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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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424/451

第424話 港町リモーネ

第421話~423話は登録忘れをしていて、昨日まとめて投稿しました。

すみません。

 夜の(とばり)が世界を覆いはじめた頃。

 船は町の灯りに惹かれるようにして、港へとたどり着いた。


 接舷した船が、陸への渡り板を繋ぐと、乗客が順に下りていく。

 俺たちもそれに続き、港町リモーネの大地を踏んだ。


 そこで、ピコンッ。

 ミッション達成の通知が出た。


───────────────────────


 特別ミッション『カリンとともに明日の船で大陸西部の港町に向かう』を達成した!

 パーティ全員が100000ポイントの経験値を獲得!


 現在の経験値

 六槍大地……5319854/5464572(次のレベルまで:144718)

 小太刀風音……4974536/4987766(次のレベルまで:13230)

 弓月火垂……5206801/5464572(次のレベルまで:257771)


───────────────────────


 10万ポイントの原因は、あのサハギンどもだったんだろうな。


 やはり獲得経験値が大きい特別ミッションが出るときは、それに相応しい何らかの脅威に遭遇すると考えておいた方がよさそうだ。


 運命を司る神のようなものの存在を想像したくなってくるな。


「んんっ、着いたぁ~」


「ここから大陸西部っすか。見た感じ、中部地方とかノーザリアとあんまり変わんないっすね」


 風音がうんと伸びをして、弓月は周囲を見回し感想を口にする。


 港町リモーネの風景は、これまでの町と大きく変わらなく見えた。

 いわゆる中近世ヨーロッパ風の街並みが、夜闇の中、橙色の灯りに照らされ幻想的な色彩を醸している。


 一方では、俺たちのあとについて渡り板を下りてきたカリンに、船乗りの一人が声をかけていた。


「カリンはマンチーニ薬品店に用があるんだったな。たしか向こうの下町の四番地にあったはずだぜ」


「はい。ありがとうございます」


「でも下町に行くなら気を付けろよ。最近マフィアの連中の間でごたごたがあったらしいって、もっぱらの噂だからな。トップがすげ替わったとか何とか」


「マフィア……ですか?」


 カリンは緊張した面持ちで、唾を呑む。


「ああ、あくまで噂だけどな。裏社会で何が起ころうが、俺たちには関係のないことかもしれねぇし。ただまあ、用心するに越したこたぁねぇ」


「わ、分かりました」


 カリンはお金が詰まった布袋を、ぎゅっと握りしめる。

 それを何が何でも守り通すという、固い意志が表情に現れていた。


 それを見た弓月が、俺に訴えてきた。


「先輩、うちらでカリンっちを薬屋まで送り届けてあげないっすか? なんならうち一人でも行ってくるっすけど。夜中に女の子一人ってだけでも心配なのに、今の聞いたらなおさらほっとけねーっすよ」


