表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

457/462

第457話 横暴

「おう虫けらども、陛下のためにキリキリ働いてるか?」

「サボっちゃいねぇだろうなぁ、あぁん?」


 抜き身の剣と槍をひけらかしながらやってきたのは、王国騎士の勲章を身に着けた、武装した二人の男だった。


 俺は心の中で舌打ちをする。

 今は騒ぎを起こすわけにはいかない。


「ここの王国騎士さあ、テンプレ悪役っぽいのが多すぎない?」


 俺の隣で、風音がぼやく。

 それには激しく同意。


「ほとんどサハギンと変わらないな」


「あー、分かる。人間の尊厳ってものを、もうちょっとさあ」


「でも人間も一皮むけば、あんなもんなのかもな。人を踏みにじっても(とが)められない立場に身を置いたら、ひょっとすると俺だって」


「えー、そんなことないと思うけどな。ちょっとシニカルすぎない?」


 何しろ俺たち人間は、動物を殺して食べて生きている。

 菜食主義者になろうとも思わないし、植物だって生命だ。


 人は何も傷つけずに生きていくことなんてできない──そういう正論の網に絡めとられれば、思いやりだとか何とかを冷笑するところには、行き着いてしまう。


 なんて他愛もない連想をしているうちに、状況は少し動いていた。


「おいパン屋。今日のパンはいつもより少し小さいんじゃないか、ああ?」


 店先でパンを売っている男性に、二人の王国騎士はケチをつけはじめていた。


 王国騎士の一人が、並べられたパンの一つを手に取って検分しはじめる。

 パン屋の男は怯えた様子で返事をする。


「そ、そんなことは……。いつも通りの大きさでございます。一つ一つ、わずかな違いはございましょうが……」


「いいや、これはいつもより小さいな。どれ、食べてみれば分かることだ」


 王国騎士は、手にしたパンにかぶりついた。

 パン屋が「あっ」と声をあげる中、ムシャムシャとあっという間に食べきってしまう。


 その王国騎士はさらに一個のパンを手に取って、「どう見ても小さいよな。お前も食べてみろよ」と言って、もう一人に渡す。


 もう一人もムシャムシャとパンを食べ、「ああ、これは小さいな。悪質な商売だ」と言った。


 おろおろとするパン屋の男。

 控えめに「あ、あの、お代は……」と聞くと、王国騎士の腕が伸び、パン屋の胸ぐらをつかんだ。


「何だと貴様。陛下のお膝元でこんな悪質な商売をしておきながら、検分をした俺たちにパンの代金まで要求するつもりか?」


「で、ですが……ううっ、分かりました、お代は結構です……」


 がっくりとうなだれるパン屋。

 だが王国騎士たちの難癖は止まらなかった。


「『お代は結構です』じゃねぇんだよカスが。そんなのは当たり前だろうが」


「陛下のお膝元で、悪質な商売をしていたんだぞ。おい虫けら、分かってんのかテメェ? 罰則金、金貨二枚だ。今すぐ出せ」


「そ、そんな……!?」


 周りの人たちは誰も、それを止めに入ったりはしない。

 いや、きっと「できない」のだ。


 圧倒的な武力を持った理不尽な横暴者に、国が権力のお墨付きを与えてしまっているのであれば、覚醒者でもない力なき市民に何ができようか。


「……ねぇ大地くん。これ、黙って見てなきゃダメ?」

「…………」


 震える声で聞いてくる風音に、俺は答えることができなかった。


 ここで騒ぎを起こしたら、せっかくの隠密行動がふいになってしまう。

 いやしかし、あるいは──


 だが、そんな折のことだ。

 決定的な出来事が起こった。


 それは、このとき俺が躊躇っていなければ、防げていた事態だった。


「ふざけるな! 父ちゃんがそんな、わざと小っちゃいパンなんて作るわけないだろ! ウソばっかり言うな!」


 パン屋の入り口前に、一人の少年が出てきていた。

 年頃は八歳か、九歳か、そのぐらいに見える。


「こ、こらカルロ、やめなさい!」


「父ちゃんも、なんでだまってるんだよ! 父ちゃんはいつもパン作りにいっしょうけんめいじゃないか! こんなこと言われて、くやしくないのかよ!」


