第454話 50万ポイント
「「「げっ……」」」
俺たち三人の声がハモった。
メッセージボードにはこう記されていた。
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特別ミッション『レジスタンスに協力して、現国王を打倒する』が発生!
ミッション達成時の獲得経験値……500000ポイント
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50万ポイント、だと……?
一国を相手にすると考えると、そんなものか?
過去に戦った大ボス絡みの特別ミッション獲得経験値は、ヤマタノオロチが25万ポイント、フェンリルが30万ポイント、氷の女王が35万ポイントだった。
正直、25レベルの覚醒者がいくら束になっても、そこまでの脅威になるとは思えないのだが……。
いやでも、五十人だの百人だのを一度に相手にしろと言われたら、さすがに負けうるのか。
俺たち三人の性質を見切られて弱点を突かれたら、敗北する可能性は十分に想定できるな。
俺はしばし、黙考する。
そもそも俺たちは今、何を要求されている?
国を相手にクーデターを仕掛けるから、その手伝いをしてくれと言われたんだよな。
実働戦力は、俺たちを除けばここにいるレジスタンスの八人のみ。
一国を陥落しようとするなら、少なくとも三桁人数の覚醒者を敵に回すことになるだろう。
あらためて考えると、わりと正気じゃないな。
いや陥落すべきは国そのものではなく、国王か。
何も百人を超える王国騎士の軍勢と、正面から戦争をする必要はないかもしれない。
いずれにせよ、あまりにも突飛だが。
とはいえ国がひっくり返るような事態には、俺たちはこれまでにもいくつか関わっているんだよな。
レジスタンスの態度から察するに、俺たちが協力すれば勝算が立つのだろう。
今回の荷物の送り元であるリカルドさんも絡んで、何らかの作戦はすでに計画され、進行しているものと考えられる。
そのリカルドさんに乗せられた感はあるが、もともと経験値以外にあてのない旅ではあるし、特に気にはならない。
となると──
「まずは詳しい話を聞かせてもらえますか。どのような作戦を考えているのか。無謀な作戦であれば、大切な仲間の命を預けたくはありません」
俺はレジスタンスの面々に向かって、そう言葉を返した。
協力するのはやぶさかではない。
手伝ってやりたい気持ちはあるし、特別ミッションという利もある。
問題は具体的な内容だ。乗っかっていいと思えるか。
兵隊として動くにしても、依頼を引き受けるかどうかを考えるにあたって、リスクの判断は必要だ。
俺の問いには、ガヴィーノさんが答える。
「私たち実働部隊が行う作戦はシンプルだ。王都に乗り込み、現国王ベルトルドを打倒。王城を占拠して新政権の樹立を宣言し、現国王派の残党を倒すか王都から追い払う──これだけだ。これさえ果たせれば、あとは概ねアルベローニ伯の仕事だ」
「……っていうと、王都に真正面から殴り込みをかけるんすか?」
弓月の横やりには、クラウディアが答える。
「別に真正面からやり合う必要はねぇけどな。要は国王の首さえ取っちまえばいい。そうだよな、ガヴィーノ?」
「ああ。この国の現状は、国王独裁による恐怖政治だ。理不尽な命令を出す頭さえ潰せれば、指揮系統を失った下部組織は統制を失うと考えられる」
「……っていうのも、単なる理屈だけどな。実際どうなるかは読み切れねぇ。ま、全部を計算ずくで動くってのも無理な話だ。ある程度は出たとこ勝負になるのは否めねぇわな」
最後の発言は、弓使いの優男だ。
彼は肩をすくめて、おどけて見せた。
国王の首を取って、残党を倒すか追い払えば作戦成功、か……。
それだけなら、やれそうな感じはしてくるな。
ワンチャン、俺や風音が【隠密】で敵地に潜り込むだけでも、作戦成功できそうな気もする。
俺はガヴィーノさんに再び問う。
「確認ですが、俺たちが取り組む依頼の達成条件は、『現国王の打倒と、残党の排除』でいいんですよね? その後のあれこれには、俺たちの関与は要求されないという理解で大丈夫ですか」
「ああ。そこから先は我々が為すべきことだ。キミたちに頼みたいのは、現国王を打倒するための助力。そこまでで十分だ。残党の排除も、我々レジスタンスの戦力だけでは手に余るような、大きなものだけで構わない」
ふむふむ。大きなビジョンは見えた気がする。
さて、どうするか──
50万ポイントという獲得経験値を見る限りでは、このミッションには大きなリスクが潜んでいる可能性を想定できる。
ヤマタノオロチやフェンリル、氷の女王といった過去に戦った大ボスたちを超えるほどの脅威度が予想される。
しかしガヴィーノさんたちの話を聞いた限りでは、やってやれないミッションではないようにも思える。
何か情報を見落としているかもしれない。
だが常に100%の情報を前提に事に挑むのは不可能だ。
そして、何より──
俺はこの時、自らの脳裏に、これまでに見てきた二つの光景を思い浮かべていた。
一つは、目の前にいる少女クラウディアが王国騎士たちに取り押さえられ、何もできずに蹂躙されそうになっていたところ。
あの王国騎士たちは、国王の命令でレジスタンスを討伐しに来たのだという。
もう一つは、昨日の村で出会った痩せ細った村人たちと、女の子の姿。
女の子は、お父さんとお母さんがご飯を食べられないから、お金をちょうだいと訴えてきた。
現国王になってから、ありえない水準の重税が課され、人々が苦しんでいると聞いた。
国王が変わる前は、食っていけないほど困窮する家はほとんどなかったという。
つまるところ、諸悪の根源は、現国王だ。
そいつが玉座に居座っている限り、こうした理不尽な状況は続くのだろう。
俺たちがこの依頼を断ったら、彼らレジスタンスはどうなって、この国の人々はどうなるのか──
「変わらない」が答えだろう。
今と変わらず人々は困窮し、飢えによる人死にも毎年少なくない数出て。
そうした理不尽に抵抗する人たちは、先ほどの広場での出来事のように、強大な力によって踏み潰され命や尊厳を奪われるに違いない。
何も変わらない。
俺たちがここで関わらない限り、きっとこの国の状況は、今のままだ。
長期的にはもっと酷いことになるかもしれないが。
もちろん本質的には、いずれも他人事だ。
俺たちには、俺たち自身の命を懸けて、彼らを救う義務や責任はない……はずだ。
俺たちは特別ミッションの奴隷ではないのだから、ゲームのカーソルを動かすようにして、好きな選択肢を選べばいい。
俺たちの好きなようにすればいいんだ。
だから──
俺は両手で、風音と弓月の手を一つずつ握る。
二人は俺の表情を見て、うなずいて見せてきた。
俺もうなずき返す。
それからレジスタンスのメンバーに伝えた。
「分かりました、俺たちで力になれるなら、手伝います」
レジスタンスのメンバーは、歓喜して沸き上がった。
そして善は急げということで、準備が整い次第、作戦が決行されることになった。




