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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第450話 形勢逆転

 状況の変化を見て、少女はその口の端を、にぃっと吊り上がらせる。


 無抵抗を示していた少女が、突然猫のような素早さで動いた。


「チッ……」


 隊長格の騎士が、小さく舌打ちをする。


 完全に支配下にあったと思われた全裸の少女は、あっという間に彼のもとから跳び退っていた。


「遅っせぇよガヴィーノ、それにみんな! あたしもうすぐ、こいつらにマワされるところだったんだぜ」


 そう言って少女──クラウディアが視線を向けた先にいたのは、広場に現れた冒険者たちのうちの一人だった。


 生真面目そうな金髪碧眼の偉丈夫で、重装の防具に、剣と盾で武装している。

 その男は、呆れた様子で言葉を返す。


「あのなクラウ。お前が仲間の集合も待たず、作戦もなしに飛び出していくからだろうが。というか、なんて格好をしているんだお前は」


「あたしのせいじゃねぇ。こいつらが下衆すぎるんだよ。これで騎士様だってんだから呆れるぜ」


 そこに別の男が口を挟む。


「ま、騎士様といったって大半は冒険者上がりだからな。ガヴィーノみたいな根っからの真面目ちゃんばっかじゃねぇってこと。いろんなやつがいるさ」


 弓矢と軽装の防具で武装したその優男は、足元に転がっていた衣服を拾い上げ、全裸の少女に向かって投げつけた。


 クラウディアはそれをうまいことキャッチし、手早く身につけていく。

 衣服は地面の砂ですっかり汚れていたが、気にした風もない。


「だがクラウのような幼子(おさなご)を手籠めにしようなど、風上にも置けぬのは事実。制裁はしてやらねばな」


 また別の、岩のようながっちりとした体格を持った男が、巨大なハンマーを構えて一人の騎士と向かい合う。


「あん? 誰が幼子だよガレリオ。てかそういう問題か?」


 服を着終えて腰ひもを結んだクラウディアは、さらに別の男から投げられた剣を受け取る。


 そして不敵な表情とともに剣を構え、隊長格の騎士に声をかけた。


「さあ、これで八対五、形勢逆転だ。痛い目見ねぇうちに降参したほうがいいんじゃねぇか?」


 クラウディアの言うとおり、その場に現れた冒険者の数は、彼女を含めて合計八人。

 圧倒的優位というほどではないにせよ、人数差は逆転していた。


 隊長格の騎士は、現れた冒険者たちを、眉根を寄せたしかめ面で見回す。


「なるほど、これが貴様らの全戦力というわけか。だがこれしきの戦力で、陛下に抗えるとでも思っているのか?」


「うるっせぇ! 少なくともこの場じゃあ、あたしたちのほうが上だろうが」


「そう思うか。やれやれ、どこまでも愚かだな」


「あん? 何言って──」


 クラウディアが皆まで言う前に、隊長格の騎士は懐から立派な角笛を取り出し、強く吹いた。


 およそ町じゅうに広がるほどの角笛の音色が、響き渡る。


 ガヴィーノと呼ばれた冒険者が、仲間たちに向かって叫ぶ。


「まずい! この場にいる五人を、早く打ち倒すんだ! 増援が来るぞ!」


「なっ……!? マジかよ!?」


 冒険者たちはすぐさま、騎士たちに攻撃を仕掛けた。


 彼らはみな熟練の冒険者であり、騎士たちと比べても遜色のない実力を持つ者たちばかりだ。


 しかし防戦に徹した五人の騎士を、たやすく打ち倒すことはできない。

 てこずっている間に、広場には新たな騎士が次々と現れ、参戦していく。


 戦力差はすぐにひっくり返り、その差はどんどん開いていった。


 騎士はさらに三人、五人、八人と、時を追うごとに増えていく。

 逆に冒険者たちは一人、また一人と打ち倒され、数を減らしていった。


 そして──


「が、はっ……! お、おのれ……」


「くくくっ、反逆の騎士ガヴィーノよ。陛下を裏切った、己の不明を呪うがいい」


 隊長格の騎士の剣が、重装備の冒険者の胸に突き立っていた。

 その刃が、ずるりと引き抜かれる。


「ク、ラウ……すま……ない……」


 別の五人の騎士にも取り囲まれ、すでに滅多切りにされていた彼は、口から血を吐きながら地に倒れ伏した。


「ガヴィーノぉおおおおおっ!! くそっ、放せ、テメェら!」


 クラウディアが叫ぶ。


 彼女は一人の騎士に羽交い絞めにされた上、別の二人の騎士にも同時に取り押さえられ、まったく身動きが取れない状態で生かされていた。