「い、いいから、やめなさい!」


 胸ぐらを掴まれたままのパン屋が、言葉だけで少年をたしなめる。


 もう一人の王国騎士が、少年のほうへと向かう。

 あっ、と思ったときには、王国騎士が少年を蹴り飛ばしていた。


 少年の体は、まるでボールのように飛びあがり、放物線を描いて地面に落下した。


 地べたを転がった少年は、お腹を押さえてげほげほと苦しみ、嗚咽する。


「カルロ! くそっ、なんてことを……!」


 胸ぐらを掴まれたパン屋は、自分を掴む手を放させようと必死に足掻いたが、彼を掴んだ王国騎士の太い腕はびくともしない。


 腕の主はニヤニヤしながら、少年ともう一人の王国騎士の様子を見ていた。


 地べたでのたうち回って苦しむ少年のもとに、彼を蹴り飛ばした王国騎士がのしのしと歩み寄る。


 ほかの町の人たちからも、さすがに抗議の声が上がったが、王国騎士は取り合う素振りも見せない。


「おい小僧。貴様、陛下の遣いである我ら王国騎士を、嘘つきと呼んだな? それがどういうことだか分かっているのか」


 少年のもとまで歩み寄った王国騎士は、その足を上げ、地べたで苦しみもがく少年の頭を踏みつけようとした。


「ごめん、大地くん──私、もう無理!」


 風音が地面を蹴っていた。

 少年のほうに向かって、あっという間に駆けていく。


 止めるのは間に合わないし、止める気もなかった。

 代わりに、こう伝える。


「風音、瞬殺しろ!」

「──っ! 分かった!」


 そして俺自身も走る。

 パン屋の店主の胸ぐらを掴んでいる、もう一人の王国騎士のもとへ。


「は……? 冒険者だと!?」

「ど、どこから湧いて──いや、さっきからいたのか!? なんで気付かなかった!」


 少年を踏みつけようとしていた王国騎士は、風音のほうへと振り向き。

 パン屋の店主の胸ぐらを掴んでいた王国騎士も、その手を離して、俺に向かって応戦の構えを取ろうとした。


 しかし実質的に不意打ちとなったこの状況で、対応など間に合うはずもない。


「【ミリオンスラッシュ】!」

「【三連衝】!」


 風音の短剣による四連撃と、俺の神槍による三連撃が、二人の王国騎士を打ちのめす。

 その二人は武器を取り落とし、白目をむいて地面に倒れ、動かなくなった。


 風音は、両手の短剣を腰の鞘にしまうと、少年のもとに駆け寄った。

 そして「誰かお医者さんを呼んでください! 早く!」と周囲に向かって叫ぶ。


 近くにいた町の人たちのうちの一人が、「レオナルド先生を呼んでくる!」と言って駆けて行った。


 もちろんパン屋の店主も、少年のもとに駆け寄っていた。

 店主は少年が苦しんでいる姿を見て、心配そうな様子で抱き上げると、風音に礼を言ってから店の中に少年を運んでいく。


 風音はその様子を心配そうに見つめながら、俺のもとへと戻ってきた。


 周囲には、そんな俺たちを見つめる町の人たちの目。


「……ごめん、大地くん。でも」


「いや、俺の判断が遅すぎたんだ。最初からこうしていれば、あの子は傷つかずに済んだのに」


 後悔に苛まれそうになったが、どうにか頭を切り替える。


 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。

 今の問題は、この状況をどう切り抜けるかだ。


 隠密行動の利は、すでに失われてしまった。

 戦闘を行うなどの激しいアクションをとると、【隠密】スキルの効果は自動的に剥がれ落ちる。


 ……どうする。

 ここにいる人たちはみんな、俺たちの味方をしてくれるか?


 確実性を考えるなら、周囲の人たちをすべて気絶させて回るとか。

 それも、やってできなくはない気もするが……。


 いや、賭けになるけど、ここは──


 俺は一つ、大きく深呼吸をする。

 それから周囲の人たちに向かって、こう伝えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
打倒でも宣言するか?
主人公さん、ぼんくらすぎません?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