第70話 新技
パーティ内の人間関係の話はさておいて。
ダンジョン攻略の話をしよう。
森の中の道をてくてくと歩きながら、俺は弓月に声をかける。
「で、弓月。【三連衝】のダメージはどうだった?」
「やー、何とも言えないっすね。【モンスター鑑定】を発動させたままリアルタイムでHPの数字を凝視してたっすけど、55から一気に0になったことしか分からなかったっす」
「そうか。残念」
「でも先輩の槍のダメージは、ミュータントエイプ相手だと30ちょいぐらいっすから、三倍だと100ぐらい出るんじゃないっすかね」
「まあオーバーキルな気はしてた。今後調整だな」
【三連衝】一発で、100ダメージぐらいか。
俺の最大HPが80だから、俺自身に撃ったら瞬殺案件かもなと、ナンセンスなことを考えてみたりする。
でもミュータントエイプの最大HPは138もあるから、さしもの【三連衝】でも、それ一発だけではさすがに落とせそうにない。
あのゴリラ、タフすぎだろ。
「あとはMP消費量だよな。【三連衝】は強いけど、MP消費もさすがに重い。攻撃スキルで8点消費はヒーラーにはキツイわ」
「六槍先輩にも、うちの有り余るMPを分けてやりたいっすよ」
「くくくっ、いいだろう。ならば貴様のMPを奪い尽くしてくれるわ」
「きゃーっ、先輩に襲われるっすーっ♪ 風音お姉ちゃん助けてーっ」
「ダメよ、大地くん! 火垂ちゃんを襲うなら、私が身代わりになるわ! さあ私を襲いなさい!」
「ふはははっ、ならば二人まとめて食らい尽くしてくれるわーっ! ……って、ツッコミ役不在なんですけど」
「正気に戻っちゃダメっすよ先輩」
ノリで茶番劇を演じる。
楽しいのはいいけど、我ながらかなり恥ずかしい。
ほかに誰も見ていないダンジョン内だからいいが、人に見られたら切腹モノだな。
「けどこの有り余るMPの使い道もできたっすよ。うちも今の戦闘でレベルアップして、必殺技を覚えたっす」
「ほほう」
「──【ステータスオープン】! ほらほら、これっすよ」
「んー、どれどれ」
俺は弓月が出したステータスを、横からのぞき込んだ。
弓月火垂
レベル:16(+1)
経験値:10642/13527
HP :60/60
MP :160/160(+10)
筋力 :13(+1)
耐久力:15
敏捷力:18(+1)
魔力 :32(+2)
●スキル
【ファイアボルト】
【MPアップ(魔力×5)】
【HPアップ(耐久力×4)】
【魔力アップ(+6)】
【バーンブレイズ】
【モンスター鑑定】
【ファイアウェポン】
【宝箱ドロップ率2倍】
【アイテムボックス】
【フレイムランス】(new!)
残りスキルポイント:0
「ほー、【フレイムランス】か。でも16レベルでスキルリストに【魔力アップ(+7)】も出たんじゃないのか? それを取らずにこっちを優先したってこと?」
「うっす。何しろ威力係数2.2っすよ。ドカーンすよ、ドカーン!」
「係数2.2か。たしかにな。弓月はMPも余りがちだし、優先して取るだけの価値はあるか。……いや待て。これがあれば、俺が【三連衝】を使わなくてもミュータントエイプ二体編成に対応できるんじゃないか?」
「くっくっく。さすが先輩、お目が高いっす。まさにそのために取ったといっても過言じゃないっすよ」
ネットに上がっている検証班の調査報告によると、攻撃魔法の威力は「威力係数」と呼ばれる数値で表すことができるという。
具体的な数字の話をすると、「術者の魔力+武具の魔法威力修正」に「威力係数」を掛け合わせたものが、その魔法の基本的な攻撃力になる。
それぞれの魔法の威力係数は、例えば【ファイアボルト】なら1.8、【バーンブレイズ】なら1.3、などといった数値が検証班によって提示されていた。
それと比べて弓月が新しく取得した【フレイムランス】は、威力係数2.2。
この数字を見ても、同じ単体攻撃魔法の【ファイアボルト】と比べて、言うほど派手ではないと思うかもしれない。
だが何しろ、掛け算なのだ。
弓月ぐらいの化け物級魔力を持っていれば、威力係数が少し上がるだけでも、トータルの魔法ダメージは爆発的に跳ね上がる。
ちなみに16レベルになった弓月のステータスを見ると、魔力が2ポイント上がっているが、そのうち1ポイントは「魔力のシード」を弓月が食べたからだ。
前述のとおり、「魔力」は魔法の威力に対して掛け算で影響するから、1ポイント上がるだけでもその効果はバカにできない。
加えて「魔力」は、魔法防御力や最大MPにも響いてくるため、ほかの能力値と比べて「当たり能力値」とも呼ばれている。
「シード」の取引価格で見ても、「魔力のシード」はほかのシードよりも高い値段で取引される傾向にあるらしい。
ともあれ──この弓月のスキル取得は、第七層攻略に見事にヒットした。
ミュータントエイプ二体編成という厄介な相手への対処が、弓月の単体攻撃魔法の大幅な攻撃力アップによって、大きな問題なく可能になったのだ。
結果として俺の【三連衝】は要らない子になったが、そういうこともあるだろう。
今後いつか役に立ってくれるはずだ。きっと。寂しくなんてないぞ。
となれば、残る第七層攻略課題は、風音さんの消費MPの大きさだけだが。
これも風音さんが18レベルにレベルアップして【MPアップ(魔力×5)】を取得したことにより、いくらか余裕が生まれることになった。
小太刀風音
レベル:18(+1)
経験値:17550/22315
HP :64/64(+4)
MP :80/80(+16)
筋力 :16(+1)
耐久力:16(+1)
敏捷力:27(+1)
魔力 :16
スキル
【短剣攻撃力アップ(+10)】
【マッピング】
【二刀流】
【気配察知】
【トラップ探知】
【トラップ解除】
【ウィンドスラッシュ】
【アイテムボックス】
【HPアップ(耐久力×4)】
【宝箱ドロップ率2倍】
【クイックネス】
【ウィンドストーム】
【MPアップ(魔力×5)】(Rank up!)
残りスキルポイント:0
これで第七層攻略の課題は、概ねクリアされたと見ていいだろう。
とはいえ、戦力にものすごく余裕があるような状態でもない。
一日八時間程度の探索を終えてダンジョンを出たときには、全員のMPが最大値の七割から八割ほど削られているような状態だった。
第八層に下りるにはまだ早い気がする。
今の戦力で安全マージンを多めにとって稼ぐには、第七層がベストだろう。
そう考えた俺たちは、来週いっぱいは第七層でレベル上げをすることにした。
今週のダンジョン探索をすべて終えた俺たちは、三人で一緒に食事をしてから、それぞれ帰宅の途につく。
なお昨日の今日なので、風音さんとのイチャイチャは、残念ながらおあずけだ。
お互いずぶずぶにハマってしまいそうなので、節度を持ってイチャイチャしようという話になっていた。
俺は家につくと、ひと風呂浴びてから就寝する。
だがその晩、俺はとても奇妙な「夢」を見ることとなったのである。
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