第75話 第八層(3)
第八層の新出モンスターが出ないなーと言っていたら、四戦目で遭遇した。
森の木々の合間から、のそりと這い出してくる「虎」に似た獣の姿。
その口からは、二本の長く鋭い牙が飛び出していた。
それが、四体。
俺たちの姿を発見するなり、こちらに向かって駆け寄ってくる。
「ようやくのお出ましっすね」
「あれがサーベルタイガー……動物愛護の人たちに怒られないかな?」
「モンスターは動物じゃないという定義ですし、ミュータントエイプとかさんざん倒しているのでいまさらかと」
「だよねー」
「来るっすよ! 風音さん、魔法一緒に頼むっす!」
「任せて! せーの──」
「【バーンブレイズ】!」
「【ウィンドストーム】!」
相手がどんなモンスターであろうと、こっちの戦い方はそんなに変わらない。
いくつかの選択肢の中から、最善を選ぶだけだ。
敵の数が多ければ、初手は範囲攻撃魔法でなぎ払うのがセオリー。
森の中の道をまっすぐに駆けてきた四体のサーベルタイガーは、その途上で炎と風刃の嵐に巻き込まれた。
今やキラーワスプやジャイアントバイパーなら、弓月の【バーンブレイズ】一発で消し飛ぶ。
デススパイダーでも、風音さんの【ウィンドストーム】が重なればひとたまりもない。
だが四体の獣は、一体も欠けることなく、炎の嵐の中から飛び出してきた。
さすがのタフネスだ。
「そうだろうと思ったけどな──【ロックバレット】!」
俺は飛び出してきた四体のうち、一体に向けて魔法の岩石弾を放つ。
岩石弾の直撃を受けたサーベルタイガーは、さすがに消滅して魔石になった。
残る三体のサーベルタイガーは、俺たちと接触するより少し前の地点でジャンプし、俺と風音さんに向かって飛び掛かってきた。
俺に二体、風音さんに一体。
「くっ!」
「はあっ!」
俺の槍が一体のサーベルタイガーを貫き、風音さんの短剣が別の一体を切り裂く。
その二体は黒い靄となって消滅し、魔石へと変わった。
だが残る一体は、防御をかいくぐり、俺の左肩に鋭い牙で噛みついてきた。
「ぐぅっ……!」
「先輩っ! このっ──【ファイアボルト】!」
そこに弓月の魔法攻撃による援護が入り、最後のサーベルタイガーも撃破された。
戦闘終了だ。
宝箱が一個、出現していた。
俺は大きく息を吐き、HPの残量を確認してから【アースヒール】で傷を癒していく。
治癒前の現在HPは、「85/110」まで減少していた。
今の俺の魔力なら、このぐらいのダメージは【アースヒール】一発でだいたい全快できる。
「大地くん、大丈夫……?」
「ええ。ジャイアントバイパーやデススパイダーの攻撃と比べると痛いですけど、ミュータントエイプほどではないです。毒もないですし」
「ほっ……良かったっす。でも意外とあっさり勝てたっすね。いつも初めてのモンスターには、ワーッとかギャーッとか叫んでた気がするっすけど」
「叫んでいたとしたら弓月だと思うが。それに六層でジャイアントバイパーと初めて戦ったときも、こんな感じじゃなかったか?」
「んーっ、そう言われてみると、そうだったかもしれないっす」
サーベルタイガーは、ステータスでいえばデススパイダーより上だが、ミュータントエイプよりはだいぶ下のモンスターだ。
バッドステータスを与えてくることもなく、実際に戦ってみた印象でもこれといったインパクトがなかった。
普通にちょっと強い、というぐらいのものだ。
風音さんが、宝箱の処理にかかる。
「トラップは……【毒針】か。──ねぇ火垂ちゃん、まだ【トラップ解除】してないんだけど、試しにこれ開けてみる?」
「ぶるぶるぶるぶるっ! お、お断りするっす! ていうか風音さん、それまだ根に持ってたっすか!?」
「ふふっ、残念。じゃあ【トラップ解除】っと。中身は~……あれ? ねぇ大地くん。これ『HPポーション』じゃないよね?」
「あー……そうですね。ちょっと色が違う。それひょっとして『ハイHPポーション』じゃないですか? 武具店で見たの、そんな色だった気がしますけど」
「おーっ、『ハイHPポーション』だとしたら、結構なお宝だね。火垂ちゃん、一応確認お願い」
「ほいほいっすよ。それじゃ──【アイテム鑑定】!」
結局のところ、弓月は【アイテム鑑定】を取得していた。
「黒装束」の【耐久値】を細かく把握しておきたい、というのが取得動機の大きな一つだ。
これまで武具の【耐久値】に関しては、武具店のオヤジさんに頼むと、サービスで【アイテム鑑定】をして教えてくれていた。
それは武具店で商品を買ったことに対するアフターサービスであり、次の商品を俺たちに買わせるためのオヤジさんなりのWin-Win戦略でもあった。
ところが「黒装束」に関しては、そのどちらにも該当しない。
ゆえにオヤジさんは、「黒装束」の【耐久値】の鑑定には、その都度の鑑定料として1000円を要求した。
まったくもって妥当な采配だろう。
タダで【アイテム鑑定】をしてくれることに感謝をすることはあっても、それをしてくれないことに恨み言を言うのは完全に筋違いだ。
というわけで、ほかにもいろいろ便利なこともあって、弓月は【アイテム鑑定】を取得したのだ。
「ん、やっぱり『ハイHPポーション』っすね。『飲むとHPを50ポイント程度回復する』だそうっす」
弓月は鑑定結果を、そう伝えてくる。
通常の「HPポーション」は、HPを10ポイント程度回復する効果があるアイテムだ。
武具店での販売価格は3000円。
対して「ハイHPポーション」には、HPを50ポイント程度一気に回復する効果がある。
武具店での販売価格は、たしか3万円だったはずだ。
うちのパーティは回復魔法があるからさほど重要なアイテムではないが、HP回復がポーション頼みのパーティでは、【アイテムボックス】の容量問題などもあり重要なアイテムになってくるのだろう。
手に入れた「ハイHPポーション」は風音さんの【アイテムボックス】に収納。
その後、【アイテムボックス】から三人分のお弁当と飲み物を取り出して昼食休憩をとってから、俺たちはダンジョン探索を再開した。
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