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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第67話 共有

 俺と風音さんは一度別れ、自宅に戻って着替えなどしてから、ダンジョン前に再集合した。


 一番遅れてやってきたのは、弓月だった。

 弓月は自転車を停めると、俺と風音さんのもとにやってくる。


「先輩、風音さん、おはよーっす。──にひひっ、二人とも、昨晩はお楽しみだったっすか~?」


 弓月は俺と風音さんの前に立って、そうからかってきた。


 このときには、弓月の姿はいつも通りであるように見えた──少なくとも、俺の目には。


 俺は思案する。

 さて、どう答えよう。

 素直に事実を話すべきかどうか。


 俺は風音さんと顔を見合わせる。

 風音さんは困ったように笑い、首を傾げた。


 ……しょうがない、適当にあしらうか。


 俺は弓月の頭に手を置いて、その髪をくしゃくしゃとなでる。


「どうあれお前には関係ないだろ。俺と風音さんのプライベートに踏み込むな」


「うきゅっ……。なんすか、関係ないってことないじゃないっすか。お邪魔虫のうちがせっかく気を利かせて帰ってあげたんすから、結果ぐらい聞かせてくれても……あっ……あれ……?」


「えっ……?」


 驚いた。


 弓月がなぜか、瞳から大粒の涙をこぼしていた。


 本人にとっても意外だったようだ。

 弓月は手の甲で涙を拭うが、瞳からあふれ出すそれは次から次と頬をつたって流れ落ちていく。


「あ、あれ、おかしいっす……こんなはずじゃ……う、うちちょっと、お手洗いに行ってくるっす!」


 弓月は俺に顔を見せないようにして、ダンジョン総合の建物のほうへと走っていってしまった。


 俺はそれを呆然と見送るしかない。


「あいつ、なんで突然泣いたりして……大丈夫ですかね?」


「……大地くん、それ本気で言ってる?」


 だが隣にいる風音さんは、信じられないという顔で俺を見ていた。


「えっ。俺、何か変なこと言いました?」


「嘘でしょ……。そんな、そんな強力な暗示ある?」


「暗示?」


「……ごめん、大地くん。それはない。私が言えた義理じゃないけど、さすがに火垂ちゃんが可哀想」


「ごめんなさい。本当に何が何だか分からないので、教えてもらえませんか?」


「はあっ……。どうしたもんかなぁ、これ……」


 風音さんが途方に暮れた様子で空を見上げていた。


 なに、俺が悪いの……?

 本当に何が何だかさっぱり分からん。


 でも風音さんは、俺に何も教えてはくれなかった。

 というか──


「んー、分かった。火垂ちゃんとは私が話をするから、大地くんはそのままでいてくれていいよ。いっそそのほうがいいかも」


 などと言って、風音さんもすたすたとダンジョン総合の建物に向かっていってしまった。

 えぇーっ……。


 ぼーっとしていても仕方がないので、俺もダンジョン総合の建物に入って、更衣室でダンジョン用装備に着替えをした。


 その後、更衣を終えて風音さんと弓月が出てきたのは、いつもよりだいぶ時間がかかってのことだった。


「やーっ、先輩、ごめんっすよ。風音さんとも話がついたし、もう大丈夫っす」


 そう言う弓月は、いつもと同じ笑顔を見せてくる。

 少なくとも俺には、そう見えた。


「そうか? 何だか分からないが無理はするなよ──って、痛たたたたっ」


「大地くん、ごめーん。それはダメ☆」


 風音さんに耳を引っ張られた。


 な、なんだ?

 何も分からんということしか分からん。


「火垂ちゃん、私には何も言う資格ないけど、大地くんのことはたくさんいじめていいからね。私が許可します」


「うっす、あざっす。でも風音さんも、そんなに気は使わなくていいっすよ。さっきも言ったっすけど、風音さんは何も悪くなくて、うちが悪いんすから。でも先輩のことはたくさんいじめるっす」


 待って、何この風音さんと弓月の間で締結されたっぽい、俺にとって理不尽しかなさそうな不平等条約は。


「あの、風音さん。これは一体……?」


「大地くんには鈍感の罪として、火垂ちゃんの玩具になってもらいます。私が火垂ちゃんに許可しました。大地くんに拒否権はありません」


「えぇーっ……」


 鈍感の罪って、風音さんのアプローチに気付かなかった俺の罪?

 なぜそれが弓月の玩具になることに繋がるのか。


「あと火垂ちゃんには、大地くんとべたべたスキンシップをする権利は認めたので、今までどおりに火垂ちゃんとイチャイチャしていいですよ。でも私ともイチャイチャしてくださいね?」


「はあ……」


 だから弓月とイチャイチャはしてないよ、と言い返せるような雰囲気ではない。

 有無を言わさぬ風音さんの圧力。


 何だか分からないが、これは逆らわない方が良さそうだ。

 俺の第六感が、著しい危機感を訴えていた。



 ***



──Side:小太刀風音──


 火垂ちゃんは不思議な子だ。

 何を考えているのかよく分からないところがある。


 大地くんに好意を持っていることは間違いないと思っていた。

 じゃないとあんなにスキンシップを許すわけがないし、好きでもない男子を相手にあれほど嬉しそうにするわけがない。


 だけど私と大地くんの関係を応援してくれるような仕草も見せる。

 そこが謎だった。

 私はよく分からないまま、それに甘えていた。


 私も火垂ちゃんのことは好きだ。

 かわいいし、仲良くしたい相手だ。


 それでも──私は火垂ちゃんを裏切った。

 火垂ちゃんが大好きな大地くんを、私が奪ってしまった。


 火垂ちゃんが涙を流したときに、私はようやくそのことを確信した。


 私が逆の立場だったら、耐えられなかったかもしれない。

 大地くんを奪った相手を逆恨みして、許せなかったかもしれない。


 でも私が火垂ちゃんを追いかけていったら、火垂ちゃんはトイレで泣きじゃくりながら、こう叫んだのだ。


「ごめんなさい、風音さん! うち、先輩のこと好きになっちゃったんすよ! 好きになっちゃいけないのに、風音さんとの仲を祝福しないといけないのに、でも、でも、胸がはちきれそうになるっす! 先輩がもう、うちのことを見てくれないって思ったら! 風音さんに先輩の全部を奪われちまうって思ったら! 切なくなって、苦しくなって、涙が出てきて──うわぁああああああんっ! ごめんなさいっすー!」


