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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第406話 集団戦闘


──Side:ソフィア──



“紅蓮の姫将軍”と謳われる王女ソフィアは、杖を前方に向けて掲げながら、迫りくるモンスターの軍勢を鋭く見すえていた。


 雪原を進み来る、百を超えるモンスターの大群。

 その構成は、イエティとフロストウルフ、それにフロストスカルが2:2:1程度のようだ。


 体長三メートル近くもある雪男の姿をしたイエティや、馬ほどの大きさを持った白狼姿のフロストウルフは、かなり強い部類の侮れないモンスターだ。

 25レベルの熟練覚醒者にとっても、一対一ならばどうにか勝てる、二体を相手にしたら敗色濃厚といった塩梅の難敵である。


 冷気をまとい宙に浮かぶ頭蓋骨といった姿のフロストスカルは、その二種類と比べるとやや劣るが、遠距離から魔法攻撃を連発してくるためなかなかに厄介なモンスターだ。

 よほど魔力が高い者でなければ、抗魔の指輪を装備していても十発ももたずに戦闘不能に陥らされるほどの攻撃力を持っており、数が揃うとまずい相手だ。


 それらの強力なモンスターが、百体以上の群れを成している。

 通常は考えられない規模の大軍勢である。


 しかもその中には、ドラゴンや巨人が混ざっているというのだ。

 百人ほどの熟練覚醒者を揃えたこの討伐部隊をもってしても、正面衝突すれば甚大な被害を免れないほどの強大な敵集団である。


 だがソフィアたちがこのモンスターの群れをどうにかできなければ、都市レゼリアが蹂躙される可能性が高い。

 逃げるわけにはいかないのだ。


 そういった、悲壮かつ決死の戦いになる──本来ならば、それほどの相手であるはずだったのだが。


 その前提は、たった三人の英雄たちの助力によって、根本から瓦解していた。


「んー、『氷の女王』はいないかな?」


「それっぽいな。それなりに大きいプレッシャーを放っているのは、スノードラゴンとフロストジャイアントだけだ」


「んじゃ、楽勝っすね。とりあえず挨拶から行くっすよ──【エクスプロージョン】!」


 魔導士姿をした童顔の少女が、群れを成して駆け寄ってくるモンスターどもの一角を、爆炎魔法で吹き飛ばす。


 爆炎がやんだあとには、効果範囲内にいたイエティとフロストウルフあわせて六体ほどのモンスターがすべて消滅して、魔石へと変わっていた。


「イ、イエティやフロストウルフを、【エクスプロージョン】の一撃で……!?」


「ソフィア様でも、あれほどの威力は……これが英雄の力か……!」


 ソフィア旗下の騎士たちから、驚きの声が漏れる。

 話題に出されたソフィア自身はというと、「は、ははは……」と乾いた笑い声を発していた。


 ソフィアが“紅蓮の姫将軍”の異名で呼ばれるのは、王女という地位や鮮烈な赤髪だけが理由ではない。

 彼女が操る火属性魔法の威力が、他を圧倒していることも大きな理由の一つだ。


 魔導士として恵まれた魔力特化のステータスを持ち、25レベルまでに修得できる火属性の魔法もすべてマスターしている。

 その力は、たった一発の【エクスプロージョン】でフロストスカルの群れを殲滅できるほど。

 このノーザリア連合国、随一の火属性魔法の使い手として、ソフィアの力は知れ渡っていた。


 だがそんなソフィアの力をもってしても、イエティやフロストウルフの群れを一撃で殲滅することなど、到底できはしない。


 圧倒的な基礎魔力の差。

 普段は他を圧倒する側であるソフィアが、今はそれを味わわされる側となっていた。


「頼もしいですが、嫉妬心は否めませんね──【エクスプロージョン】!」


 ソフィアは苦笑しつつ、自らも同様の魔法攻撃を放つ。

 掲げられた杖の先から放たれた火球は、モンスターの一群を包み込む爆炎を巻き起こした。


 爆炎に巻き込まれたイエティやフロストウルフ、計五体ほどは、その全身から黒い靄を著しく漏らしながらも、消滅することなく前へと進んでくる。

 そこにさらなる攻撃魔法が幾重にも重ねて放たれ、それらのモンスターはようやく消滅し、魔石へと変わった。


 だがその後ろから、無数のモンスターの群れが進み来る。


 ほかにも傭兵隊長ヴィダルによる凄まじい威力の【アローレイン】をはじめとして、幾多の遠隔攻撃でモンスターの数が削られたが、それでもまだ大多数は残存していた。