 救援に現れたほかの六人の冒険者たちはというと、すでに戦闘不能となり、意識を失って倒れている。


 もはや彼女の陣営でこの場に立っている覚醒者は、彼女自身しかいなかった。


 そんなクラウディアのもとに、隊長格の騎士が悠然と歩み寄る。


「形勢逆転──だったかね? 罠とも知らずにのこのこ出てきて、愚かなことだ」


「くそっ、騙しやがったな! この人数を連れてきておいて、五人しかいないと思わせて……!」


 今、広場にいる騎士たちは、およそ二十人を数える。

 たったの八人では、もとより太刀打ちのしようなどなかったのだ。


「くそっ、くそっ……! みんな、ごめん。あたしのせいで、全部が台無しに」


 体の自由を奪われ、すべての希望も潰えた少女は、悔し涙を浮かべる。


 もはや彼女には、涙をたたえた瞳で、憎き騎士たちを睨みつけることしかできない。


 クラウディアは隊長格の騎士に向かって吐き捨てる。


「テメェら──国王は、なんでこんなことすんだよ! 国のみんな、重税で苦しんでんだぞ! 満足に飯も食えねぇで、ついには死んじまった人だって、たくさんいるんだぞ!」


「くくくっ、陛下は冒険者には税の優遇をしたではないか。力なき民がいくら死のうが、お前たち冒険者には関係なかろうに。なぜ反逆などしようとした? 俺には貴様らのことがまったく理解できんよ」


「だろうな! これからあたしたちを、どうするつもりだ。ここで全員殺すか? それとも見せしめで火あぶりにでもすんのか? どっちにしたって、化けて出てやるからな!」


「そうだな。貴様と反逆の騎士ガヴィーノは、生きたまま陛下のもとへ連れ帰ることとなっているが──その前に、先ほどの続きといこうか」


 隊長格の騎士が、クラウディアに向かって幾度か剣を振るう。

 少女の衣服だけが斬り裂かれ、あちこち肌が露わになった。


「くっ……! またこんな、くだらねぇことを」


「全裸もよいが、半裸というのも乙なものだろう?」


「下衆が! こんな、いたぶるようなことばっかして、恥ずかしくねぇのかよ!」


「くくくっ、勝者の思うままに(なぶ)られるのが、敗者のさだめというものだ。──ではお前たち、『先ほどの続き』だ。たっぷりとかわいがってやれ」


 隊長格の騎士は部下たちにそう命じると、自らは少女に背を向ける。


 その背後では、彼女を取り押さえた騎士たちの手で、わずかに残っていた少女の衣服が次々と破り裂かれていく。


 やがて地面に押し倒された少女。

 のしかかってくる騎士たちに抗い、力の限りに暴れようとするが、多勢に無勢で取り押さえられた少女に絶望から逃れる余地はなかった。


「ちくしょう、ちくしょう! 覚えてろよ! あたしたちがここでやられても、こんなことはぜってぇ続かねぇからな! いつか誰かが、お前たちを──くそっ、やめろ、やめろよ……いやだ、嫌だぁあああっ、あぁああああっ!」


 少女の怨嗟の声が、悲鳴へと変わっていき──




「──なぁあああああにやってんのよぉおおおおおおっ!」


 そのとき疾風のように駆けてきた黒い影が、少女に群がっていた騎士の一人に強烈なドロップキックを放った。


 その騎士は嘘のように吹き飛んで、ごろごろと地面を転がる。


「ったく、この世界の覚醒者、下衆比率が高過ぎねぇっすか!? フェンリルアロー!」


 さらにどこかから氷の矢が飛んできて、別の一人の騎士が同じように吹き飛んだ。

 その騎士は、転がった先でぐったりと力を失い、動かなくなる。


「まったくもって、同感だ!」


 もう一人、黒い影よりわずかに遅れて駆け込んできた別の人影が、二人の騎士の頭を引っつかんで顔面同士をぶつけて怯ませる。


 しかる後にその二人を、恐るべき力で投げ飛ばした。

 それぞれ片手で、大の大人を無造作に、である。


 投げ飛ばされて地面に転がった二人の騎士は、鼻血を出した顔で、よたよたと起き上がる。

 うち一人はバランスを崩し、再び倒れた。

 もう一人もぜぇぜぇと荒く息をしている。


「……なんだ?」


 隊長格の騎士が、異変に気付いて振り向く。


 そこにいたのは、見知らぬ三人の若き冒険者だった。


「どういう状況か分からないけど、とりあえず、もう大丈夫だからね」


「これで助けた側が悪玉だったりすると困るが」


「この状況でそれはねぇっしょ。先輩は考えすぎっすよ」


 東方人らしき黒髪の冒険者たちは、妙に気楽な調子で軽口を飛ばしながら、少女を守るようにして立っていた。


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