第83話 第九層へ
1日1話(18時)更新になります。
森林層のボス、デモンズフラワーを倒した俺たちは、ボス部屋の奥から続く螺旋階段を下っていく。
ボス部屋の先の構造は、洞窟層をクリアしたあとのそれとほとんど変わらない。
螺旋階段をしばらく下っていくと、やがて中継地点の小部屋にたどり着いた。
小部屋の中央には、転移魔法陣がある。
小部屋の奥には、下りの螺旋階段がさらに続いている。
あの先に第九層──通称「遺跡層」があるに違いない。
そして第九層といえば、例の「ダンジョンの妖精」絡みの件がある。
第九層の南西の端まで行けば、何かが起こると予想できる。
もう一度、宝箱がある部屋への道が開くのか。
そうではない別の何かが起こるのか。
逸る気持ちはあるが、今はそれよりも大事なことがあった。
何かというと──
「先輩~、お腹減ったっす~!」
「はいはい。今日は何食う? ラーメンか蕎麦か丼ものか、定食屋でもいいが」
「相変わらず色気ないっすねぇ。まあうちもその辺で文句はないっすけど」
「文句がないならいいだろ。俺に色気なんてものを求めないでくれ」
「あははっ。とりあえず転移魔法陣に乗って、ダンジョンの外に出よっか」
「そーっすね。ごっはん♪ ごっはん♪」
朝の九時過ぎにダンジョン入りして、今は十三時を少し過ぎた頃だ。
今日はボス戦をクリアしてから外で昼食をとる予定でいたから、弁当は持ってきていない。
つまり俺たちは今、三人とも腹ペコだ。
そんなわけで、三人で転移魔法陣に乗って、ダンジョンの出口へ。
一応、第八層と第九層の中継地点に飛べるかどうかを確認してから、昼食をとるためにダンジョンを出た。
***
ただいまっと。
お昼を食べて帰ってきました。
ボス戦後だけど、今日はMPもたっぷり残っているので、第九層の味見をしようと思って戻ってきたのだ。
MPがどのぐらいたっぷり残っているかというと、このぐらい。
六槍大地 MP:106/144
小太刀風音 MP:68/105
弓月火垂 MP:184/270
午前中からお昼にかけて森林層で十回近く戦闘をして、ボス戦までこなしてこれ。
第九層の味見をできるだけの余裕は十分にある。
というわけで、転移魔法陣で第八層と第九層の中継地点に降り立って、そこから螺旋階段を下っていくことしばらく。
到着したのは、石造りの迷宮だった。
螺旋階段を下りてきて、俺たちが今立っているのは正方形の部屋だ。
広さは十メートル四方ぐらい。
森林層とは違って、天井もある。
天井までの高さは、俺の背丈の二倍ほどか。
例によって壁がうっすらと発光していて、特別に灯りを用意する必要はない。
階段を背後に負って立つと、正面、右手、左手にそれぞれ通路が続いている。
ほかにはこれといって何もなく、殺風景な石壁が全方位を覆っていた。
俺は風音さん、弓月と顔を見合わせてうなずき合うと、二人とともにダンジョンを進んでいく。
選ぶ道は左手側。
ネットであらかじめ第九層のマップを調べてきたが、南西の端に向かうのはこっちだ。
「いかにも『ダンジョン』って感じっすね」
「確かに。森林層とか、ダンジョンって言われてもいまいちピンとこなかったからな」
「この階に出てくるモンスターは『ガーゴイル』と『フレイムスカル』だったよね。『ガーゴイル』は防御力が高いから、物理攻撃重視のパーティは厳しいって書いてあった」
「うちは『フレイムスカル』が嫌っすよ。なんすか『火属性耐性』って。うちに対する虐めっすか?」
「その代わりに、森林層後半では楽できたからな。しょうがないだろ」
「……じゃあ先輩、うちのこと守ってくれるっすか?」
「普段どおりにな。ただ『フレイムスカル』は魔法を使ってくるって話だから、弓月もどうしたって被弾対象になると思うぞ」
「ぶーっ。もうちょっと色気のあること言ってくれてもいいのに」
「だから俺に色気を求めるなと。だいたいお前相手にそんなもの出してどうする」
「あはは、二人は相変わらずだなぁ。でも魔法攻撃に対しては、魔力の高さがそのまま魔法防御力になるってことだから、火垂ちゃんは比較的安全なんじゃないかな。私のほうが危ないかも」
「たしかに。回避の鬼の風音さんでも、魔法攻撃をよけるのはさすがに難しいですよね」
「魔法はね~。【回避強化】も修得したし、多少はよけられる、かも? でも黒装束の防御力も役に立たないし、私も相性が悪い相手だよ」
そんな雑談と攻略談義の入り混じったトークをしながら、俺たち三人は石造りのダンジョンを進んでいく。
するとやがて、最初のモンスターの群れに遭遇した。
「うわぁ、いきなり出たっすよ『フレイムスカル』。あー、やだやだ」
そう弓月が愚痴ったとおり、現れたモンスターは、直前に噂をしていた相手だった。
数は三体。
そいつらの外見は、一言で表現するなら「青い炎に包まれた、宙に浮かぶ髑髏」だ。
人間の骸骨の頭部だけが、空中にふよふよと浮いている。
それの周囲を、燃え盛る青色の炎が覆っている形だ。
通路の先の角から現れた三体の「フレイムスカル」は、その身に赤色の燐光をまとわせはじめる。
魔法発動の準備動作に違いない。
俺たちもまた、遭遇したタイミングで動き始めている。
弓月は魔法発動のために魔力を高め、俺と風音さんは接近戦を仕掛けるべく駆け出した。
第九層、初戦闘開始だ。
作品を気に入ってもらえましたら広告下の「☆☆☆☆☆」で応援してもらえると嬉しいです。