 そこに近接戦闘を得意とする覚醒者たちが、雄叫びをあげて突撃していく。


 数はほぼ五分と五分だろうか。

 通常であれば、かなりの苦戦が予想される戦力比だが──


 モンスターの群れと、覚醒者の集団が激突する。

 趨勢は、すぐにはっきりとした。


 戦いの優位を示す天秤は、圧倒的に覚醒者側へと傾いていた。


「すごいな、この体の軽さは──これならば!」


「ははっ、何だこりゃ。イエティがたったの二発で落ちやがる!」


「ぐあっ……って、あれ? あんま痛くねぇな」


「おいおいおい、これだとイエティやフロストウルフも雑魚じゃねぇのか?」


 三人の英雄たちが行使した、広域を対象とした補助魔法(バフ)の影響力は、凄まじいの一言だった。


 風属性魔法【クイックネス】。

 火属性魔法【ファイアウェポン】。

 土属性魔法【プロテクション】。


 これらの補助魔法(バフ)は、使用者の魔力に応じて、効果の大きさも変化する。

 英雄たちの高い魔力で行使された強力な補助魔法(バフ)の効果が、百人からなる部隊の全体に与えられているのだ。


 それは【エリアクイックネス】【エリアファイアウェポン】【エリアプロテクション】といった、一般の覚醒者が初めて聞く種類の魔法によって為された、恐るべき偉業であった。


 強力な補助魔法(バフ)の影響を受けた覚醒者たちは、敵よりも圧倒的に優位な攻撃力・防御力・敏捷力をもって、大したダメージを被ることもなくモンスターを次々と撃ち倒していく。


 だがその力にも、一定の限界があった。


「──ぐわぁあああああっ!」


 前線で戦っていた騎士の一人が、巨大な岩塊の直撃を受けて吹き飛ばされた。

 その騎士は地に投げ出された後、苦しげな様子でよろよろと立ち上がる。


 治癒魔法の使い手が、急いで回復を試みる。

 一撃で戦闘不能にまでは至らなかったため、どうにか戦線への復帰は可能そうだ。


 岩塊は、モンスターの群れの後方にいる巨人が投げてきたものだった。

 巨人はその一度の投擲攻撃の後、巨大な氷の斧を手に、地響きを鳴らして前進してくる。


 また別の場所では、複数の覚醒者たちの悲鳴が上がった。


 モンスター群の後方から飛来したドラゴンが、氷のブレスを吐き出して、その場に集まっていた数人の覚醒者たちをまとめて薙いだのだ。


 ブレス攻撃を受けた覚醒者たちも、それ一撃で倒れることはなかった。

 だが甚大な被害を受け、いずれも青息吐息の様子。


 こちらも治癒魔法使いが慌てて治癒に取りかかっていたが、追いつくかどうかは危うい。


 というのも、空中からブレス攻撃を行なったドラゴンが、被害を受けた覚醒者たちのもとに舞い降りようとしていたのだ。

 爪や牙による追撃を受ければ、彼らはあっという間に戦闘不能に陥らされてしまうだろう。


(まずい……!)


 ソフィアはドラゴンのほうへと杖を向け、体内の魔力を高めていく。


“紅蓮の姫将軍”の異名を持つソフィアの【フレイムランス】ならば、ドラゴンが相手であっても小さからぬ打撃を与えられるはずだ。


 それも相手は、火属性が弱点のスノードラゴン。

 十発も撃ち込むことができれば、ドラゴンとて撃ち倒せるのではないか。


 前衛が持ちこたえてくれている間に、どうにか少しでもダメージを与えて──


 そう考えていたソフィアの耳に、一人の青年の声が届いた。


「あいつは俺たちが! ソフィアさんは雑魚を潰してください! ──風音、弓月!」

「了解!」

「承知っすよ!」


 二人の女性の声が応じたかと思うと、ソフィアの視界にグリフォンに乗った甲冑の青年と、黒衣をまとった黒髪の若い女性の姿が舞い込んでくる。


 二人の英雄は空を飛び、地面に降下しようとするドラゴンへと向かっていった。


「──って、空を、飛んでいる? カザネ様も???」


 グリフォンに二人乗りをしているわけではない。

 黒衣の女性──カザネは自ら自由に空を飛び、ドラゴンに襲撃を仕掛けようとしていた。


「な、なんでもアリなんですね……はは、はははっ……」


 どうやらドラゴンは、かの英雄たちに任せておけば大丈夫そうだ。


 ソフィアは言われた通り、イエティやフロストウルフ、フロストスカルといったモンスターの群れの殲滅に力を注ぐことにした。


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