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第407話 遊撃


──Side:六槍大地──



 雪原を進んできたモンスターの群れの中に、大きなプレッシャーは感じられなかった。

 どうやら「氷の女王」はいないようだ。


 戦闘距離に入ると、覚醒者側から遠隔攻撃が一斉に放たれ、その後に近接戦闘部隊がモンスターの群れと激突した。


 趨勢を見るに、覚醒者側が圧倒的に優位なようだ。

 イエティやフロストウルフの群れが、覚醒者たちの攻撃で、次々と魔石に変わっていく。

 補助魔法(バフ)の効果もあって、覚醒者側の被害はほとんどなく、半ば一方的な展開にも見えた。


 だが一部、そうとばかりも言い切れない局面があった。


 当初、百を超えたであろうモンスター群の中に、それぞれ一体だけ存在した大物──フロストジャイアントとスノードラゴンが悪さをしていたのだ。


 先に前線に出てきたのは、スノードラゴンのほうだ。

 もともとモンスター群の後方に位置していたのだが、空を飛んで前線までやってきて、覚醒者数人を巻き込むブレス攻撃を放った。


 さすがにドラゴンの攻撃ともなると、覚醒者側にもかなりの被害が出る。

 一発のブレス攻撃だけでは戦闘不能者は出なかったようだが、爪や牙による近接攻撃も重なれば、さすがにもたないだろう。


 俺と風音は、フロストジャイアントやスノードラゴンの動きを警戒し、いつでも遊撃に出られるよう構えていた。

 片手間にイエティやフロストウルフを倒したりもしていたが、それはおまけだ。


 俺はスノードラゴンの動きを見るなり、雑魚狩りの手を止め、グリフに騎乗した。

 すぐさま従魔を飛び立たせ、ドラゴンのほうへと向かわせる。


 そのとき、ソフィアさんがスノードラゴンに杖を向けている姿を目撃した。

【フレイムランス】の一発でも撃つつもりか。


 ソフィアさんには悪いけど、正直に言って邪魔だ。

 まかり間違ってトドメを取られて、経験値や討伐数を奪われても困る。


 最近、英雄だ勇者だと持て囃されがちな俺たちだが、経験値のためにあれこれと策謀するみみっちい有り様こそがその実態なのである。


 俺はソフィアさんに向かって叫ぶ。


「あいつは俺たちが! ソフィアさんは雑魚を潰してください!」


 それから二人の相棒に呼びかける。


「風音、弓月!」

「了解!」

「承知っすよ!」


 二人から返事があり、風音はすぐに俺と並んだ。

 グリフに乗って飛行する俺のすぐ隣に、である。


 最近修得した魔法【フライト】の効果で、自力で空を飛んでいるのだ。


【レビテーション】と違い、地面を走るのと同じぐらいの速度で、自由に飛行できる魔法だという。

 地面を走るのと同じぐらいに疲れるらしいが。


 ちらと後ろを見ると、ソフィアさんが杖を別方向──イエティやフロストウルフの群れのほうに向け、魔法攻撃を放ったのが確認できた。


 よーしいい子だ、などと王女様に対して思ってしまうのは、俺もいよいよ驕っているなと感じる。


 従魔を駆って飛ぶ俺と、魔法の力で飛ぶ風音が、空中から地面に降下しようとしていたスノードラゴンに向かって突進する。

 あとコンマ何秒かで接触というところで──


「行けっ、【トライファイア】!」


 後方から弓月の魔法攻撃が飛んできて、目前のドラゴンに直撃した。

 三つの小火球が胴に、翼に、頭部に着弾。


 俺とグリフ、風音の攻撃は、一拍遅れで放たれた。


「くらえ──【三連衝】!」

「クアーッ!」

「やぁあああああっ!」


 魔法の炎を宿した武器による多重連続攻撃が、ドラゴンの巨体を一瞬の間に幾度も貫き、切り刻む。


 雪色の鱗を持つ竜は、その一斉攻撃に何ら対応できず、ほぼ無抵抗に直撃を受けることしかできなかった。


 俺と風音がドラゴンと交差し通過した後、背後では巨体が黒い靄となって消滅し、魔石へと変わっていた。


「なっ……ドラゴンを、一瞬で倒した……!?」

「嘘だろ……!?」

「か、格が……違いすぎる……!」


 覚醒者たちの驚きの声が聞こえてくる。

 だが今は、余韻に浸るときでもない。


「風音!」

「うん、分かってる!」


 俺と風音は飛行方向を、もう一体の大物のほうへと向ける。


