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第86話 近所の家で飼っている犬

 風音さんがそーっと、宝箱に手を伸ばす。

 それはさながら、近所の家で飼っている犬にびくびくしながら手を伸ばす子供のような姿だった。


 でも残念ながら、その宝箱は近所の家で飼っている犬ほど、かわいらしいものではなかったのだ。


 風音さんが宝箱のふたを、わずかに開いたときだった。


 ふたがひとりでに、ぐぱぁっと開いた。

 ふたと箱の間にはギザギザの鋭い牙がずらりと生え、風音さんに噛みつこうとする。


「うひっ、やっぱりぃっ!」


 風音さんはとっさに攻撃を回避した。

 コンマ一秒でも反応が遅れていたら間に合わなかったぐらいには、ギリギリの回避成功だった。


「出たっすね、ミミック! 【フレイムランス】!」


「はぁっ!」


 間髪入れずに、弓月の魔法攻撃と、俺の槍の一撃がミミックに叩き込まれた。

 ミミックの動きは非常に素早く、俺の槍はあやうく外れそうになったが、そこは【命中強化】様々だ。


 だがそれでも、ミミックは落ちない。


 今の俺たちの実力でこの二発の攻撃を叩き込めば、ミュータントエイプでも撃沈できるはずなのだが。

 残念ながらミミックのステータスは、ミュータントエイプをも大幅に上回る。


「このっ! おとなしくしなさい!」


 さらに、すぐさま体勢を整えた風音さんが、二本の短剣でミミックに斬りかかった。

 この攻撃を受けて、さしものミミックも黒い靄となって消滅した。


 戦闘終了だ。

 俺たち三人は、ホッと息をついた。


 なお、ミミックを倒しても魔石は落ちなかったが、新たな宝箱が出現した。


 無限ミミックみたいなことはなく、こうして出てきた宝箱は安全なものらしい。

 念のため警戒して開けたが、前情報どおりに普通の宝箱だった。


 風音さんが、宝箱の中から内容物を取り出す。


「これは『MPポーション』かな。火垂ちゃん、一応鑑定お願い」


「ほい来たっす──【アイテム鑑定】! ん、『MPポーション』で間違いないっすよ」


 宝箱の中から出てきたのは、「MPポーション」だったようだ。

 なかなかのお宝だな。


「MPポーション」は、消費アイテムとしてはかなりの高級品だ。


 そして、あまりコストパフォーマンスが良いアイテムとも言えない。


 具体的には、武具店での販売価格が2万円で、効果は「MPを10ポイント程度回復する」というもの。

 こんなものを常用していたら、一日の稼ぎがみるみるうちに削られてしまう。


 したがって「帰還の宝珠」などと同様、いざというときの緊急回避用のアイテムとして用いられるのが普通のようだ。


 たとえば、「MP切れでピンチだけど、もう少しでダンジョンから出られる」というときには、2万円の「MPポーション」を使えば状況を切り抜けられるならば、10万円の「帰還の宝珠」を使うよりは幾分か安上がりで済む。


 俺たちは手に入れた「MPポーション」を【アイテムボックス】に収納し、第九層の探索を再開する。


 といっても、味見というか下見というか、そうした役割はすでに概ね果たしたように思う。


 厄介なのはフレイムスカルだけで、ガーゴイルはうちのパーティにとってはほとんど脅威にならないことが分かった。


 これなら俺のMP消費も、それなりの水準に抑えられるだろう。

 予算に余裕があれば「抗魔の指輪」を買ってフレイムスカル対策してもいい。


 結局この日は、第九層で三時間ぐらい探索をしてから帰還した。


 戦闘風景も、トータル六回行った戦闘はすべて、今の戦力で対応可能な範囲内だった。

 この調子なら、明日には目標地点を目指せそうだ。


 風音さんや弓月とも合意して、俺たちは明日の探索で、第九層南西部の端へと向かうことにした。


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