第85話 ガーゴイルと宝箱
次に遭遇したモンスターの群れは、ちょっと面倒くさい相手だった。
通路の先から姿を現したモンスターは、全部で四体。
そのうち一体は、フレイムスカルだ。
残りの三体は、初見のモンスター──といっても、ずっと話題にしていたやつだが。
「出たっすね、ガーゴイル! うちの魔法のサビにしてくれるっすよ!」
弓月はその身に、赤色の燐光をまとわせていく。
俺と風音さんもまた、同様に魔法発動の準備だ。
一方で敵方は、フレイムスカルはその場で静止して魔法発動準備。
残る三体のガーゴイルは、翼をはばたかせ、低空飛行で俺たちに向かってきた。
ガーゴイルは、二本の角と翼が生えた、悪魔のような姿をした石像型モンスターだ。
石のように硬い肌は生半可な物理武器攻撃を寄せ付けず、鋭い牙や爪による攻撃力も侮れない。
だが火属性魔法が効くのであれば、うちには心強いダメージディーラーがいる。
さらに言えば、もう一人の範囲攻撃魔法の使い手も。
「轟く爆炎よ、すべてを焼き尽くせ! 【エクスプロージョン】!」
「巻き起これ、風刃の嵐! 【ウィンドストーム】!」
激しい爆発と、風の刃を大量に含んだ嵐。
二種類の範囲攻撃魔法が、三体のガーゴイルをまとめて包み込んだ。
敵後衛のフレイムスカルは残念ながらターゲットから外れてしまったが、これは致し方ない。
問題は、これでガーゴイルがどうなるかだが──
爆風の中から飛び出してきたガーゴイルは、一体だけだった。
残る二体は消滅し、魔石へと変わっていた。
「うっひゃ! また残りHP3とか!」
「そう来たか──【ロックバレット】!」
どうやら【エクスプロージョン】と【ウィンドストーム】を重ねたダメージでは、ガーゴイルを落とせるか落とせないかのギリギリ線上らしい。
残った一体のガーゴイルも、俺の【ロックバレット】を受けて消滅、魔石へと姿を変えた。
あとはフレイムスカル一体だけだ。
その後フレイムスカルからは、こちらが近接戦を仕掛けて倒すまでに、二発の火炎魔法が飛んできた。
これは二発とも風音さんを目標にしていたが、風音さんはそのうち一発を、見事な回避能力を見せてすんでのところで回避。
結果、被弾は一発だけとなった。
魔法もやはり、命中率が高いとはいえ、よけられなくはないんだな。
俺にはとうてい無理だと思うが。
【回避強化】を修得した後の風音さんの回避能力、いよいよ神がかっている感じがする。
それはそうと──
「あちゃー。宝箱、出ちゃったかぁ……」
フレイムスカルを倒したあとに、宝箱が一個出現していた。
風音さんが、少し微妙な顔を見せる。
「ん……? どうしたんすか風音さん。宝箱が出たのに、なんでそんな顔してるっす?」
「いやぁ……この階から出るんだよ、『ミミック』が」
「ああ。そんな話もあったっすね」
「取得可能スキルには出たんだけど、取らなかったんだよね、【トラップ探知Ⅱ】」
風音さん、なんとも苦渋の表情。
なるほど、そういうことか。
この階の宝箱から、新規に「ミミック」という種類の罠の可能性が追加される。
これは宝箱を開けようとすると、その宝箱がモンスターとなって襲い掛かってくるという仕掛けだ。
ちなみに、開ける前の箱を攻撃しても無駄。
普通の宝箱もそうだが、不思議な力によって一切のダメージを受けないようになっている。
正体を現したあとは倒せるようになるのだが、それまでは武器で殴ろうが魔法をぶつけようが無意味らしい。
しかもこの「ミミック」というトラップは、通常の【トラップ探知】のスキルでは見破ることができない。
その上位スキルである【トラップ探知Ⅱ】を取得していれば見破ることができて、それを条件として、通常の【トラップ解除】によって「ミミック」というトラップも解除できるようになる。
なお、そうして【トラップ解除】に成功したら、普通の宝箱になるのだという。
ダンジョンには相変わらず、どういうことなのかよく分からない仕掛けが多い。
風音さんには、21レベル段階で更新された修得可能スキルリストに、【トラップ探知Ⅱ】が出てはいたらしい。
ただあまりにも取得したいスキルが多すぎたために、泣く泣く取得を断念したのがこのスキルだったのだとか。
まあ21レベル以降に取ったスキルが【二刀流強化】【回避強化】【HPアップ(耐久力×6)】の三つと【短剣攻撃力アップ】の二段階ランクアップなので、無理もないと思う。
あの段階では一番の課題として見えていたのは森林層ボスの打倒だし、スキルの取得ミスと言ってしまうのも酷だろう。
そもそもどんなスキルを取得するのかは、自分の能力のことなんだから、個々人の判断をなるべく尊重するべきだと俺は思う。
パーティメンバーといえども、よほどでなければ横からケチをつけるものでもない、というのが俺の考えだ。
それはもっと深い意味でのパートナーとしても一緒。
風音さんから相談してきたならともかく、本人が自分で決めたことなら、なるべくその判断を否定したくはない。
もちろん程度問題はあるにせよ、だ。
ミミックの脅威度も加味して考えれば、【トラップ探知Ⅱ】を取らなかったことが、よっぽどひどい判断だったとも思えないしな。
俺はひとまず【アースヒール】で風音さんの負傷を癒す。
それから風音さんは、宝箱に取り掛かった。
「通常の【トラップ探知】には反応なし、と。じゃあ私が開けるから、二人はすぐに攻撃できる準備をして下がってて。特に火垂ちゃんは距離取ってね。当たりだったら、舌を伸ばして捕まえにくることもあるっていうから」
「いや、風音さん。開けるのは俺がやりますよ。俺のほうがHPも高いし」
俺はそう言ってみたが、風音さんは手のひらを見せて、ノーを言い渡してきた。
「だーめ。これは私が開けます。私のほうが回避力あるし『黒装束』だって着てる。大丈夫だよ。──でもありがとう、大地くん」
こう言われてしまえば、俺としては引き下がるしかない。
実際にも、どっちのほうが総合防御力が上かと問われれば、確かに風音さんだと思うし。
そして準備ができると、風音さんはごくりと唾をのみ──
宝箱に向かって、そっと手を伸ばした。
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