 そのもう一体の大物──フロストジャイアントは、巨大な氷の斧を手に、今や前線まで進み出てきていた。


「う、うわぁああああああっ!」


 一人の騎士に向け、フロストジャイアントの氷の斧が振り下ろされる。

 スキルの輝きを宿した斧で、振り下ろしと同時に、V字の切り上げ。


 騎士は盾を構えていたが、そんなものでは到底凌ぎ切れない。

 強烈な二連撃を受けた騎士は、大きく吹き飛ばされて地面を転がった。


 フロストジャイアントの前には、ほかにも数人の覚醒者がいたが、対峙したばかりで交戦はこれからという様子だった。

 巨人の体には二つほど負傷のあとがあったが、いずれも遠隔攻撃によるもののようだ。


「こいつは俺たちが! 皆さんは雑魚を頼みます!」


 俺は再びそう叫んで、目前に迫った、青白い肌を持った巨人に向けて槍を構える。


 速度に勝る風音は一足早く交戦に入っていて、炎をまとう二振りの短剣で、巨人に向かって攻撃を仕掛けていた。


 怒り猛るフロストジャイアントは、風音に向かって斧を振るうが、黒装束に身を包んだ相棒はすんでのところでそれを回避。

 そこに弓月が放った三つの小火球が飛来、巨人の体に直撃する。


「うぉおおおおおっ、【三連衝】!」


 俺もまた、近接戦闘距離まで近付いて、一つ覚えのスキル攻撃を放つ。

 魔法の炎に包まれた神槍による三連撃が、フロストジャイアントの巨体に大打撃を与えた感触があった。

 同時に放たれたグリフの攻撃も、巨人に小さからぬダメージを与えたようだ。


 スノードラゴンと比べても、フロストジャイアントは幾分かタフだ。

 前者は最大HP1200で、後者は1650。

 防御力もわずかに高い。

 俺たちの一斉攻撃を受けても、ただちに消滅することはなかった。


 だが大差があるものでもなく──


「風音さん! 残り157っす!」

「サンキュー火垂ちゃん! それならこれで──トドメ!」


 風音がフロストジャイアントに最接近、炎をまとった二振りの短剣で攻撃を仕掛ける。


 鋭い連続攻撃を受けた巨人は、今度こそ断末魔の咆哮を上げ、黒い靄となって消滅した。


「す、すごい……フロストジャイアントまで、ああもあっさりと……」

「もう何が相手でも、あの三人がいれば勝てるんじゃ……」


 再び上がる感嘆の声。

 だが戦闘が完全に終わったわけでもない。


 俺たちは残存する雑魚モンスターの討伐のため、あちこち飛び回り、標的を次々と撃破していった。


 確認できる範囲のすべてのモンスターが片付いたのは、戦闘開始から一分ほどが経過した頃のことだった。


───────────────────────


 ミッション『フロストジャイアントを1体討伐する』を達成した!

 パーティ全員が50000ポイントの経験値を獲得!


 新規ミッション『ストームジャイアントを1体討伐する』(獲得経験値100000)が発生!


 小太刀風音が59レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……4239854/4550329(次のレベルまで:310475)

 小太刀風音……3894536/4149011(次のレベルまで:254475)

 弓月火垂……4096801/4149011(次のレベルまで:52210)


───────────────────────


 ミッションを一つ達成して、風音が1レベルアップ。


 ドラゴンとジャイアントの討伐数も1体ずつ追加だ。

 これまでのドラゴンの討伐数は全部で5体、ジャイアントの討伐数は6体となり、ミッション「ドラゴンを10体討伐する」(獲得経験値25万)と「ジャイアントを10体討伐する」(獲得経験値10万)の達成に一歩近づいた。


 そうしてモンスターの軍勢を撃退した討伐部隊は、吹き荒れる吹雪の中、さらに先へと進んでいった。


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― 新着の感想 ―
異世界という環境と経験値山程入るシステムのせいで効率厨に堕したか… そのうち現実感を喪失してゲーム感覚になりそうな感じ 流石にここまで欲に酔った主人公は見るに耐えませんね。 返信は不要です。もうブクマ…
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