第65話 告白
俺たち三人が、早めの夕食と会議を終えて回転寿司店を出たのは、午後の六時を少し過ぎたぐらいの時間だった。
例によってビール一杯でできあがった小太刀さんは、ハイテンションで俺たちに絡んできていた。
「六槍さん、火垂ちゃん! 二軒目行きましょう二軒目! ハシゴ酒です! 二軒目なら二杯目以上ももちろんオーケーですよね?」
「どうしてそうなるんですか。ほら、帰りますよ小太刀さん」
「ええーっ、やぁーだぁー! 今日は帰りたくなーいー! もっと楽しいことしたい~!」
「子供ですか。まったくもう」
「何ですかぁ、六槍さんこそ大人ですかぁ? そんな大人な六槍さんには、こうしちゃいます。えいっ♪」
「わっ……! ちょ、ちょっと、小太刀さん……!」
小太刀さんは俺に飛びつき、抱きついてきた。
駅近くの店舗の前の通りだ。人通りは多く、通りすがりの人々がちらちらと視線を向けてくる。
はたから見たら、完全にバカップルだろう。
俺は後輩に助け船を求める。
「おい弓月、助けてくれ!」
「はあ? 何言ってんすか先輩。うちお邪魔虫みたいだから帰るっすよ」
「えっ……? お、おい、弓月……!?」
「じゃ、風音さんもまた明日っす。良い夜をお過ごしくださいっすよ」
「え、火垂ちゃん帰っちゃうの? もっと一緒に遊ぼうよ~」
「風音さんもそういうの、どうかと思うっす。酔ってるのか、ふりなのか知らないっすけど。それじゃ、先輩も風音さんもまた明日。遅刻してきちゃダメっすよ」
弓月はそれだけ言い残して、さっさと自転車に乗って去ってしまった。
あとに残されたのは、俺と小太刀さんの二人だけ。
しかも小太刀さんに抱きつかれた状態でだ。
「火垂ちゃん……」
小太刀さんが心配そうな声でつぶやく。
なんか今日は、弓月の情緒が不安定だった気がする。
本気で不満を抱えていそうな、そんな声色だと感じることが何度かあった。
普段コメディリリーフなやつが本気のトーンになっても、俺もどうしていいか分からなくなる。
「弓月のやつ、何かあったんですかね……ていうか、そろそろ離れません?」
「あっ……そ、そうですね。あはははっ、私ってば、酔っていてつい」
小太刀さんの温もりが、俺から離れていく。
赤くした頬を、ぽりぽりとかく小太刀さん。
俺から視線を逸らしている姿は、酔っている小太刀さんというよりも、普段の小太刀さんのようだ。
なんか空気が変だ。いつもと違う。
いや、いつもと違うのは、今に始まったことじゃない。ダンジョン探索のときからだ。
今の回転寿司店での会議も、みんな一時的にいつも通りを演じていただけなのかもしれない。
俺は、いつも通りをしていてはいけない理由を積み残している。
忘れていたわけじゃないが、それを言い出せる空気を作れなかった。
弓月はそんな俺を見かねて、場を作ってくれたのだろうか。
分からない。それだけではない気もするが。
でも、今しかないとも思った。ここで言い出さないようなら、永久に無理だろう。
「あの、小太刀さん」
「は、はひっ!」
俺の声のトーンが、いつもと違うことに気付いたのだろうか。小太刀さんが一気に緊張した様子を見せる。
周囲にはたくさんの人通りがある。でも今の俺には、小太刀さん以外の人々などは、すべてが取るに足らないモブとしか感じられなかった。
「あの……俺、小太刀さんのことが、好きです」
言った。
言ってやった。
あまりにも遅すぎたし、これだけじゃ全然足りないようにも思うが、ともあれ俺の口から自分の想いをはっきりと言った。
これだけは絶対、やらなきゃいけないことだと思っていた。
もっとロマンティックなシーンで言わないとダメだとか、いろいろと考えたけど、そんな難しいことを考えていたら実行力を失ってしまう。
「……はい。私も、六槍さんのことが好きです」
小太刀さんが、そう応じてきた。
頬は真っ赤で、ガチガチに緊張している様子だった。
たぶん俺も、似たような顔をしているんだろう。
いいのかな。
いいんだろうか。
──えぇい、ままよ。
俺は小太刀さんの腰と背中に手を回して、抱き寄せる。
小太刀さんは一瞬だけ驚いた様子を見せたが、やがて俺に身を任せて、まぶたを閉じた。
俺は小太刀さんの唇に、唇を重ねた。
小太刀さんの腕が、俺の背中へと回され、ぎゅっと抱きしめてきた。
俺もまた、小太刀さんの体を、強く抱きしめ返す。
心地よくて、温かくて、大好きな人の感触。
俺はそれをいつまでも感じていたくて、ずっと長い間、小太刀さんを抱き続けていた。




