第74話 第八層(2)
俺、風音さん、弓月の三人パーティは、第八層の探索を快調に進めていく。
「うーん、サーベルタイガーもマッドフラワーも、なかなか出てこないっすね」
「だな。これじゃ第七層と変わらない」
「そう言ってたら、次が来たよ。……って、またそのパターンだ」
「今度はエイプちゃんっすか」
次の第八層三戦目は、ミュータントエイプ二体のご登場だった。
第八層の新出モンスター、なかなか出てこないな。
が、こいつら相手だと、ちょっと試してみたいことがあるんだよな。
「風音さん、弓月。MPの無駄遣いになるかもしれないけど、『例のアレ』、試してみてもいいか?」
「あー、『アレ』っすか。いいんじゃないっすか? MPが危なくなってきたら帰ればいい話っす。それに自分らの戦力把握は大事っすよ」
「私も賛成。大地くんの格好いいところ、見てみたいな♪」
「実際にやれるかどうかは、やってみないとってところですけど、了解です。右のやつは二人に任せます。俺は左を」
そう答えつつ、俺は魔法発動のために魔力を高めていく。
風音さんと弓月も、いつも通りに魔法の準備だ。
ミュータントエイプ二体が、森の中の道をずしんずしんと駆け寄ってくる。
直立したら体長三メートルにも及ぶであろう巨体のプレッシャーも、初見の時ほど感じなくなった。
左右並んで駆け寄ってくる二体のミュータントエイプのうち、俺は左の個体に意識を集中する。
右の個体は風音さんと弓月に任せた。
あっちは二人がかりなら、問題なく片付けてくれるはずだ。
問題は、俺のほう。
あと数秒で接触、というあたりで、俺は魔法を発動する。
「くらえ──【ロックバレット】!」
俺が突き出した槍の直前から、一塊の岩石弾が発射される。
岩石弾は狙い通りに、ミュータントエイプに直撃した。
だがミュータントエイプは、ダメージに怯んだ様子もなく暴走列車のように突進してくる。
その巨体に向かって、俺もまた地面を蹴った。
接触の直前。
俺は槍を持った右腕に「力」を集中し、スキルを発動する。
「これで落とせ──【三連衝】!」
俺の右腕と槍が淡く輝き、直後に三度の突きが、超速度で放たれた。
俺自身の動きとは思えないような、半ば自動的なアクション。
槍の穂先は、眼前に迫っていたミュータントエイプの胴を、過たず三度穿った。
一拍の後──バッと、黒い靄が霧散した。
地面には魔石が落ちる。
ミュータントエイプの巨体は、あっさりと撃破されていた。
「よっし!」
俺は小さくガッツポーズをする。
やったぞ、ミュータントエイプを俺一人で完封できた。
「「おおーっ!」」
風音さんと弓月が、パチパチと拍手してくる。
二人もまた、担当のミュータントエイプを片付けたようだ。
俺は頭をかきかき、「どうもどうも」と照れてみせた。
俺もまた、先週の間にレベルアップしている。
地道に上げ続けてきた【槍攻撃力アップ】のスキルは、今や(+16)にまで到達していて、現段階で取得できる最大ランクだ。
加えて槍も「パルチザン」(攻撃力15)から「コルセスカ」(攻撃力21)にランクアップし、筋力だって上がっている。
俺が取得した【三連衝】というスキルは、事実上、通常攻撃の三倍のダメージを与えるスキルだ。
俺自身の武器攻撃の威力が上がれば、【三連衝】によって与えるダメージはその三倍のレートでアップする。
俺が力をつければつけるほど、その攻撃力は飛躍的に上がっていく。
それが【三連衝】というスキルだ。
「弓月、やつのHPの動き、見ててくれたか?」
「うっす。ミュータントエイプの最大HPが138で、先輩の【ロックバレット】が入って残り114。そのあとは【三連衝】で一気に落としたっす」
「114を【三連衝】だけで削り切ったか。なかなかだな」
「かっこよかったよ~、大地くん」
「ははっ……ありがとうございます、風音さん。ちょっと、いや、かなり嬉しいです」
「でもMP消費は重いんすよね」
「えぇい、人がせっかく悦に浸っているのに現実に引き戻すんじゃない! そんな後輩にはこうしてやる」
「きゃーっ、また先輩に襲われるっすーっ♪ ──って、あははははっ! くすぐりは、ダメっすよ……!」
俺が弓月をひっ捕まえて脇をくすぐってやると、弓月は俺の腕の中で、涙目になって悶え苦しむ。
一方で風音さんは、そんな俺と弓月の様子をニコニコしながら見守っていた。
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