中していた。

 俺的にはふんわりパレオで隠した下のトウモロコシの方が気になって仕方ないんだが……。


「寺門二等兵!!」

「サーッ! ──って、あのっ、その呼び方はココでは……!!」


 癖で返事をしてしまったが、慌てて訂正を求めた。流石に友人の前で『サー!』だの『イエッサー!』はやりたくはない。


「あ、すまん」

「お姉ちゃん、今日くらいは名前で呼んでみたら?」


 椋さんにそう言われ、途端にもじもじと恥ずかしがる軍曹。居てもたっても居られないのか、足を曲げて海の中へと沈んでいく。


「……軍曹?」

「大丈夫です。お姉ちゃんは素潜りで1時間は潜ってられますから」


 人間じゃねえ……。


「だから雅人さんも、名前で呼んであげて下さい、ね?」

「え、あ、はい……分かりました」

「おねーちゃーん!! ビーチバレーやるよー!」


 ──ザバッ!!


 いきなり水面から姿を現し、傍にいた子どもが酷く驚いて泣き出した。すまない童よ。そりゃあ海からいきなり筋肉ダルマのマーメイドが出て来たら夢も希望もなかろうに……。


「雅人二等兵! 私とペアを組むぞ!!」

「サー! その呼び方では同じですサー!」


 俺は軍曹とペアを組み、椋さんは宏樹とペアを組んだ。宏樹は終始椋さんの胸ばかり見ており、その顔は今にも地面に落ちそうな程に緩んでいた。


「お姉ちゃん行くよー」

「来いっ!!」


 椋さんが柔らかいサーブをすると、軍曹が軽やかにレシーブ。俺がネット際に高くトスを上げると、軍曹は鳥のように空高く飛翔した。


「死ねぇぇぇぇ!!!!」


 軍曹のアタックは全く肉眼で捉える事が出来ず、宏樹の顔に潰れたビーチボールが張り付いた後、音と衝撃波が遅れてやって来た。



「ぐおぉぉ!?!? 前が……!!」

「お姉ちゃんボール壊さないでよ!」

「うむ、すまぬ」


 その後、軍曹は予備のボールまでも破裂させ、宏樹はまたしても顔に受けた残骸で気絶してしまった。すまぬ宏樹。




「雅人二等兵よ」

「その呼び方は変えないんですね」


 浜辺で見つけた小さなカニを見ながら椋さんが割ったスイカを食べていると、軍曹が小さな旗を持ってやって来た。得意気な顔には挑戦の色がありありと見て取れた。


「負けた方が腕立て伏せ100回はどうだ?」


 負ける気はしないとばかりに、軍曹が笑った。

 軍曹はフリルでボディラインを隠してはいるが、腕や脚の筋肉を見れば『……え? あの人宇宙的アスリート何かデスカ?』と、戸惑うのは確かだ。

 だが、そんな挑戦的な軍曹の顔を初めて見た俺は、負けると分かっていても挑まずにはいられなかった。


「やりましょう。ただ、やるからには……」

「勿論だ。全力で来い雅人二等兵!」


 カニが波に隠れるのを合図に、二人が走り出す。出だしは同時、瞬発力では互角だった。が──


「うおおおおおーーーー!!」


 雄叫びと共に軍曹が一歩先へ加速してゆく。

 負けじと脚を回すが、その一歩の差がデカすぎる!

 どう足掻いても縮まらない!!


