第421話 護衛の冒険者
「やあ。どうやらキミたちも冒険者のようだね」
そう声をかけてきたのは、やや気障な印象の、金髪の青年だった。
髪をふぁさっとかき上げて、白い歯をキラリと輝かせた、決めポーズらしき笑顔を見せてくる。
港町トルネルクを出港した船が、帆に風を受け、大海原を快調に進んでいる中。
甲板で潮風を浴びながら海を眺めている俺たちに、別の冒険者パーティが話しかけてきたのだ。
青年の後ろには、三人の若い女性冒険者が控えている。
年の頃はいずれも、俺たちと同じぐらいか。
青年は剣を腰に下げ、女性冒険者たちは弓や槍、杖などで武装していた。
「あなたたちは、この船の護衛を引き受けた冒険者パーティですか?」
「ふっ、ご名答さ。ま、キミたちは冒険者といっても、所詮は客だからね。船の護衛の仕事は僕たちに任せて、客室でのんびり茶でも飲んでいるといいさ。キミたちの出番はないよ」
俺の問いかけに、青年は肩をすくめる仕草を見せつつ、そう答えてきた。
なんかいちいち所作が大きい人だな。
あと言葉に微妙にトゲがある気がする。
すると彼の背後にいた女性のうちの一人、弓と矢筒を背負った少女が、青年の耳をつまんで引っ張った。
「ちょっとエリオット、感じ悪い」
「痛たたたっ、何をするんだアンナ!」
「『何をするんだ』じゃないでしょうよ。──ごめんなさいね。この人、別に悪気はないのよ。ただちょっと言葉の使い方が劇的に下手くそなだけで」
「アンナ、僕に失礼だぞ。謝りたまえ!」
「まあまあエリオットさん、落ち着いて~。エリオットさんが残念なのが悪いんですから~」
「な、なにおぅ!」
杖を手にした魔導士風の女性が仲裁に入り──って、仲裁になっていないな。
その後、彼らはギャンギャンワーワーと仲間内でコントをやり始めた。
ちなみに、もう一人の槍使いらしき猫耳族の少女は、あわあわおろおろと困惑している様子だった。
この人たちが、この船の護衛か……不安だなぁ。
でも俺たちも周りからはこう見えているんだろうなと、少し顧みたりもしつつ。
やがてコントが一段落すると、弓を背負った少女が、俺たちのほうへと向き直ってこう言ってきた。
「でもエリオットの言うことも一理あるわ。あなたたちはお客さんなんだから、ゆっくりしていてくれて大丈夫。この船の護衛は、私たちの仕事よ」
「一理どころか、僕が言ったことと完全に同じじゃないか!」
「あんたは言葉遣いと態度が悪いのよ」
「なにおぅ!」
「まあまあ、アンナさんの言うことが全面的に正しいですから~」
一段落したと思ったら、また始まった。
ちなみに槍使いらしき猫耳族の少女は、やはりあわあわおろおろしていた。
「なかなかクセ強な人たちっすね」
「そうだね……私みたいな影が薄いキャラとは、わけが違うよね……」
「風音さん。ネガティブキャラでも目指してるっす?」
うちはうちで、いつものやり取りである。
なお風音はそろそろ平常運転に戻ってほしい。
とまあ、そんな出会いがありつつも、船は順調に海を走っていった。
途中から空模様が怪しくなってきたが、船乗りたちの話では、大きな雨にはならないだろうとのこと。
このまま順調に進めば、夜になる頃には、目的地である西の港町リモーネにたどり着くであろうという話だった。
大陸西部の港町まで、一日もかからずに着くのかというと、どうやら着くらしい。
港町リモーネもまた、半島状に突き出た地形の先端部にあり、地図上で見るとトルネルクからの直線距離はさほど長くないのだ。
そんなわけで、今日の朝に出て、夜頃には目的地に着く予定の船なのだが。
もちろんそれは、順調に進めばの話だ。
風の具合などの天候の問題ももちろんあるが──この世界にはもう一つ、人々にとって大きな脅威が存在する。
航海を始めて、行程の半分ほどを進んだ頃のことだ。
そいつらは暗雲の下を航海する船に海中から近付き、我が物顔で甲板に上がり込んできた。
半魚人と呼ぶべき姿をしたそいつらは、槍などの思い思いの武器を手に、船乗りたちを威嚇した。
数は十体をゆうに超える。
「ゲギャギャギャギャ! 運がなかったなぁ人間ども」
「この船のメスと積み荷は、今この時より、すべて俺たちのものとなった」
「オスどもは十数えるうちに海に飛び込めば、命だけは助かるかもしれんぞぉ? それも俺たちの気分次第だけどな。ギャーッギャッギャッギャッ!」
どこか懐かしいとも思える、半人半魚の邪悪な種族。
船に乗り込んできたのは、十数体の武装したサハギンたちだった。




