第80話 レベル上げ
25レベルの天井に届くまで、レベル上げをする日々が始まった。
当初は一ヶ月ほどかかるかと予想していたが、経験値テーブルを確認してみたところ、実際には三週間もかからずに目標を達成できそうということが分かった。
とはいえ、これだけ長期にわたってレベル上げを続けるのは初めてだ。
第八層突入前から数えると、ほぼまるまる一ヶ月間、第八層メインでの探索を続けることになる。
このぐらい長期のレベル上げになると、それまでには見えていなかった要素が見えてくるようになる。
具体的に言うと、武具の「耐久値」の消耗問題だ。
武具の「耐久値」の消耗は、モノによって、あるいは戦い方によっても変わってくるのだが。
消耗が早いものだと、一ヶ月を待たずに「耐久値」が枯渇してしまう傾向にある。
うちのパーティの場合、最も消耗が激しいのは「武器」だ。
特に俺の槍と、風音さんの短剣は、ごりごりと「耐久値」が減っていく。
これはつまり、一ヶ月を待たずに武器を買い替えなければならない、ということだ。
これがなかなかにダンジョン予算を圧迫する。
それでも風音さんの「クリス」は、今の収入に対して安価な武器を使っているから、さほど大きな問題はない。
だが俺の「コルセスカ」は35万円と、まあまあのお値段になる。
これを一ヶ月(週五日間のダンジョン探索をする前提で実働は二十二日程度)を待たずに買い替えなければならないとすると、それだけでダンジョン探索一日あたり2万円近い経費が発生していることになる。
消耗するのは武器だけではないので、諸々考えると、一日あたり5万円ぐらいは武具経費で飛んでいる計算になる。
ちなみに第八層をメインとした探索では、実働八時間程度のダンジョン探索で、一日のパーティ収入は額面で30〜40万円程度。
なので5万円程度で済むなら、収入に対する適正な経費として吸収できる範囲と言える。
しかし、より高価な武具を使用していれば、より高額な武具経費がかかる。
100万円を超えるような武具を多用するのは、今の収入額で持続可能なダンジョン探索を続けるにあたって、少々厳しいと評価せざるを得ない。
したがって風音さんに「ルーンクリス」(130万円)を買っても、しばらく【アイテムボックス】に入れておいて雑魚戦は「クリス」で戦ってね、みたいな扱いをするなどした。
安物の武具で戦える相手なら、安物を使った方がいい。
経費削減! コストカット!
企業の偉い人の気持ちが少しわかってしまった。
なお、その環境下にあって、俺の【アイテム修繕】は神スキルだった。
もちろん「黒装束」が最優先だが、余力があればほかの高価なアイテムに対してもチマチマと「耐久値」の回復ができる。
たとえば35万円の「コルセスカ」の「耐久値」を1ポイント回復すれば、実質3500円相当の経費削減に繋がる。
MP10点も使って、たった1ポイントしか回復できないのかよとか思って悪かった。
【アイテム修繕】、お前は確かに神スキルだった。
ちなみに風音さんと弓月の修得可能スキルリストには出ていないらしい。
いいスキルを授かった感あるな。
裏方的で目立たなくはあるが。
さて、余談はこのぐらいにして、本題だ。
俺たちは、およそ三週間かけてレベル上げに挑み、全員が25レベルに到達した。
三週間かけて、と言ってしまうと一言で終わるけど、実際には長かった。
長かった。
毎日同じようなことを続けるのって、やっぱりどうしても飽きるよね。
もしこれが一ヶ月でなくて一年だったら、どこかで痺れを切らしてボスに突入していたと思う。
ともあれ、そんな苦労の果てに完成した三人のステータスが、こちら。
六槍大地
レベル:25(+4)
経験値:67445/67445
HP :162/162(+42)
MP :144/144(+18)
筋力 :24(+3)
耐久力:27(+3)
敏捷力:20(+2)
魔力 :24(+3)
●スキル
【アースヒール】
【マッピング】
【HPアップ(耐久力×6)】(Rank up!)
【MPアップ(魔力×6)】
【槍攻撃力アップ(+20)】(Rank up!)
【ロックバレット】
【プロテクション】
【ガイアヒール】
【宝箱ドロップ率2倍】
【三連衝】
【アイテム修繕】
【命中強化】(new!)
【グランドヒール】(new!)
残りスキルポイント:0
小太刀風音
レベル:25(+4)
経験値:67445/67445
HP :120/120(+30)
MP :105/105(+15)
筋力 :20(+2)
耐久力:20(+2)
敏捷力:34(+4)
魔力 :21(+3)
スキル
【短剣攻撃力アップ(+16)】(Rank up!×2)
【マッピング】
【二刀流】
【気配察知】
【トラップ探知】
【トラップ解除】
【ウィンドスラッシュ】
【アイテムボックス】
【HPアップ(耐久力×6)】(Rank up!)
【宝箱ドロップ率2倍】
【クイックネス】
【ウィンドストーム】
【MPアップ(魔力×5)】
【二刀流強化】
【回避強化】(new!)
残りスキルポイント:0
弓月火垂
レベル:25(+4)
経験値:67445/67445
HP :120/120(+30)
MP :270/270(+75)
筋力 :17(+2)
耐久力:20(+2)
敏捷力:24(+3)
魔力 :45(+6)
●スキル
【ファイアボルト】
【MPアップ(魔力×6)】(Rank up!)
【HPアップ(耐久力×6)】(Rank up!)
【魔力アップ(+10)】(Rank up!×2)
【バーンブレイズ】
【モンスター鑑定】
【ファイアウェポン】
【宝箱ドロップ率2倍】
【アイテムボックス】
【フレイムランス】
【アイテム鑑定】
【エクスプロージョン】
残りスキルポイント:0
スキル選択とかいろいろあるけど、いちいち説明していると長くなるので割愛。
俺と弓月は比較的収まるべきところに収まった感じがあるけど、スキル選択で一番悶絶していたのが風音さんだった。
取るべきスキルが多すぎて、まったくスキルポイントが足りなかったんだとか。
俺だってもちろん、【ロックバレット】の上級魔法【ロックバズーカ】とか、できれば取りたかったけど取れなかったスキルはあるけどさ。
装備品は、風音さん用に「ルーンクリス」を一振り購入したほかは、今まで通りのものを適宜買い足しただけだ。
ダンジョン予算と「耐久値」管理の都合上、これ以上装備をランクアップさせてしまうと破綻しかねないからだ。
世間はどこも世知辛いが、仕方ない。
ありものでやりくりするしかないのだ。
そうして、決戦の準備が完了。
俺たち三人は、再び第八層の最深部、ボスが待ち受けるゲートの前に立った。
見上げるほどの大きさの荘厳な門と、そこを固く閉ざす大扉。
ボスに挑まないという選択肢も何度も検討したが、その都度、その選択肢はないという結論に至っていた。
これまでの三週間は、あくまでも、多分勝てる相手に対してより一層の準備をしてきたにすぎない。
臆病風に吹かれたニワトリさんになるために、ここまで頑張ってきたわけではないのだ。
「よし、行くぞ」
「うん。絶対に勝つよ」
「決戦のときが来たっすよ~!」
俺は台座の上のオーブに、ゆっくりと手をかざす。
ゴゴゴゴッという石擦れの音を立てて、大扉が開いていった。
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