 どうしてこの子は、と、愛おしく思ってしまった。


 私はこの子から、大地くんを奪ってしまった張本人なのに。

 私はこの子から、いくら恨まれても仕方のない人間なのに。


 火垂ちゃんは、自分が悪いんだと、自分自身を責めていた。

 私と大地くんの仲を祝福しなければいけないのに、心の底から祝福できない自分を悪者にして。


 私は、私にそんな資格はないと思いながらも、火垂ちゃんを抱きしめてしまった。

 火垂ちゃんも私にぎゅっとしがみついてきた。強く。強く。


 この子のために何かしてあげたいと思った。

 この子から、大地くんの全部を奪ってはいけない。


 でも大地くんは私のものだ。

 誰にも渡さない。

 たとえ火垂ちゃんでも、私から大地くんを奪うことは許さない。


 庇護欲と、所有欲。

 二つの欲求の間で揺れ動いた私は、ギリギリの妥協点にたどり着く。


 火垂ちゃんと二人で更衣室に移動して、ダンジョン用装備に着替えながら、私は火垂ちゃんに一つの提案をした。


「火垂ちゃん。大地くんを半分こ──とは言わないけど、二人で共有シェアしない?」


「ふぇっ……? シェアっすか……?」


 下着姿の火垂ちゃんが、こっちを向いて聞き返してきた。


 更衣室は男女別なので、この話が大地くんに聞かれることはない。


 パーカーとシャツを脱いで、同じく下着姿になっていた私は、今日から装備することになった漆黒の衣服系防具を身に付けながら応じる。


「うん。私は大地くんとイチャイチャするけど、火垂ちゃんも大地くんとイチャイチャする。どう、かな……?」


「……えっと、いろいろ言いたいことあるっすけど……まずそれ、六槍先輩の意志がなくないっすか……?」


「大地くんは、たぶん問題ないよ。──火垂ちゃん、ショックを受けないで聞いてほしいんだけど。きっと大地くん、火垂ちゃんのことは本当に『弟分』としか見てないと思う。信じられないことに」


「……うん、薄々分かってたっすけど、ショックは受けるっすよ? うちそんなに女子としての魅力ないっすかねぇ……」


「それは大地くんがおかしい。あれは変。火垂ちゃんは絶対かわいい。私が男子だったら放っておかない」


「うっす、あざっす。ちょっと自信が戻ったっす。……で、それがどうして、先輩をシェアして問題ないことになるっすか?」


「んー、つまり。火垂ちゃんは今までどおりに、大地くんとイチャイチャすればいいんじゃないかなって。それで大地くんが、火垂ちゃんを魅力的な女子として意識しはじめたら万々歳。シェア完了」


「あー……なるほどっす。それはもちろん、うちは嬉しいっすけど……でも風音さんは、それでいいっすか? 今や先輩、風音さんの彼氏っすよね?」


「私は大地くんを奪われたくないし、火垂ちゃんから大地くんを奪うこともしたくない。だから『共有シェア』。虫のいい話だとは思うし、非常識で不健全かもしれないけど、それが私の本音だよ」


 ……だと思う。

 分からない。あとで考えが変わるかもしれない。


「風音さん、優しいのか強欲なのか分かんないっすね」


「強欲だよ。──でも火垂ちゃん、いつから大地くんのこと好きだったの? 最初に会ったときは、そこまでではなさそうに見えたけど」


「あー……それはうちも、自分でも分からないっす。先輩と風音さんを見てるうちに、嫉妬心? みたいなのが湧いてきたみたいっす。自覚したのはつい最近だけど、もしかしたら最初から好きだったかもしれないっす。なーんであんな冴えない先輩を、こんなに好きになるっすかねー」


「あ、私の彼氏にそんな悪口言うなら、シェアするのやめよっかな~」


「あーっ、ダメっすダメっす! ごめんなさいっす! 六槍先輩はとっても魅力的な人っす! うちも大好きっすよ!」


 そんな火垂ちゃんの反応に、私はくすっと笑ってしまう。


 人が良すぎるよ、火垂ちゃん。

 大地くんもそうだけど。


 性根が悪くてドロドロしてるのは私だけだなぁ~。ふふふっ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 意識せず大粒の涙をこぼす火垂のいじらしさ。 胸がはちきれそう、って普通ソコは締め付けられそうとか破裂しそうじゃないの?と思うけど、でも悲しみが膨れ上がっている気持ちがよく伝わってきてとても…
[良い点] やっぱり弓月は主人公を好きだったか~。 [気になる点] 弓月とはこのまま両手に花路線でいくのか、距離感の近すぎる弟分としてイチャイチャしつつも弓月の片思いのままでいくのか。 主人公は弓月に…
[一言] 鈍感系主人公って、発達障害の一種だよね。ただのぼっちのコミュ障の場合、察した上で「そんな訳無い」と否定するだけだし。完全に気付かないのはヤバい。共感能力の欠如と言う点ではサイコパス一歩手前。…
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