「ま、そうだな。全員で行くか。風音もそれでいいか?」


「もちろん。反対する理由なんてないし、大賛成だよ」


 どうせ今日はもう、宿をとって食事をして寝るだけだ。

 多少寄り道をしたところで、大した問題もない。


 俺たちの返事を聞いて笑顔になった弓月が、カリンのもとに歩み寄る。


「っつーわけで、うちらでカリンを薬屋まで護衛するっすよ。うちら強いから安心するっす」


「えっ、いいんですか……? あ、でも冒険者に護衛を頼むのは、お金がかかるって……」


「うちらの気まぐれだから、無料サービスっすよ。──ね、先輩?」


 弓月がこっちを見てきたので、俺はうなずいてみせる。

 単に俺たちが心配で放っとけないだけだし、無理に仕事扱いする必要もない。


 何よりまあまあ金持ちの俺たちが、今のカリンの手持ちから報酬をむしり取るとか、あまりにも胸が痛みすぎて無理。


「あ、ありがとうございます! 何から何まで」


 カリンは俺たちに向かって、深々と頭を下げた。


 グリフが弓月の帽子の上で、誇らしげに「クピッ」と鳴く。

 弓月がグリフを胸に抱き「グリちゃんも一緒にカリンっちを守るっすよ」と言うと、もう一回「クピッ」と鳴いて、そこはかとなく胸を張るような仕草を見せた。


「お礼なら私たちも、あらためて言わせてもらうわ」


 そこに護衛の冒険者四人も、船から降りてきた。

 声は弓使いの少女アンナのものだ。


 彼女は続けて、こう伝えてくる。


「サハギンの件では本当に助かったわ、ありがとう。あなたたちがいなかったら、この船に乗っていた全員、今頃どうなっていたことか。──ほらエリオット、あんたからも」


「わ、分かっている、保護者面をするな! ……あ、ありがとう。今回は礼を言っておく。助かった」


 アンナに促されて、金髪の青年エリオットも、照れくさそうにそっぽを見ながらそう口にした。

 アンナは「だからどうしてあんたはそう……」と微妙な顔をしていた。


 さらに猫耳族の少女と魔導士姿の女性も「本当に助かったニャン。ありがとうニャン」「おかげでひどい目に遭わずに済みました~」などとあらためて感謝の意を伝えてきた。


 それから彼女らと別れ、俺たちはカリンが目的とする薬屋を目指した。


 道を進んでいくにつれ、町並みがどこか、うら寂れた雰囲気へと変わっていく。


 下町というよりは、貧民窟やスラムと表現したほうが適切だなと思った。

 道端にはぼろを着た老人が寝転がっている。

 路地裏に潜む、小学生ぐらいに見えるやせ細った子供たちは、俺たちのほうをじっと見つめていた。


 風音がなにげなく視線を向けると、子供たちはパッと物陰に隠れる。

 視線を外すと、またこそこそと俺たちのほうを見てきた。


「ううっ、視線が痛いなぁ……。ねぇ大地くん、どう思う? あの子たち、親とかいないのかな。少し恵んであげたりしたほうがいいのかな」


「そうは言ってもな。キリがないだろうし」


 今の俺たちは、正直そこそこ以上のお金持ちだと思う。

 三人の合計でだが、ゆうに金貨一万枚ぶん以上──すなわち一億円相当を超える所持金をアイテムボックスの中に忍ばせている。


 力もある。

 今後も著しくお金に困ることは、あまりないだろうと思う。


 そんな俺たちがあの子どもたちにつき銀貨数枚ずつでも渡してやれば、彼らは当面の間、お腹いっぱいにご飯を食べられるかもしれない。

 それで俺たちの懐が大きく痛むわけでもない。


 でもそれはどこか(いびつ)だという感覚もある。

 俺たちは彼らの保護者ではないし、今後面倒を見ることもないだろう。

 世界中のすべての貧しい子供に、同じように施しをするわけでもない。


 そう考えると、ひと月ぐらい前か、都市ランデルバーグで出会った孤児院のカレン院長なんかは、すごく立派な人だったんだなとあらためて思う。


 俺たちは──俺はどうだろう。

 彼女のひと欠片でも、立派だと言えるところがあるだろうか。


 今の俺には、常人にはない力がある。

 これだけの力を持っているなら、もっと何かできること、やるべきことがあるのでは。


 大いなる力には、大いなる責任がどうのこうのという、某映画で聞いたフレーズを思い出すが──


 ……ダメだな、この思考。

 ドツボに嵌まりそうだ。

 俺みたいなナチュラルボーン小市民が、身にあまる金や力なんて持つものじゃない。


「じゃあ先輩、這いつくばって拾うがいい、とか言いながら金貨をバラ撒くのはどうっすかね?」


 弓月がうずうずした様子で、そんなことを言ってくる。

 なんでお前はわざわざ悪人仕草をしようとするのか。


 だがそれで、俺は少し可笑しく思って、笑ってしまった。

 そして緊張がほぐれた。


 難しく考えすぎだったかもしれないな。

 俺たちは別に、正義の味方じゃないわけだし。


「そうだな。やるか」

「へっ……?」


 俺の返答に、提案した当人が間の抜けた声をあげる。

 俺はそれにニヤリと笑って返し、


「風音と弓月は、カリンと一緒に先に行っててくれ」


 そう言って俺は、路地裏に隠れた子供たちのもとに突入し、用事を済ませてから風音、弓月、カリンの三人と再合流した。

 俺たちの財布からは、銀貨が15枚ほど消失していた。


 風音が興味津々といった様子で聞いてくる。


「で、大地くん。結局どうしたの?」


「本人たちに選ばせた。『キミたちにチャンスをやる。一人につき銀貨3枚ずつ、欲しければやる。でも自己責任だ。これを受け取ったキミたちがどういう運命を辿ろうと、俺は一切関知しない。これ以上の施しもしない』 五人いたけど、全員受け取ったよ」


「あの歳の子供に自己責任すっか。なかなかえぐいっすね。でもそっすよねー。うちらが恵んだせいで、あの子たちが今後どうなるか分かんねーっすけど、そんなの責任取れねーっすよ」


「そっかー……難しいなぁ。でもどっちにしたってだよね。あの子たちを見て見ぬふりをしたって、それもそれで私たちは『何もしなかった』っていうことを『した』わけだし」


「あとおじいちゃんとか無視したっすよね。あー、考えてたら頭痛くなってきたっす。先輩、責任を取ってうちをぎゅーっと抱きしめて慰めるっすよ」


「何でだ」


「あ、じゃあ私も。大地くん抱きしめて〜♪」


「クピッ、クピィッ♪」


 とまあ、施しをしようが関係なく、いつも通りの俺たちなのであった。


 一方で、そんな俺たちのやり取りを見ていたカリンは「うわぁ……うわぁ……」と口にして、呆気にとられた様子を見せていた。


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