「──っしゃーっっ!!」

「ま、負けた……!!」


 最後は勢い良く旗へと突っ込んだが、当然軍曹の手の方が先に旗を掴んでいた。

 砂をはたき落とした軍曹は、とても嬉しそうに、腕を組みながら笑い出した。


「どうだ雅人二等兵! 約束通りファックしてもらうぞ!?」

「いやいやいや、そんな約束はしてません」

「んん? 腕立て伏せ1000回だったか?」

「増えてますって」

「じゃあファック1回」

「いやいやいや」


 大人しく腕立て伏せを始める俺。

 腕立て伏せをしながら改めて軍曹の身体を見る。しなやかで実にたくましい筋肉。俺の憧れとする強い男の最終目標だ。


「おいおいあまりジロジロと見るでないぞ?」

「あ、すみません……」

「安心しろ、後で岩場の影でファックしても良いぞ?」

「なんでですか……。ん?」

「どうした……いかんっ!!」


 海で誰かが溺れているのが見えた。

 手をバタバタとさせて助けを求めている。

 気が付けば俺と軍曹は同時に走り出していた!


「暴れるな! 浮いて待ってろー!!」


 だがパニック状態になっているのか、声が届いているような様子は無い。その間にも必死で泳ぎその距離を縮めてゆく。


「うおおおお……!!!!」

「なんという速さだ寺門二等兵……!! 追いつけん……!!」


 間一髪、溺れていた子どもを助けることが出来た。

 俺と軍曹でゆっくりと岸まで連れて行く。



「軍曹、ありがとうございました」

「いや、お礼を言うのはこちらの方だ寺門二等兵」

「え?」

「寺門二等兵は守るべき人が居ると、強くなるタイプだな。私も泳ぎは得意だったのに、追いつけなかった……」

「いえ、必死だったので……」


 軍曹の手が、ポンと俺の方へ置かれた。


「素敵だったぞ」

「ありがとうございます」

「だからウチに来てファック宜しくな」

「お断りします」


 父親と再会した子どもに手を振られ、何気ない達成感に包まれた。


「……の、その……」


 達成感に包まれる最中、軍曹がもじもじと下を向いて指をいじりだした。筋肉ダルマとのそのギャップが妙に不可思議だ。


「ま、雅人……」

「!?」


 軍曹が乙女のように恥じらいを見せる。

 意を決して普通に名前を呼び出した軍曹の顔は、完全に女のそれになっていた。


「今度の休み……デー、デー、デェェェェ……」


 まるで喉に何かが突っかかる様に言葉が出ない軍曹は、何度も言い直すが言い切れずに、そして海へと沈んでいった……。


「デェェトしてぇぇ、ブフブクブク…………」


 そして完全に見えなくなると、海に平和が戻った。

 一時間すれば戻ってくるだろう。



「雅人」

「おわっ!」


 死に体の宏樹が現世に舞い戻ったかのように、ピンピンと俺の前に元気な姿を見せた。


「あれ? 筋肉ゴリラみたいな人は?」


 ──ザバッ!!


「──!?」

「──!?」


 巨大な水柱を上げ、軍曹が早くも海底から復活を見せた。

 が、その顔は今までどの訓練でも見たことの無い、怒りに満ちた顔だった。


「……誰が筋肉ゴリラだぁぁ?」

「ひ、ひぃぃぃぃ……!!」


 宏樹が腰を抜かして砂浜に尻餅をついて脅えている。無理も無い。俺ですら恐ろしいくらいだ。


「私は筋肉だがゴリラではない!! 誰にもゴリラだなんて言わせない!! 覚えておけっっ!!」

「ひぃぃぃぃ!! しゅみません!! すゅみぱせぇむッッ!!!!」


 頭を掴まれ持ち上げられた宏樹は、恐ろしさの余りあっという間に気絶してしまった。無理も無い。


「……軍曹」

「──あっ! いかん! 我を忘れてつい! 見るな! 見ないでくれ!!」

「もうガッツリ見ましたけど……」

「うわぁぁぁぁ!!!!」


 全力疾走で走り去って行く軍曹。それも海に向かって……。


「海が割れてゆく……」


 走る勢いが凄まじ過ぎて、軍曹を避けるように海が割れてゆく。漫画で見たような光景が、今目の前で行われていると思うと、凄ぇなこの人って素直に尊敬するわ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっている事は乙女そのものなのに、結果がナニカ違う軍曹が可愛い。
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