第59話 第七層(2)
紅蓮の炎で広範囲を包み込む、弓月の【バーンブレイズ】
風の刃を大量に含んだ嵐で、広範囲の敵をずたずたに切り裂く、小太刀さんの【ウィンドストーム】
二つの範囲攻撃魔法が同時に炸裂すると、それに巻き込まれた五体のジャイアントバイパーはまとめて消滅し、五つの魔石となった。
「っし! これがうちと風音さんの連係プレイの威力っすよ!」
「六槍さん! 残り二体、来ます!」
先頭の五体よりわずかに遅れていた後続の二体が、一拍遅れて突っ込んでくる。
俺はそれを待ち構えていた。
「残り二体なら──【ロックバレット】!」
うち一体に、俺は岩石弾の魔法を放つ。
岩石弾はジャイアントバイパーに直撃したが、その一撃でそいつが消滅することはなかった。
それももちろん予定通り。
「小太刀さん! 無傷のほうは任せます!」
「はい! ──やぁああああっ!」
二刀流の小太刀さんのほうが、トータルの物理攻撃力は俺よりも上だ。
小太刀さんは、二本の短剣で瞬間的に二発切りつけ、眼前に迫った無傷のジャイアントバイパーを瞬殺した。
俺もまた、【ロックバレット】でダメージを与えたほうに槍で追加攻撃を加え、もう一体の撃破に成功する。
七体のジャイアントバイパーを、すべて撃破した。
結果的には完封勝利だ。
俺たちはいつものように、ハイタッチで勝利を祝う。
その後、弓月が俺の前に、可愛いらしげにぴょこんと立った。
「先輩、勝利のお祝いに、うちにチューしてもいいっすよ♡」
「えっ、マジで? じゃあ遠慮なく。んーっ」
「ギャーッ! 待った待った! 本気でやるとは思ってなかったっす! やめっ、やっ、嘘っ……あっ……」
「──って、本当にやるわけないだろ。なに雰囲気出してんだよ」
「んなっ……!?」
弓月が顔を真っ赤にして、口をパクパクしていた。
ふっ、バカめ。
自分から仕掛けておいて墓穴にハマるとはな。
男芸人同士でチューする芸があるけど、弓月相手にあれをやるのはさすがに抵抗がある。
こんなのでも一応、生物学的には女子という点を尊重したい。
そんなことを思っていると──
「……六槍さん」
「はい?」
小太刀さんが俺の手を、ぎゅっと握ってきた。
え、なに? やわらかい。
小太刀さんは不満そうに唇をとがらせ、何か言いたげな上目遣いで俺を見つめてくる。
「……あの、何でしょうか……?」
「……いえ、別に。ちょっとモヤッとしただけです。何でもありません」
小太刀さんは俺の手を離すと、そそくさと離れていった。
宝箱が一個出ていたので、それのトラップ処理を始めたようだ。
えー……。
俺、どうしたらいいんだろう。
なおどうする必要もなく、少しの後には、弓月も小太刀さんも普段通りの様子を取り戻して談笑していた。
「風音さん、作戦うまくいったっすね」
「うん。でもやっぱり、MPがちょっと不安かな」
「【ウィンドストーム】の消費MPが7で、風音さんの最大MPが64だったっすか。たしかに毎戦闘使うにはちょい不安っすよね。うちの有り余るMPを風音さんに分けてあげたいっす」
「ずっと消費MP2の【ウィンドスラッシュ】しか使ってこなかったから、【MPアップ】を取ってなかったんだよね。前のレベルアップで慌てて(×4)を取ったけど」
「ま、なるようになるっすよ。──ね、先輩?」
「だな。そもそも小太刀さんの【ウィンドストーム】がなかったら、こうもあっさりジャイアントバイパー七体を攻略できなかったわけだし。小太刀さん様々ですよ。あとはMPの残量を踏まえつつ、進むか退くかは臨機応変で考えていけば」
「えへへっ、ありがとうございます。このまま北東部には、向かいます?」
「ええ。ひとまずそっちに向かってみて、状況を見て進退を検討すればいいかなと思ってます」
「賛成ーっす」
俺たちは第七層初戦の戦利品を回収すると、当初の予定通り、「ダンジョンの妖精」絡みの何かが予想される北東部方面に向かって進んでいく。
ちなみに、宝箱に入っていたのは「毒消しポーション」だった。
消耗なしで、一本追加。
いい滑り出しだな。
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