第73話 第八層(1)
二日休んで、次の週明け。
いつものようにダンジョン前に集合すると、俺は風音さんに「黒装束」を返却した。
「ありがとう、大地くん。……ねぇ、ひょっとして、匂い嗅いだりした?」
いたずらっぽい笑みとともに、そんなことを聞いてくる風音さん。
「な、何を。だいたいダンジョン用装備は自動的に浄化されるんですから、仮に嗅いだとして、着てた人の匂いなんて残ってませんよ」
「あ、試したから知ってるんだ~」
「い、いや、そんなことは……」
「怒らないから、本当のことを言ってみ?」
「はい、すみません。魔が差しました。ごめんなさい」
「ふふっ、よくできました。大地くんは変態だなぁ。でもお姉さん許しちゃう」
風音さんが俺の頭をなでなでしてきた。
くそぅっ、子供扱いしやがって。
今度イチャイチャするとき覚えてろよ。
「今日もまた、朝っぱらから暑いっすねぇ」
その様子を見ていた弓月は、いつものように手でパタパタと仰いでいた。
ん、なんかすまん。
そんな早朝のウォーミングアップトークをしつつ、俺たちは更衣室で着替えてから、ダンジョンへと向かう。
今日は第八層への初チャレンジだ。
転移魔法陣で中継地点に降り立ち、第五層、第六層、第七層と順繰りに下っていく。
朝の九時ごろにダンジョンに入って、第八層にたどり着いたのは十時半ごろ。
一日八時間労働をキープするとして、帰りの道程も考えると、第八層の探索時間として使えるのは正味五時間ぐらいだ。
第八層は、森林層の最下層にあたる。
洞窟層の第四層と同じように、ボスが待ち構えている階層になる。
相変わらず代わり映えのしない森林ダンジョンの風景を眺めながら、俺たちはてくてくと歩いてダンジョン開拓をしていく。
するとしばらくして、第八層最初のモンスターの群れに遭遇した。
ジャイアントバイパー七体。
これは特に問題なく片付けることに成功した。
第七層でも登場するモンスター編成なので、それはそうという感じだ。
ちなみにこの戦闘では、風音さんが一度、毒牙による攻撃を腹部に受けたのだが──
「いやぁ、相変わらず『黒装束』すごいよね。ジャイアントバイパーの牙が通らないんだもん」
と、当の風音さんはまったくの無傷だった。
風音さんが装備している「黒装束」が、ジャイアントバイパーの毒牙によるダメージを完全に遮断したのだ。
当然、「毒」を受けることもない。
チート級防具の本領発揮といった感じだ。
加えて隣では、弓月が大きさ控えめな胸を誇らしげに張って、高笑いを上げる。
「はぁーっはっはっ! もうジャイアントバイバーも、雑魚雑魚の雑魚っすね。何せうちの【バーンブレイズ】で一発っすからね」
「ああ。群れが散らばってなきゃ、それだけで一網打尽にもできるんだがな。でも風音さんの【ウィンドストーム】なしで乗り切れるようになったのはでかいよ。大したもんだ」
「でしょでしょ!? 先輩はもっともっとうちを褒めていいっすよ。うちの頭も、思う存分なでなでするがいいっす」
「ああ、すごいすごい。さすが弓月だ」
「えへへーっ、でへへーっ♪」
俺が頭をなでてやると、弓月はでれでれになった。
幸せそうで何よりだよ。
先週のレベルアップで、弓月は魔力を5ポイントもアップさせた。
それに「ソーサリースタッフ」の魔法威力増加効果も加わり、今やジャイアントバイパーの群れをも【バーンブレイズ】一発で殲滅できるほどの魔法攻撃力を獲得していた。
これにより、風音さんがMP不足に陥る心配も、ほぼ皆無になった。
だからと言って、風音さんの【ウィンドストーム】が役立たずになったわけでもないのだが。
次に遭遇したのは、デススパイダー五体だった。
これも第七層でも遭遇しうるモンスター編成で、第八層特有の強敵というわけではない。
デススパイダーたちは八本脚を高速で動かして、俺たちに向かって襲い掛かってくるが──
「行くよ、火垂ちゃん──【ウィンドストーム】!」
「了解っす、風音さん──【バーンブレイズ】!」
二人の探索者の魔法がほぼ同時に発動し、炎の嵐となって巨大蜘蛛たちを包み込む。
五体のうち四体を巻き込んだ範囲魔法攻撃は、その四体すべてをまとめて消滅させた。
「うっし! うちと風音さんのコンビプレイなら、デススパイダーだってちょちょいのちょいっす!」
ジャイアントバイパーよりも耐久力に優れた強敵デススパイダーは、さすがの弓月でも【バーンブレイズ】一発で殲滅することはできない。
そこで風音さんの【ウィンドストーム】の出番だ。
二つの攻撃魔法が重なれば、さしものデススパイダーもひとたまりもない。
ちなみに先々週の段階では、二つ重ねてもデススパイダーは殲滅できなかった。
そのあたりにも成長が見えるな。
そして、残る一体は──
「風音さん!」
「うん、大地くん!」
「「──はぁあああああっ!」」
巨大蜘蛛の胴体部を、俺の槍が鋭くえぐり、風音さんの短剣二刀流が素早く切り裂く。
二人の武器攻撃コンビネーションで、最後の一体もあっさりと撃破だ。
「「「イェーイ!」」」
三人でパンパンパンと手を合わせ、勝利を喜び合う。
第八層の最初二戦闘は、実に快調な滑り出しだ。
この調子でサクサクっと進んでいこう。
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