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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第78話 限界突破イベント

「ほう、お前らももう20レベルか。早いもんだな。ついこの間まで、レベル一桁のヒヨッコだったってのによ」


 武具店に入ってオヤジさんに話を聞くと、開口一番、そう言われた。

 あごをなでながら嬉しそうにしているオヤジさんに、俺は本題を切り出す。


「それで『限界突破』についてですけど。たしか『限界突破イベント』っていうのがあるんですよね?」


「あー、『限界突破』なぁ。それは期待しねぇ方がいいぞ」


「そうは聞くんですけど。やっぱり気になるので、詳しいことを知っておきたいと思って」


「ははっ、まあそらそうか。お前らももう天井が近いわけだしな。分かった、俺が知っているだけのことは教えるよ」


 オヤジさんはそう言って、説明を快諾してくれた。


 長話になるからと、お客さん用のテーブル席に腰掛けるように勧めて、厚意でお茶も淹れてくれる。


 特に接待される理由もないから気が引けたが、せっかくの厚意なので、俺たちはありがたくお茶をいただくことにした。


 オヤジさん自身も席につくと、お茶を一啜りしてから、こう語り始めた。


「まず、近年覚醒した探索者シーカーにとっては、『限界突破』の見込みがほとんどねぇって話からだな。これは何でだか知ってるか?」


「いえ。宝くじで億を当てるぐらいの強運がなければ引き当てられないとか、そういうのはネットに書いてありましたけど。具体的なことは何も」


「なるほどな。そりゃあ誇張のしすぎかもしれねぇが、まあ感覚的には大外れじゃないだろう。何しろ日本中の、いや世界中のあらゆるダンジョンの『限界突破イベント』は、すでにほとんど取り尽くされているだろうからな」


「取り尽くされている……?」


 オヤジさんは俺の返事にうなずくと、事の真相を教えてくれた。


 およそ三十年前に、全世界で同時多発的にダンジョンが生まれ、探索者シーカーが生まれた。


 当然ながら、ダンジョン発生当初に生まれた探索者シーカーたちは、ダンジョン探索の先駆者となった。


 手つかずで未探索、情報も何もないダンジョン。

 そこに潜る行為は、情報が整備された現在のダンジョン探索よりもはるかに危険であったが、それゆえの果実もあった。


 各ダンジョンの未探索領域では、稀に「イベント」と呼ばれる特殊な出来事が起こった。


 それは例えば、普段は遭遇しない強力なモンスターと出遭うことだったり、謎の液体が入った壺が置かれていて飲んだら能力値が上がるものだったり、草むらから飛び出してきたリスのような生き物に帰還の宝珠を盗まれたりするといったものだった。


 また未探索のダンジョンには、モンスターが落としたものではない、もともとダンジョンに配置されている「宝箱」もあったらしい。

 俺たちが「ダンジョンの妖精」絡みで訪れた、あの小広間にあったのと同じように、だ。


 そうした数々の「イベント」の中でも、特に重要だったのが「限界突破イベント」だ。


 概ねどこのダンジョンでも、第九層以降に現れ始める「限界突破イベント」

 それは通常25レベルで頭打ちになる探索者シーカーたちに、さらなるレベルアップのチャンスを与えた。


 一口に限界突破イベントといっても、その内容や規模やレベルアップの度合いは、様々だという。


 たとえばオヤジさんは、自身が経験した限界突破イベントの一つを、こう語って伝えてくれた。


「俺が経験した限界突破イベントの中で一番ヤバいと思ったのは、どこにあるとも知れねぇ謎のダンジョンに閉じ込められたときだな」


「閉じ込められた……ですか?」


「ああ。普通にダンジョン探索をしていたら、行き止まりの広間で突然、足元に転移魔法陣が現れてな。気が付いたら見たこともないダンジョンの中にいた。しかも出口が見付からねぇし、転移魔法陣も片道で、飛ばされた先には跡形もないと来た。『帰還の宝珠』も当然のように、ウンともスンとも言わねぇ」


「えっ……。それで、どうなったんですか?」


「仕方ないからってんでダンジョン探索を始めたら、すぐに住居になる場所を見つけてな。そこにはベッドだとか、魔石を入れると食料が出てくる謎のアイテムだとか、調理器具だとかがが置かれていた。でもって、指示があったんだ。『限界突破イベントへようこそ。全四層からなる特殊ダンジョンをクリアしよう。期限は三十日。期限内にクリアできなかったら、キミたちは崩壊するダンジョンに埋もれて死ぬ』ってな」


「「「えぇー……」」」


 話を聞いていた俺、風音さん、弓月の三人は、あきれた声をあげてしまった。


 オヤジさんから聞いたのでなければ、真っ先に嘘を疑っていただろう。

 むしろオヤジさんから聞いても、俺たちをからかっているんじゃないかと思ってしまうほどに荒唐無稽な話だった。


 だが荒唐無稽といえば、俺たちはダンジョンの妖精に出会っているし、木々や大地がひとりでに動いて通路を作ってしまった現象も目撃している。


 今さらどんな荒唐無稽に遭遇しようとも、そういうこともあるかと思えるぐらいには、現実と幻想の境界が曖昧になっていた。


「いや、あのときはマジで死ぬかと思った。そのダンジョンにいる間は、25レベルを超えていてもレベルが上がったんだが、何しろそこのモンスターが強くてな。三十日ギリギリで第四層のボスを倒して、元のダンジョンの行き止まりの広間に戻ってきたときには、生きてるってことを深く嚙み締めたもんだ」


 そう言ったオヤジさんは、どこか過去を懐かしむような目をしていた。


 ちなみに限界突破イベントには、ほかにもボス敵と戦うだけだったりとか、腕立て、腹筋、ランニングなどの運動を指定量こなすと1レベル上がるだとか、本当にいろいろとあるのだという。


 しかも限界突破イベントの詳細は、そのイベントに遭遇した本人たちの証言に頼るしかないから、彼らが嘘をついていても実際のところは分からない。

 眉唾モノの限界突破イベント話が、探索者シーカーたちの間で飛び交うこともしばしだとか。


「いずれにせよ、そういうわけでな。探索済みダンジョンの探索済み階層じゃあ、限界突破イベントには普通ありつけねぇだろうって話だ。たまにどこかの国で新規ダンジョンでも見つかろうものなら、情報が出回り次第、全世界から探索者シーカーが殺到して大わらわになるって寸法だ」


「……どこの世界も世知辛いんですね。ちなみに、オヤジさんってレベルいくつなんです?」


「俺か? 俺は46レベルだ。日本の探索者シーカーの中でも、十本の指には入るはずだぜ」


「46レベル……。今さらですけど、すごい人だったんですね、オヤジさんって」


「はっはっは、まぁな。とはいえ今の俺は、ただの武器屋のオヤジだがな。──さ、今日は何を買っていってくれるんだ?」


 オヤジさんはそう言って、ニヤリと笑った。


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